第2話


「何がしたいの」


「やっとだよー! ずっと無視してくるからすっごい傷ついたんだけどー!」


「そう」


 放課後に教室に残って本を読むボッチがそれほど面白いだろうか。部活をする気力などなく、学校がバイトを禁止して、家に帰りたくない私が時間を潰すにはここに居るしかない。

 前の席に勝手に陣取ってずっとこちらを見続けていた彼女が笑っている。言葉こそ不満を述べているが、彼女の言葉に不満などはない。あったところで私には関係のないことだけど。


「悪いけど、忙しいの」


「本、読んでいるもんね」


「そうね」


 本を読んでいるだけじゃん、と言わない彼女はきっと優しい人。本を読んでいることが時間を潰していることではない。大切な時間を用いて本を読む人だって多く存在している。まあ。私は時間を潰すためだけに本を読んでいるけれど。


「でもねー? うんとーえとー」


「言葉に出来ないなら、できるようになってから話しかけてもらえるかしら」


 できれば私にも理解できる言葉で。


「友達になりたいなーって」


 私の願いが聞き届けられることはないらしい。


「私と貴女が?」


「うん」


「どうして?」


「なんとなく?」


「それでは駄目よ」


「……本当はね。手が綺麗だなって」


「私の?」


「うん」


「そう」


「照れた?」


「いいえ」


 褒められ慣れてはいない。手が綺麗だとも初めて言われた。適当なことを言っているように思えないけれど、たかが十数年しか生きていない私の経験からくる勘ほどあてにならないものはない。


「でも、ありがとう」


「やっぱり照れた?」


「いいえ」


 本に目を落とす。

 まだ何か言われるかと思ったけれど、彼女は何も言わずにその場をあとにした。


 やっぱり、私の勘ほどあてにならないものはない。

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