15. 同じ夢のようです
「……という夢でした」
「……赤ちゃん、無事じゃなかったのね」
1時間近く夢の内容を語ってくれたダリアは、私の方を見ては申し訳なさそうにしていた。
きっと、今の私は他人に見せられない顔をしていると思う。
あの時、無事に産んであげられなかった。それが悔しくて、悲しくて……。
言葉にするのは難しいけれど、複雑な気持ちだ。
「はい。申し訳ありませんでした」
「夢の中のことなのよね? どうして謝るのかしら?」
でも、この気持ちをダリアにぶつけることなんて出来ない。
ダリアは私のために尽くしてくれているのだから。それに、今の私達はまだ命を失っていないのよね。
記憶の中では大切なものを失っているけれど、これは今の人生で失敗しないための道しるべだと思えば……少しは気持ちも楽になった気がする。
それに、ダリアを悲しませたくは無いから、今は前向きに考えようと思った。
「この夢は、どうにも現実のものとしか思えなかったのです。そうですね、正夢かもしれませんが、これは夢ですよね」
「ええ。この夢が現実にならないように、今は情報を整理しましょう」
「夢の出来事を信じるのですか?」
「何かの手掛かりになるかもしれないもの」
オズワルド様との婚約は解消されたけれど、このタイミングでダリアが前回の人生の夢を見たことには何か理由があると思う。
例えば、婚約者が居なくなった私の力を残そうという意見が出て、誰かと婚約させられるとか……。
お母様が反対するとは思うけれど、王命になってしまえば逆らえないのよね。
「そういえば、夢の中ではオズワルド様のご両親が居ませんでしたが、サーシャ様は何かご存じですか?」
「表向きは隠居だけれど、家督を継いだオズワルド様が領地から追い出したのよ。裏切られるとは思っていなかったのよ、きっと」
「そんなことになっていたのですね。助けが無かった理由も納得しました。
しかし、オズワルド様も赤ちゃんのことを楽しみにしていた様子だったのですが……」
「そういえば、そんな様子だったわね……」
この違和感を夢だから、という理由で片付けられない気がするのは、私だけかしら?
常識的に考えたら、食事を抜いていたら無事に産まれないことくらい分かるはず。
考えられるのは、私の治癒の力が過信されていたか、食事を抜いたのはオズワルド様以外の誰かの二択。
「……多分、私の治癒の力を信じられていたのよ」
「その可能性は十分に有り得ますね。しかし、リリア様が侍女に介入していたので、リリア様の仕業の可能性もありそうです」
「言われて見れば、オズワルド様は使用人に全く関心を持っていなかったわね。
……その両方のせいで私は死ぬことになったのね」
「恐らくは。
今はオズワルド様との縁は切れているのですから、リリア様を警戒した方が良さそうですね。何か恨んでいるようですし」
「そうするわ」
とりあえず、今後の私の方針は決まった。
リリアを警戒しながら学院を卒業する。
学院を卒業しておけば、結婚しなくても十分生きていけるのだから。
正直、結婚はもうしなくても良いと思っていたのだけど、無事に子供を産んであげたい気持ちもある。
お母様達は私の子を見たいと思っているはずだから、誰かしらと婚約はした方が良いのよね……。
でも、すぐに逃げ出せるように、領地が近い家のお方が良いわね。
選択肢が少ないから、この夢は叶わないかもしれないけれど。それに、愛人を作らないことは絶対だから、結婚なんて無理そうだ。
うん、泣きたい気分だわ……。
「ところで、あの矢は私を狙っていたのでしょうか?」
「証拠を握っているのだから、狙われて当然よ。侍女の命をなんとも思っていない貴族は大勢いるから」
「そうでしたね。サーシャ様達がお優しいので、感覚が狂っていました」
「私はダリアのこと、家族だと思っているから。暴力なんて振るえないわ」
「サーシャ様にお仕え出来るなんて、私は幸せ者ですね」
突然ダリアが泣き出してしまって、どうしたら良いのか分からない私はハンカチを差し出すことしか出来なかった。
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