第87話 「親バレ」
「父が無理を言ってしまい申し訳ありませんでした」
「何も謝る必要なんてないよ?俺はすごい楽しかったからね」
帰りの車中では頭を下げる紗耶香さん。
「いえそうは言いますが、やはりいきなり他所の父と一緒というのは気が引けるものですし」
「いやいやすごい気さくに接していただいたから大丈夫だよ、すごい娘思いのお義父さんだったね」
「それは……そうですね、時には厳しくもされますが、すごい大事にはしてくれてるとは思います」
「そうだよねわかるわかる」
お義父さんの会話の節々からすごい愛情をかけてることは感じられた。俺と美桜ねぇがじいちゃんに育てられみたいなそんな暖かさお義父さんもあった。
「……な、なにか父は他に私のことで言っていませんでしたか?」
少し言いづらそうに聞いてくる紗耶香さん。
聞きたくないけど聞いておかないといけない、そんな雰囲気がある。
「ほかに……って、たとえば?」
「……例えば私が幼少期の話、とか、そういった類のことです」
幼少期で変なこと?
うーん
「いや変なことはおっしゃってなかったよ?」
「そうですか……その割にはお風呂が長かったようですけど」
「確かにちょっと上せるくらいだったしね。でも普通の会話しかしていないけどなぁ、思い当たる節はないけどなぁ」
そんな言われて恥ずかしいことなんて。
「ならいいんですけど……」
「紗耶香さんの生まれた時の写真とか、幼稚園で転んで泣いているときの写真とか、あとは初めてのピアノの演奏会で賞をとったときのやつなんかも見せてもらったかな?」
「全然あるじゃないですか。……あれだけ変なこと言わないでって言ったのに」
もういや、と紗耶香さんが赤面して顔を手で覆っている。
「旦那様は隙あらばお嬢様の昔の写真とかを自慢し始めますからね」
黒川さんも運転しながら苦笑している。
お義父さんのあれはいつものことらしい。
「ピアノのやつを見た時は、改めて感極まってたよ」
「あんな昔の稚拙な演奏消してほしいのに!」
「俺はよかったと思うけどね」
少なくともピアノが弾けない俺よりも全然うまいしあんなのできる気もしなかった。
なんかぐっと来たよぐっと。
「……父はすぐに私の昔の恥ずかしいことを話すんですから」
少し恨めし気に話す紗耶香さん。
「それだけ可愛いんでしょ、可愛いからこそ自慢したくもなる」
「そうでしょね。今でこそ落ち着いていますが、一時期の旦那様の紗耶香様への過保護っぷりはすごかったですからね」
「過保護っぷり?」
「ええ、お嬢様の幼稚園などに行くのにSPを5人以上配置したうえで車ももちろん防弾ガラスにしており、それこそ運動会などでは会場をずらりと警備のモノがいて、学校側に注意されたくらいでしたよ」
お、おぉ……。
お金持ちが過保護になるとやばいんだな。
「まぁそれもお嬢様が誘拐とか狙われやすい立場にあったというのもございますけどね。ただそれを企てたものは地獄ですらも生ぬるいというようなことになりましたが」
「地獄ですらも生ぬるい……?」
「聞きたいですか?」
黒川さんのバックミラーに映る笑顔が怖い。
「いえ大丈夫です」
聞かない方がいい気がする。
「でもそんな過保護っぽかったのに今は良き父親ってくらいで止めててすごいね」
「友達などもある程度間引いたりしようとしたために、奥様の一喝がありまして」
確かにお義父さんも言っていたな、千尋さんが怒ったら怖いって。
「奥様が、【娘の未来を狭めるおつもりですか?】と諭したそうです」
「千尋さんすごい男前、いや女前か?」
「その時のことは私も覚えています、威風堂々と歩く父もその時は少し肩を落としていた気がします。……まぁそのせいで別の父の悪癖が悪化したんですけどね」
「悪癖?」
悪癖なんてあるんだね。少なくとも昨日は出していなかったのかな?
「父はより母への愛情ぶりが過多になり、過保護なのはもちろん家でもべたべたと娘の前でも関係なく愛情表現をするようになりました」
何度もそんな様子を見てきたんだろう、辟易とした様子の紗耶香さん。
ああそういう、なら随所に見たなそれは。
「確かに今日も愛妻家って感じはしたよ」
「いえ今日なんて義理の息子がいるまえだからかほとんど遠慮してたくらいですよ?」
「えっ」
「自宅ではもっとすごいです、常に腰に手を回してますし」
今日はそんなことなかったな。
「愛妻家なのはいいことですが、限度というものを弁えてほしいです。母も自分に来る分には何も問題ない、と受け入れているからどうにもできなくて……」
確かに四六時中家で親がべたべたしてたら胸焼けする気持ちはわかるかもしれない。
俺も思春期とかで親のそういうのは何とも言えない気まずさを感じそう。
「…………な、仲が悪いよりはいいよね!」
「そうなんですけどね」
それも紗耶香さんはわかっているらしくそっぽを向いた。
話題を変えるためか紗耶香さんが話し出す。
「そういえば一つ分からないのですが……」
「はい?」
「父がお風呂上りにこっそりと私に、【恭弥君のはすごい立派だから負けないように】と言ってたんですが……」
「ごふっ」
思わずむせた。
娘に何を言ってるんだ、お義父さんは。
「なぜ父はこそっと言ったんですかね?堂々と言って恭弥さんのことを認めたといえばいいのに」
言われたも困るけどねそんなもこと。
というかこれもしかして……
「私も恭弥さんに負けないように日々学業とか仕事などを精進しなさいって意味だと思うんですが、あんな言い方するでしょうか?なんか含みがあるような気がして……」
なるほど?
紗耶香さんはどうやら勘違いしてるっぽいな。
多分ねお義父さんはそういうことを言ったわけじゃない。
ポイントは【お風呂上り】と【恭弥君
ただそうだなこの勘違いは訂正しないままの方が……
「お嬢様」
「なにかしら黒川」
「旦那様がおっしゃった意味は多分違いますよ?」
「え?そうなの?」
あれかもしれない。結構紗耶香さんは素直な人なのかもしれない。
「はい、多分旦那様がおっしゃったのはお風呂場で見た恭弥様のご子息が大変立派だったから頑張りなさいよ、ということでございます」
「恭弥さんのご子息……えっ」
振り向いて、俺の下の方を思わず見る紗耶香さん。
ついで、俺の視線に気づきはっと顔を背ける。
「申し訳ございません!セクハラまがいのことを聞いてしまい」
赤面して慌てて話し出す。
「だから父はこそっと………あぁっ!!すぅぅぅはぁぁあ」
深呼吸して心を落ち着けようとする紗耶香さん。
なんとも俺もいたたまれない。
「……穴があったら入りたいです」
「そうでしょうね」
「黒川?!」
「先ほど無理やりお風呂に入れたお返しですよ」
「そのお返しが何倍返しにもなっているんだけど!」
「そうですか?」
紗耶香さんの怒りにもどこ吹く風と受け流す黒川さん。
「……もういいです、それとこのままだと私が恥をかいて終わりですがそうはさせません」
なんかくらい決意が横で聞こえた気がしたんだけど。
「……それで恭弥さんのご子息は本当に立派……なんです?」
「えっ?!」
思わず紗耶香さんの顔を見れば、赤面して目も微妙に視点があってない。
あ、これあれだ。死なば諸共みたいな自爆テロだ。
「ご立派……なんですか?」
追い打ちまで来たんだけど。
いや巻き添えを悪いけど食らうわけにはいかない。
「…………ふ、普通、だと思うけど?」
「そうきますか……じゃあ
あれ?花咲凛さん?
前は佐藤さんって呼んでた気が……
まぁ花咲凛さんに聞いてもなにも……
「……普通なんてものではありませんね、立派どころかあれは凶器ですよ凶器」
「花咲凛さん?!」
「いややはり許嫁の方に教えて、って言われたらそれはお伝えしないと。それにキョウ様のあれをいきなり味わわされたりしたら死んじゃいますからね心構えは大事です」
黒川さんの隣に乗ってる花咲凛さんが俺を裏切った。
「搾精している花咲凛さんが言うのだからそうなんでしょうね、ですが凶器とは、怖いですね」
次に赤面したのは俺だった。
巻き込まれ事故も甚だしいぞこれ。
というか俺のご子息についていうならさぁ
「凶器っていうけど、俺なんども花咲凛さんにはいいようにされてるんだけど!!」
何度負けて見下ろされたことか。
「メイドですからね。そういうのは従者としては当然です凶器位扱って見せないと……ギリギリまだ扱えますがキョウ様も成長期ですからねここからですよ大砲になっていくのは。黒川さんでもできるんじゃないですかね?」
「確かにそうね、メイドや執事は当然できるものなのねやはり、今度黒川に手本を示してもらいましょうかね、恭弥さんで」
「花咲凛さん?!お嬢様も?!」
車内では紗耶香さんの自爆テロの被害者がどんどん増えていく。
最終的には全員が過多で息をし、赤面する羽目になった。
にしても、意外と初心いんだな紗耶香さんは。
自宅に着くころには温泉で疲れをとったはずなのに全員がまた疲労を感じていた。
早く寝たい、そんな気分だ。
「……もう着きます」
黒川さんの声にも覇気がない。さっきの会話の影響かもしれない。
車を手前で止める直前、うちの家から見知らぬ男女が出てくるのが見えた。
年は50台に近いのか、オールバックの髪には白髪が入り混じっている。
その少し後ろには女性が後を追っている。少し気弱そうな感じだ。
……顔が少し険しく、雰囲気も剣呑な感じがする。
大股で家から遠ざかり止まっていたタクシーに乗り込む二人。
なんか不穏な感じがする。
「なにかあったんですかね?」
「行ってみましょう」
「私は車を置いたら向かいます、3人は先に。花咲凛さんがいれば大丈夫ですよね?」
「ええもちろん」
黒川さん以外の3人で家へと向かう。
玄関を開ければ、困惑して少し怯えた様子の橘さんの姿。
お茶を入れようとでもしてたのか、それがこぼれてあたりに飛び散っている。
手も心なしか震えているかな?
「どうしたの?大丈夫?橘さん」
いつもより優しさを意識してゆっくりと声をかける。
「あ、
ぱっと見挙げた顔には確か脅えがあった。
肩に触ったときもびくりとしていたし。
「怪我とかはない?」
「う、うんそういうのは大丈夫だよ」
「ならよかった」
とにもかくにも状況が分からないとどうしようもない。
「……それでなにがあったの?話せる?」
「う、うん実は──」
橘さんが話そうとしたタイミングで別の声が横から聞こえてきた。
「──うちの両親が来たのよ」
リビングのドアの前では不機嫌さを隠そうともしない秋月さん。
「どこからか私が彩香と付き合っていることを知ったらしくてね……それでなんだけど」
彩香さんはそこで言葉を切り、こちらに目線を向けた。
「あなた、私の親に、彩香とのこと関係……言った?」
剣吞な目をした秋月さんが俺を睨みつけていた。
どうやら呑気に寝てなんていられないらしい。
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鋭いコメントがあって作者びっくり。なんでわかったんだろうか笑
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