第78話 「ドS女教師の事情と大人の誘惑」


 「……莉緒言ってないらしいんだよね、私っていう恋人がいること」


 「えっ……」


 そうなってくると話は変わってくる。


 「何か話せない、特別な理由でもあるんですか?」


 「うーん詳しいことは聞いてないから……ただ予想はできてるわある程度はね~、話すけどこれはあくまで私の予想も含めての話なことは覚えておいてね? 今度恭弥君があの子の親に会ったときに変な先入観をいだいてほしくないもの」


 ほんとは予想も言わない方がいいけど。それはさすがに生殺しだものね、と続ける白石さん。

 ここでお預け食らったら夜も眠れなくなるかもしれない。


 「え、ええわかりました」


 「……今日ご飯とか勉強とかしてきてて、その時々の莉緒の仕草みたいなものが上品だなぁって感じることはなかったかしら?」


 思い返してみればあったなな。

 どことなく気品を感じさせるような感じ。

 きれいにご飯を食べる仕草、みそ汁の飲み方、礼儀正しい姿勢、コップを両手で持つ、とかそういう何気ない仕草に現れていた。


 「……そういえばありましたけど……それが何か関係あるんですか?」


 それがどう関係してくるのかわわからない。


 「莉緒ってかなりちゃんと教育されてきたと思うの。家柄、っていうのもあるんだろうけどね? 莉緒ってああ見えて習い事なんかも結構やってたらしいわ」


 茶道とか華道とか、そういうのね、と付け加える。

 

 「家族の思い出話とかを聞いてもね、なんというか、考え方がかなり古風っぽい感じなのよ」


 「古風……ですか?」


 「ええ、例えば妻は旦那の3歩後ろを歩くべき、とか女が家事をして男が外で働く、とかそういうのをいまだに考えててる感じ」


 ……確かにそれは今どきの多様性、みたいな考え方じゃないな。

 だってそもそも男子の方が少なくて、時代はまさに女性が主役、って時代だから。


 「女性は女性らしくあれ、とか。まぁ簡単に言っちゃえば頭が固い感じっぽいなのよ。莉緒は進路とか趣味とか友達とかそういうものも親に決められてきたみたいなことをこぼしてた」


 「それはなんというか……」


 すごく生きづらそう。


 「だからそんな考えもあってか昔から男性に、将来の旦那に対して奉仕するのが良妻の務めである、みたいなことも教えていたらしいわ」


 「……なるほど」


 「だからそんな教え方をされてきた莉緒にとっては女性と付き合うっていうことは一種の両親への反抗心みたいなところもある気はしているのよねー」


 反抗心かぁ。

 でもそれじゃまるで……


 「でも当てつけのために白石さんと付き合っている、みたいなことになっちゃうじゃないですか。さっきの秋月さんの様子見てましたけど、そんなことはないんじゃないですか?」


 ちゃんとすいている感じはしていた、情愛、なのかはわからないけれど。

 でも大事にしていることは間違いなく会った。


 「紛らわしいことを言ったわね、そんな憂うような顔をしないで? 莉緒は計算してそんなことをできる子じゃないから。大事にしてくれているのはわかっているわ、ただあくまでそういう気持ちも無意識に深層心理にはあるんじゃないかな、ってこと」


 殊更に笑顔を浮かべる白石さん。


 「でも両親に対してそんなことは言えないのよ、だって男性に対して両親に対して意見していいなんて、そんなこと教えられてこなかったから。莉緒はいい子だから律儀に守るのよ、私みたいな悪い女、とは違ってね?」



 いい子……か。

 それはいったい誰に対してのいい子なんだろう。

 

 「……反抗の仕方を知らない?みたいなことですか」


 「そんなとこ。こう聞くと莉緒の両親がすごく悪く聞こえるかもしれないけどね、別に彼女の両親も悪い人なわけじゃないのよ? 政府から許嫁制度の話があって血筋としても、恋人がいないと思っている彼女にとってもすごくいい話だと思ったから伝えただけなんだから」


 それは彼女の親が、理想とする娘の幸せ、なわけで。

 きっと秋月さんの思う幸せの形じゃない……そう分かっているなら、断ればいい。

 そうは思う、だって俺はそういう生き方をしてきたから。自分でなにもかも決めてきたから。


 「莉緒はいい子だから、さ。……拒否権ももちろんあったと思う、でもね彼女は優しいから、親が良かれと思ってやったことを断れなかったのよ」


 うーん、そう……か。納得はできないけど理解はできる。

 彼女の両親も悪意があってやってるわけじゃない、むしろ善意でしかない、親心でしかない、ってことか。


 「そんな自信と親の気持ちを案が得た結果が今の、全てが中途半端……ってことですか」


 「あら存外厳しいのね恭弥君」


 少し意外そうに俺の顔を見る白石さん。


 「俺は優しくないですからね、どっちが自分にとってよいか考えちゃいますから」


 「合理的ね~」


 「育ててくれた人がなんでも自分で責任をもって決断するように教えてくれたもので」


 状況が許してくれなかったっていうのもあるけどね。

 だから俺はじいちゃんとかに教わったことを曲げてでも許嫁制度を選んだ。だってじいちゃんの言う通りにしてたら姉さんを救えなかった、から。

 だから後悔はしていない。


 「ほんと真逆の教育方針みたいね」


 「白石さんはどんなご家庭だったんですか?」


 「え、私?」


 うーんと一度上を仰ぎ見て……


 「そんな特筆して話すこともないかなぁ、莉緒みたいに名家でもないしね、でもそうね……」


 その時だけ彼女は一瞬笑みを消した。


 「そろそろ会おうかな、っては思っているわー私もね」


 「そうなんですか……」


 「……脱線しちゃったけど、それで彼女は許嫁制度を受け入れたのよ、私もそんな板挟みなのを聞いたし、受けたらーって言ったわけ」


 「白石さんの後押しもあったんですか?!」


 それはおどろいた。


 「ええそりゃ恋人だもん、相談されないわけないでしょ?」


 あ、そうなんだそれは了承してたわけか。


 「板挟みになっている彼女の苦悩を見たら、ね?それに女性同士の恋もいいけど実際問題子供を授かる、っていう選択肢は女性同士には現状できないわけじゃない?ならそのチャンスを不意にするのもどうかなぁっても思ったわけよ、まぁ変な男だったら拒否させてたけどね~……でもちゃんといい男性が来たから。だから私にとってもメリットがあったから」


 まぁそれが余計苦悩させちゃって、今みたいな複雑な状況の原因になってるわけだけど、と彼女は苦笑する。


 「そう、だから私はおこぼれに預かろうかなって思ってるわけね?」


 白石さんが俺の手をぎゅっと握る。

 手を絡ませるようなそんな握り方。


 「こうするの……2回目ね?覚えてるかな?」


 覚えてるに決まってる忘れるわけがない。


 「遊園地一緒にいったとき、ですよね」


 「覚えていてくれてお姉さん嬉しーなー」


 白石さんが俺の目をまっすぐに見つめてくる。

 俺も彼女の潤んだような目から視線が逸らせない。


 「ねぇ恭弥君……?」


 「……はい」


 息と息が混じり合うほどお互いの顔が近い。

 

 「大人のキス……する?」


 もうあと一歩顔を近づければ、キスできそうな距離だった。

 本音を言えばキスはしたい。


 こんな美人な人に迫られているんだから。

 前回は不意打ちのようにされたけど。


 「……ダメですよ?白石さん」


 「え?」


 断られるとは思ってなかったのか、少し意外そうな顔に目を丸く開いている。


 「白石さんみたいなきれいな人に迫られて嬉しいです、とても嬉しいけどね?でもさっきの二人のキスを見たあとだと流石にるわけにはいきませんよ」


 情熱的なキスをしていた秋月さんと白石さん。

 あの姿見たらそんな二人を不仲にさせるような真似はできない。

 だってこれはきっと秋月さんが守りたい関係のはずだから。


 「……あらそんな顔もできるのね~」


 「どんな顔してますか?」


 「なんていうのかしら、唇をかみしめて必死で拒否するみたいな顔?」


 「……言いえて妙ですかね?白石さんはそれくらい魅力的ですから」


 「……断られたけどね?」


 「白石さんが本気で迫ってきてたら断れなかったですよ?」


 「本気のつもりだったんだけど……あーあひどい男ね恭弥君は」


 いじけたように首筋に一瞬顔をうずめてから、離れていく白石さん。

 なんだったんだ今の、少し痛みがあったけど。


 「……でももし二人が納得した上でなら、いくらでも俺の竿でもなんでもお貸ししますよ?」


 「……そういう下品な言い方はどうかと思うわよ?でもあーあ私たちのキスを見たら興奮して襲ってきてくれるかなーって思ったのにざーんねん」 

 

 でもそういう白石さんの顔は少し笑っていた。


 「今日話した話は内緒よ?言ったら私が莉緒に怒られちゃうから」


 「言いませんよそりゃ」


 「ありがと、まぁぼちぼち莉緒との件は話を進めていくわ。こういうのは急いても意味がないもの」


 ウインクして、いつの間にか空になっていたグラスをシンクへと白石さんは置く。


 「あーちょっと飲みすぎちゃった、私も寝ようかしら。あっちの部屋に恭弥君の布団は置いてあるから寝ていって?あとお風呂はそっちね?タオルは好きなの使っていいから」


 「何から何までありがとうございます」


 「……下着くらいならみて使ってもいいわよ?さっき興奮しちゃっただろうから」


 ふふっと笑う白石さんに対して俺は気恥ずかしくなる。

 どうやらばれていたらしい。まぁさっきのキスを断ったことに対するささやかな意趣返し、ってことか。


 「使いませんよ」

 

 「あらそう?じゃあおやすみなさい」

 

 ひらひらと手を振り秋月さんが眠る部屋の方へ。


 「君なら……任せられそう」


 俺には最後の言葉の意味は分からなかった。

 その日は悶々としてあんまり眠れなかった。



 翌日の早朝、そろーりと家に帰る。


 「た、ただいまぁ?」


 誰も起きていないことを願って家に入る。


 「おかえりなさい?ご主人様」


 玄関には完璧な笑顔を浮かべる花咲凛さんの姿。


 「た、ただいま。起きてたんだね」

 

 「そりゃメイドですからご主人様を待ちますよ?いつだって」


 いつもはゆっくり目に寝ているのに、というかさっきから笑みが全く崩れないんだけど。


 「昨夜はお楽しみでしたね?ご主人様?」


 お楽しみ?

 

 「いや昨日は何もしてないけど」


 苦渋の決断で断ったからね。


 「嘘をつかなくても大丈夫ですよ、その首筋を見ればわかりますから」

 

 首筋?


 「あっ」


 なんかキスマークついてるんだけど!!

 何時……ってあのときか!!


 「ちゃんと正直なことを話してください?これもメイドとしてきちんと把握しないといけないので」


 「い、いやこれは違くて!」


 「お話はお部屋に戻ってから、さぁ中へ」


 花咲凛さんが全く話を聞いてくれない。

 この後誤解を解くのにすごい時間がかかった。


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