第77話 「ドS女教師の事情」


 「秋月さんは眠ったんですか?」


 「ええ、お酒なんて飲めないのに飲もうとするからよ~明日は間違いなく二日酔いね」


 呆れたようにお酒を呷る白石さん。


 「飲めないんですね、家では飲んでいないのは知ってましたけど…………」


 「いっちゃえばざるだからね莉緒は…………私と違って」


 「たしかに白石さんはお酒強そうですもんね」


 さっきからロックでテキーラを呑んでいるし。


 「ええだから晩酌に付き合ってくれる人が欲しいのよねぇ?」


 流し目で俺の方を伺ってくる白石さん。

 そんな視線を送られても飲めないものは飲めないからね。


 「…………成人したらお付き合いしますよ」


 「あら嬉しいわ、あと3年は莉緒と付き合ってくれる、関係を継続してくれる、ってことよね」


 「3年間も秋月さんが俺を見放さないでいてくれたら、ですけど」


 俺から許嫁を拒否したりはできないしする理由も特にないけど、あっちには十分理由があるからなぁ。

 さっきもあんなこと言ってたしな。


 

 「…………さっき莉緒が言っていたことを気にしてる?」


 秋月さんがさっきお酒を飲みながらつぶやいた言葉。

 【全部決めないで!】【結婚も何もかもお父さんたちが……】


 意識も朦朧としていたから出た言葉には信憑性もないのかもしれない。

 でもとっさに出た言葉だからこそ、秋月さんの本音ともとれる。


 この許嫁制度は望んだものではなかった。

 そう言ってた理由の一端に触れるものなのかもしれない。


 「まぁ気にならない、といえば嘘になります。ただ……」

 

 「ただ?」


 「無理やり聞き出そう、とは思ってはいません。あくまで教えてくれるのならば、お聞きできたらな、と思ってます」


 「あらそれはなんで?」


 頬杖を突きながら、足組をしてこちらを見てくる姿が何とも艶めかしい。


 「つい先日、必要に迫られてではありますけど無理やり人の家の事情を聞き出した結果、痛い目、というか非常に居心地の悪い思いをしましたので」


 宝生さんたちには申し訳ないことをしたと思う。

 土足で過去をほじくり返すようなことをしてしまった。あの時はがもっと聞き方、というのがあったんじゃないか、とは思う。

 

 「先日、ってことは宝生さんのことね?さしずめ事情を聴くときにちょい無理に聞きでもしたのかなー?彼女基本的には自分で解決しようとするだろうし」


 なんで少ししか話してないのに大体当たってるんだか、本当にメンタリストなんじゃないの?


 「そんな驚かなくてもちょっと推察すればわかることだよ、それに私は白石さんのことも個人的にも知っているしね?」


 「そ、そうですか。……だから同じ轍を踏まないためにもあんま深くは聞かないようにしているんです」

 

 なるほどねぇ、とお酒を一口呷りグラスを回す白石さん。

 回すのにあわせて、中の氷がからから、と音を鳴らす。


 「確かに本人に深入りするのは慎重にすべきよね?、もっと周辺から情報を取るようにしないと」


 「…………周辺、ですか」


 「そ!つまり?」


 試すように俺のことを見てくる。

 

 「私に聞け、ってことですか?」


 「先生に聞くっていうのは良いアイデアかもね」


 「ですが……」


 人の情報を勝手に聞くのもなんというか憚られる。


 「事前情報よ、誰もテストを受けるときに勉強しない人はいない、それと一緒じゃないかしら。Hで例えるなら処女の子は必死に男性の気持ち良いところがどこなのかをインターネットとかで勉強するでしょ?そういうことじゃないかしら」

 

 童貞がネットで知識を得てる、みたいなことだよな前の世界風にいえば。


 「それ失敗するやつじゃないですか?」


 「…………ものはたとえよ」


 童貞がネットで知識を得てる、みたいなことかな?

 それで大失敗する人もいるとかなんとか。こうやれば気持ちいんだ、ってやって相手に痛がられる、みたいに。


 「じゃあ白石さんが知っていることを教えてください」


 「いいわよ?でもこのままじゃ嫌」


 なんか言い始めたぞ?

 

 「え」


 「こっち座って?」


 白石さんは立ち上がりソファに腰かけると、横をポンポンと叩く。


 「いやさすがに近くないですか?」


 俺が座ったら白石さんとの距離が密着しちゃうんだけど。

 

 「嫌?」


 なんとも大人の色気を感じさせるような誘い文句だった。


 「そんな視線されて断れる人はいないですって」


 秋月さんの情報も聞きたいし、だからこれはしょうがなく。

 決して期待してないとかでもない。


 粛々と隣へ。

 やばい、バニラっぽい香りとシャンプーの匂いが混ざって大変甘い匂いに包まれる。


 「なんかかちこちじゃない?」


 ふふっと静かに笑う白石さん。


 「そりゃこんな美人な人と隣に座ったりしたら緊張もしますよ」


 「嬉しいことを言ってくれて、お姉さん本気にしちゃうかも?」


 やめてほしい。

 そんなまっすぐこっちをみないでほしい。


 より緊張してしまうから。


 「ふー」

 

 「ふやっ」


 耳に息を優しく吹きかけられて思わず身震いしてしまう。


 「どう?緊張は解れた?」


 「……おかげ様で」


 「そうよかったわ~、じゃ失礼して」


 ぽすん、と白石さんが俺の肩にしなだれかかってくる。

 より白石さんという女性を意識させられる。


 「し、白石さん?」


 「いや?」


 「いや…………じゃないですけど」


 「ふふ、それと白石さんってあまりにも許嫁の恋人を呼ぶには他人行儀すぎない?」


 「許嫁の恋人って他人なんじゃないですか?」


 「彩香って名前で呼んでほしいなー」


 俺の返答は無視ですか。

 なんかすごいぐいぐい来てる気がする、気がするというかもう絶対来てるよね?


 「……」


 「呼んでくれないと口硬くなっちゃうかもしれないわねー」


 話さないってことね。


 「なんとも大人げないな言い方をしますね」


 「ちょっとくらい子供っぽくわがままを言う方がギャップがあっていいでしょ?」


 もう何を言っても呼ぶまで話してくれなさそうだね。


 「自分で言わなきゃもっといいですけど……わかりました、彩香さん」


 「そうそう、素直でいい子ねー物わかりのいい子は好きよ?サービスしてあげよっか」

 

 彼女はピンクのガウンの胸元を少し広げてくれる。

 そうしたことによって隙間からは彼女の胸の谷間がチラ見えして大変眼福状態だ。

 絶対狙ってやってるでしょ白石さん。


 「あ、また緊張したわね?」


 なんというかめっちゃからかわれている気がする。


 「あんまりからかわないでください」


 「ごめんごめん、それじゃ本題に入りましょうか?」


 「こ、このままですか?」


 話に集中できなさそうなんだけど!


 「……莉緒がさっき言ってた話はね」


 俺の抗議はさらっと受け流される。

 白石さんは俺の肩にしなだれかかりながら、でも視線は秋月さんが寝る寝室の方へ。


 「あれは本当のこと」


 「結婚…………というかこの許嫁制度に対していやだった、というお話ですか?」

 

 「ええそうよ」


 分かってはいたことだ。


 「それは今も?」


 「最初のころよりは全然ましになっているけどね、でもまだポジティブかネガティブかで言ったらネガティブ寄りでしょうね」


 「……ですか」


 今日のデートもあくまでやらなければいけないからやった、ていう感はあったもんな。


 「少しづつ前に進んでいるもの確かだとは思うけどねー。一月前の莉緒なら夕食を私の家で3人で食べるなんてしないでしょうし。デートという名の勉強をしてはい帰ってね、っていうのも十分あり得たわ」


 一か月前の彼女の姿を思い出す。

 …………うんぜんぜんありそう。


 「勘違いしないでほしいのだけどこれはあなたが、嫌ってわけじゃないのよ。誰が来ても彼女は嫌だったの、ううん男性がそもそも嫌だったのだから」


 「ならなぜですか?」


 何で許嫁制度に参加したのか、っていう話になってくる。

 参加しなければいいのに。


 「…………まぁお察しの通り莉緒にも事情があってね、彼女の家はいいところのお嬢様だったりするのよねー」


 「……それはつまり宝生さんの家みたいな?」


 「ううん、宝生さんの家は第二次世界大戦後に財を成した家でしょ?そうじゃなくて莉緒の家は名門って意味。要は血ね」


 「血は青いみたいな、そういう」


 「また面白い表現するわね、でもそうよ名家の血筋ってやつ。祖先は華族だったって話よ」


 華族なんて単語久々に聞いた。

 それこそそんな言葉が使われていたのは戦前の話、170~180年は前の話じゃなかったっけ?


 「それで彼女は所謂跡取り娘、しかも一人娘」


 だんだん、と話が分かってきた。


 「要は子供を残さないといけない?」


 お家断絶させないために。


 「そう本人は思ってるみたい」


 「本人は?家族、秋月家、の家としては違うってことですか?」


 「莉緒がそういってたからあくまで又聞きだけどね。だから家がどう考えているかはわからないのが正直なところね」

 

 分からない、か。

 でも……


 「思ってそうではありますよね。白石さんという恋人がいるにも関わらず、家のことを考えて許嫁制度に参加させたってなると」


 本人たちの意思を無視したやり方にみえちゃう。

 まるで昔の貴族の血は青い、とか本気で信じてそうな感じだ。未来に転生したっていうのに過去に来てしまったような感覚を覚えてしまう。


 「あー憤ってくれてるところあれなんだけど、それはまたちょっと違うらしいのよねー」


 「うん?」


 「……莉緒言ってないらしいんだよね、私っていう恋人がいること」


 なんか話変わってきたなこれ。


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