第74話 「ドS女教師との特別補習」
椎名さんによる三者面談の説明があった週の土曜日。
デートは早い方がいいとのことで、今日がデートの日。
めっちゃドキドキしている、それははもう猛烈に。
……理由はもちろん初めての秋月さんとのデート。
しかも今日は宝生さんの時みたいに完全にお任せデートである。
【今日はここに来て】
そんな連絡とともに位置情報を指すURLが送られてきた。
まぁとりあえず、指定された場所にはきたわけなんだけど。
「あれここって」
目の前にはここ一週間で見慣れた場所。
──休日の学校。
秋月さんに指定された教室へとりあえず向かう。
なんかこの学校に来てから休日に学校来る機会が増えた気がするなぁ。
休日のお昼過ぎということもあって、普段の生徒たちがいるときの喧騒とは異なり、校内は静寂に包まれている。
秋月さんに指定された場所が行ったことない場所なのもあり、普段の雰囲気とまた違って異世界に迷いこんだような気分になる。
「あ、ここか」
上の表札には「英語準備室」と書かれている。
「でもここでするデートっていったい何なんだ?」
学校でするデートなんて皆目見当がつかない。生徒と先生という身分な以上、校内で誰かに見つかるリスクもある。
まさか先生と生徒で勉強デートなんて訳もないし…………
いくつか考えてみるがやっぱり候補は思いつかない。
今更考えても仕方ないか、ここまで来ちゃったし。
深呼吸してノックすると、少しの間の後秋月さんの返事が返ってくる。
「……入ってきていいわよ」
あまり歓迎された様子ではないけど。
…………それもいつものことか。
「失礼します」
緊張しながらも中に入る。準備室の中は様々な教材にあふれており、中央に4人掛けのテーブルが置かれ、奥の窓際に執務する机のようなものが置かれてる。
秋月さんはこちらに背を向けたまま、パソコンで何か作業中のようだ。
微妙に声をかけづらいと、先に秋月さんが口を開く。
「あ、そこに座ってて。ひと段落したらそっちいくから」
「はい」
とりあえず言われたとおり座る。
英語準備室、とはあるがどうやらちらほらと英語以外のジャンルも混ざっているぽい。
スペイン語とかドイツ語とか色々ある。
それと読み物系も多いのかな?
多種多様な本と一緒に、日本語の本もあった。
この部屋にはミスマッチな和歌集みたいなの、感じだったから目に留まった。
もうこうなると英語準備室、と言うよりは、異文化言語を学ぶ、みたいな感じだ。
古典なんて俺からしたら異世界の言葉だし。
そんな風に手持無沙汰にしながら、準備室の様子を眺めていると、パソコンのキーをひと際強くたたいた音が聞こえた。それと共に秋月さんがこちらへと歩いてくる。
どうやら作業が終わったらしい。
さっきまで仕事をしていたからか、秋月さんは白衣を着ていおりかけている眼鏡と相まって、普段とはまた違う雰囲気を感じさせる。
教室にいる時よりも厳格な女性教師。
そもそも厳しいんだけどね。
「……待たせた私もあれだけど、あんまり女性も部屋をみるのはどうかと思うわよ?」
微塵も俺には興味がないのかスマホをいじりながらそんなことを言ってくる。
「それはすいません…………しかしいろんな国の言語があるんですね」
「まぁ勉強ついでに、ね? 案外違う国の言語って面白いのよ、その国の文化を示していたりするから」
「じゃあ秋月さんは英語以外にも何か国語かしゃべれるんですか?」
「ちゃんと話せるのは4か国語…………昔からやらされていたからできるだけで大したことないわ」
いや全然大したことあるぞそれは。
「え、めっちゃすごいですね、じゃあ海外に行くときに秋月さんがいれば困らないですね!」
「人のこと翻訳機か何かだと勘違いしてない?…………今時なら英語使えれば何とかなる国も多いわよ」
共通語は今も英語だからな。
ご時世的な問題で男の俺が海外に行けるかはわからないけどね。
男の人口が減っているのはどこの国でも同じわけだから、犯罪に巻き込まれるリスクもあるし。
その辺は元の世界に比べると少し窮屈に感じてしまう。
とりあえず英語を使うこと今のところなさそうだね。
「そうなんですね……ちなみに古典とかもわかるんですか?」
「……なぜ?」
さっきまで饒舌とまでは言わないにしても、程よく話していたのにここに少し警戒心が宿っている。
何か地雷踏んだかな?
まぁ気づかないふりえおいったんして話を続けよう。
「いやそこに和歌関係の本があったので」
俺が指さした先には和歌集や源氏物語、などの本が並べてある。
それでなぜ俺が聞いたのか納得したのか、秋月さんはすんなり話してくれる。
「あぁそれも親の影響よ、外国語と違って好きなわけじゃないわ」
習わされていた、というやつか。
かなりご両親は教育熱心なのかな?
「確かに古典って変化形とかいろいろあって難しいですもんね、「けり」とか「ける」とか」
「あなたが嫌いな理由と同じにしないでほしいのだけど?」
「それはすいません」
言外にお前みたいなあほみたいな動機と一緒にするな、と言われてしまった。
「でもその様子だと古文は苦手なようね?」
「……好きではないですね」
「ならちょうどよかったわ、いいことを知れたわ」
ちょうどよかった……とは?いったい何が良かったんだ?
というか──
「秋月さん、今日は一応デートのお話でしたよね? 一体何のデートをするつもりなんですか? 今のところわからなくて」
あくまで集合場所くらいに思ってきたんだけど。
「ここが今日の目的地、ならやることなんて決まってるじゃない」
目的地?
準備室が?
いまだ秋月さんの意図が分からない。
ここで何をするんだ?
「まだわからない? 最初のうちのデートって用は相手のことをお互いにより知り合うためにするわけよね?」
「そう、ですね?」
なんかデートの定義から始まったぞ。
そこまで経験があるわけじゃないからわからないけどたぶんそう。
「1回目、2回目、3回目、とデートで関係を深めていく。それで今回は1回目。相手を知らないといけないわけじゃない?……不本意ながら」
不本意なのは言わなくてもいいですけどね?
「そ、そうなりますねその理論で行くと」
「だからあなたのことを教えてほしい」
すごい直球の言葉が来た、それも秋月さんに似合わない台詞を。
しかも直前の言葉と矛盾している。
秋月さんが珍しく笑顔で俺に微笑みかける。
家でも俺には見せたことのないような笑顔。
真正面から見ると、ほんと大変表情が整っている。
眼鏡がその顔をより凛々しくさせている。
……なのになんでだろう寒気を感じるのは
なんだか嫌な予感がする。
「ど、どうやって?身の上とかを話していけばいいですか?」
「いいえ今日はちゃんと準備してきたわ」
秋月さんは笑顔のまま。
「じゅ、準備?」
「ええ準備」
秋月さんは何かのプリントをトントンと整えて、俺の前に置く。
「こ、これは?」
「見てみなさい?」
あれかな?秋月さんのプロフィール帳でも──
「えっ…………問題……集?」
目の前には全く予想だにしなかったもの。
思わず聞いてしまった。
「そ、問題集」
ペラペラとめくっていけば、英語だけじゃなく主要5科目全教科満遍なく問題が出ている。
「……まさか、解け、と?」
ちがうよ、ね?
「そのまさかよ、まずはあなたの学力を知らないといけないと思ったのよ。つまり……」
「つまり……?」
彼女は目はそのままに口元だけで笑う。
「私とはデート……っていうのもいやだけどまぁそう、勉強デートをしてもらおうかしら」
べ、勉強デート。
「ひとまずはこの問題解いておいて?」
「解いておいて?秋月さんは?」
「解けたら丸つけするから終わったら呼んで?あ、これ確認テストだから私に聞くのはなしね?じゃ私あっちで作業してるから」
言うことは言ったとばかりに、俺の方を見向きもせず秋月さんは元の椅子に座りカタカタとパソコンをいじり始める。
目の前に置かれた問題は各教科5枚ほど。それに合わせて解答用紙も5枚。
すべて50点満点らしい。
なんというか、多分これ俺が知ってる勉強デートではない気がする。
勉強デートって一緒にテスト前に教えあったりして肩が触れる距離感にどぎまぎして、そんなんあじゃない?
まちがっても一人がテストを受けてもう一人が別の仕事をしていることではないんじゃないか?
……これはどちらかというと
「補習……じゃないか?」
夏休みに赤点取った人とかの特別補習。
先生はその間仕事をしてるのもまんまそんな感じ。
というかこれ先生も完全に仕事してるよね?
それが余計に補習を監督する先生感を袁術している。
一度そう考えたらもうそうとしか思えなくなってきた。
「あ」
何かを思い出したかのように、こちらに向き直る秋月さん。
やっぱこれ勉強デートじゃないわ、と思い直したのかな?
「トイレとかは好きに言っていいから、テスト時間は1教科50分を自分で計算してね?」
じゃ、そういうことで、とイヤホンをし始める始末。
もう監督する気すらないらしい。
とか言っててもなにも始まらない。
「と、とりあえずやるしかない」
少しでもいい点数を取って見直させるためにも必死に問題を解いていく。
問題はちゃんと実力を図るためか、簡単な問題から難解な問題まで記述式選択式などバランスよく出ている。
春休みに花咲凛さんに教えてもらったのもあって、なんだかんだ解いていく。
問題を解きながらもやっぱり思う。
こんなにそそられない勉強デートを俺は今まで聞いたことがない。
青春のセの字もまだしない。
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明日も更新するよ、同じ時間で待っててもらえると!
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