第72話 「花咲凛さんのSッ気」


 「お帰りなさい、。今日は早かったですね?」


 家に帰ったら花咲凛さんが珍しく満面の笑顔で迎えてくれた。

 普段は笑ったとしても薄く笑うだけのあの花咲凛さんが、しかも普段は呼ばないご主人様呼び。


 「た、ただいま?」


 怒ってるのはわかる。

 わかるけど、なぜかはわからない。こういうのって理由が大事なのになぁ


 「学校ではストレスなくお過ごしできましたか?今日は」


 あ、分かった。これあれだ。


 「き、昨日の花咲凛さんのおかげで快適にす、過ごせたよ」


 そうだった。

 昨日は家に帰ってすぐやるせない思いを全部花咲凛さんにぶつけたんだった。

 ちょっとSッ気が出ちゃったというかなんというか…………まずい。


 「私はおかげで大変でしたけどね?朝早くから普段の家事に加えて汚れたシーツとか変えなきゃいけなかったですし。しかも昨日はなぜか、な・ぜ・か中に出さずに顔にかけたり身体に放出したり、っていうのも多かったですし?」


 一言一言区切ってはっきりと伝えてくる花咲凛さん。


 「外だと搾精の効率がかなり悪いんですけどね?昨日はそれでも一苦労しましたし」


 「その節は大変申し訳ございませんでした」


 部屋に戻る道すがらの俺平謝り。

 完全俺悪い案件だこれ。


 「はぁ」


 からのジト目である。

 もう俺は謝り倒すしかない。


 でもこんな普段はクールで表情を変えない花咲凛さんだからこそ。昨日みたいなことをしたくなっちゃうんだよね。


 男性ならわかると思う、なんというか征服したくなる、というか。

 自分のもので、息を荒げている姿を見たくなっちゃう。


 今はクールな顔をしてるけど…………昨日の夜は。



 そう思うとこういうのも所謂、ご褒美っていうやつなのかもしれない。

 なんかどっかの界隈ではこういうのもご褒美として通っているっていうのも聞いたことあるし。


 ちなみに昨日は最後の方、息も絶え絶えになって、目がとろんとしてた…………控えめに言って最高でした。


 「今ご主人様頭を下げながらも、ろくでもないことを考えていますよね?」


 「え」


 なんで花咲凛さんは人の顔も見てないのにわかるんですかね?


 「みなくても雰囲気で分かりますよ、ご主人様はわかりやすいので。どうせ搾精のことでも考えていらっしゃったのでしょう?」


 「……」


 素直に頷くのはなんというか下心あったのを認めるみたいでなんか癪だったりする。

 あと心読まれすぎじゃない俺?


 「メイドの立場として考えれば、男性であるご主人様が搾精に協力的なのはいいことなんですがね?やっぱりTPOといいますか、家帰ってきてすぐ襲ってくるのは…………いかがなものかと」


 もう100パーセント自分が悪い自覚はあるので謝り倒すしかない。


 「申し訳ございません」


 「こういうのをするときはなるべくきちんと準備をさせていただきたいので」


 「……準備?」


 「きちんと身を清めたり、薄化粧をしたり、など女性は色々と準備の手間があるのですよ」


 「花咲凛さんは何もしなくてもいい匂いがするしきれいだよ?」


 「……すぐそういうことを言って、ほんとに調子がいいですね


 女性は褒めてなんぼっていうのは、美桜ねぇで嫌というほど学んできた。


 「褒めていただくのは結構ですが、ただ搾精とはいってもなるべく不純物が混ざらないように準備をしておきたいのですよ」


 あ、ちゃんと準備って制度の方の意味か。

 確かに花咲凛さんとするときも口に出したりはそんなにやってくれないもんね。

 同様に体に出すのもあまりいい顔をされない。


 ゴムとかで出すことがほとんどだったりするしね。

 昨日はそれがなかった。


 「…………なのでけして乙女心がどうとか、心の準備がどう、とかそういう邪推はされませんようにお願いいたしますね?キョウ様」


 「わ、分かってるよ花咲凛さん、今度なにかお詫びさせて?」


 さすがに申し訳ない。

 それぐらいきのうはちょっと自分勝手だった、という自覚もある。

 

 「では一つお願いがあります」


 「出来ることなら…………」


 「もちろんできることですよ、いいえキョウ様にしかできないことです」


 安心してください、と花咲凛さん。

 でもどことなくその物言いが逆に不安になる。


 「…………どうぞ?」


 訝しみながらも続きを促す。


 「今度は私がキョウ様を好きにさせてください」


 「……はい?」


 どゆこと?


 「まぁ用はキョウ様は寝てるだけです、私に触ってもダメ、主導権は全部は私…………あ、キョウ様を手錠とか目隠ししておくのもいいですね」


 「なっ…………」


 「それを次回の搾精でさせてください、いいですか?」


 いいかどうかで言ったらあまりよくない、けど?だけどこれ実際拒否権ないよね?

 なんか耐えられる気もしない、そもそも性格的に主導権握りたい側だし。

 いや待てよ?

 

 「分かったよ」


 「ありがとうございます、キョウ様」


 口調も声音もいつもの花咲凛さんに戻った。

 もうこれ以上昨日のことは追及してこないだろう。


 花咲凛さん、確かに俺は甘んじて受け入れる。

 でもここで甘んじて受けに徹することで次回爆発力を見せてやるから!


 なんかそう考えたらちょっと楽しくなってきた。

 俺はやられたらやり返す側主義なんだ!


 ……最初に手を出したの俺だけど、それは置いておこうかな。


 

 「キョウ様学校はいかがですか?」


 「まぁまぁだよ?結構ユニークなクラスでおもしろいよ?」


 この2日間のことを順に話していく。

 昨日はあんまり話している余裕はなかったからね。


 「…………さようでございますか、まずは何事もなくよかったです」


 本当にそう、大きな問題もなくよかった。

 いきなりハブられる、とか、距離置かれる、とかもありそうだったからね。


 「やはり同じクラスにサクラ、といいますか。橘様がいらっしゃったのはよかったですね、秋月様も」


 「まぁ秋月さん俺のこと最初忘れてたけどね?しかも態度も変わらないし」

 

 初日に忘れられたこと実はちょっと根に持ってたりする。

 もうこういうのは末代まで忘れない。


 「秋月様なりの気遣い、ですよ。そうやってキョウ様の緊張をほぐしたりあえて厳しくすることでキョウ様とクラスメイトから同情、とか連帯意識を持たせようとしたのかもしれませんし」


 そこまで高尚な考えがあったのか…………でもあの時「あ」って言ったけどな、「あ」って。

 ま、まぁそういうことにしておこうかな?


 「それにしてもキョウ様が男性に女の子、との付き合い方を教えるようになるなんて…………感慨深いですね?」


 「その言い方馬鹿にしてるね?」


 「いいえ?さすがだなぁって、さすが私を前日責め倒しただけはありますね?」


 「その節は申し訳ございません」


 それ言われると弱い。


 「あとクラスメイトの女子に手を出しちゃったときは言ってくださいね?ちゃんと把握しておきたいので」


 「手を出す前提で言わないで!? 出さないよ?!」


 「はいはい、仮に、の場合ですよ。出すにしても許嫁の皆様に手を出してからにしていただきたいですが」


 「だからしないって」


 なぜ出す前提なのか。

 おれはそもそも一人を愛したい人間なんだから、手当たり次第にはいかないよ?


 

 「あ、許嫁で言おうと思っていたことを思い出しました。そういえば椎名さんか。次回の企画についてお話をしたい、という風にいわれております」


 次回の話?

 あーあったなそんなの。


 「ああ、三者面談…………だっけ?」


 誰と面談をするのかは聞いてないな。

 俺と許嫁の人達と…………あと誰カウンセラーみたいな?

 それとも恋愛アドバイザーみたいな人来るのかな?


 「さようです、その具体的な説明をしにくるそうですよ」


 「へぇいつ?」


 「今週の土曜だそうです、皆様の予定を聞いた結果そこがいいそうです」


 「俺聞かれた覚えないけど?」


 「キョウ様の予定は私が伝えておきましたよ、大体把握してるので」


 「友達と遊ぶかもしれないよ?」


 「……できたんですか?」


 「…………」


 まぁまだ2日だからね。

 話すことはできるし、仲もそれなりで、冗談も言えるようになったけどね。

 上々なんじゃない?


 「予定に入れておくようにするね?」


 「お忙しいとは思いますが、そうしてくださいめ」


 薄く笑う花咲凛さん。

 うんやっぱ今日の花咲凛さんはやっぱりSッ気がすごい。



 

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