第71話 「愛を叫ぶ」

 「武田君は…………女子が怖くないの???」


 「女子が怖い?…………それはクラスの女子も含めてのこと、かな?」


 「うんそうだよ、特に青山さんなんか怖い」


 怖い、怖いかぁ…………。

 ギャルが怖い、みたいな?


 佐藤君たちの質問に頭を抱える。

 俺自身、女子というか女性を怖いって思ったことがないんだよなぁ。

 

 いやそりゃぁね?美桜ねぇが怒ってるときとか、花咲凛さんの無言の圧とか、前世での女子特有の修羅場の雰囲気とか。

 そういうのを感覚的に怖いって思ったことはあるけど、だけどそれは女子それ自体を怖いって思ったことにはならないし。

 だから正直怖い、という感覚がわからない。

 俺はあくまで女子は異性としては見ていただけだしなぁ…………。


 そりゃハーレム制度に思うところはある。

 だけどそれも女子がどうのこうの、っていうよりは俺の貞操観念的な話の訳で。


 うんやっぱ考えてみても怖いって思ったことはないな。

 というか……


 「佐藤君たちは女子が怖いんだよね?」

 

 「う、うん」

 「そう、だよ」


 「何が具体的に怖いのかな?」


 それ分からないと、結局何が怖いのか話しようもない気がする。

 女子が怖いっていうのはあまりにも漠然としすぎている。

 

 「な、なんというかまず女子比率が高い……かな」


 「あ~、確かに比率は多いよねどうしても。社会に出るともう少しましだけど、学校とかだともっと少なくなるし」

 

 たぶん今のクラスに3人いるっていうのも多い方だ。


 「うん、ほ、本当に田中君といっしょでよかったと思う」

 「ぼく、も」


 確かに女子の中に男子一人っていうのはつらいもんな。

 実際前世普通の価値観を持ってる俺でも「ハーレムだぁ!」ってはならないし。

 「おぉ、まじか」ってはなるからこっちの世界の価値観を持ってる佐藤君と田中君からしたらつらいだろう。


 「俺も二人がいてくれて心強かったよ。他にはあるかな?」


 優しい口調で促す。

 こういう時は同意できるところはしてあげると、相手は話しやすくなるって聞いたことある。

 続きを促すと田中君も話してくれる。

 

 「それ、と、なんか狙われている、って思う、な」


 「にニュースとかでも男性が襲われました、っていう話よく聞くし」


 二人が言ってるのは多分性的な意味で、だよなぁ。

 

 「うんうん、この辺でも、あった」


 田中君もうなずき、

 

 「青山さん、とか、言い方悪くなっちゃうけど、肉食獣、みたい」


 そんな虎とかライオンじゃないんだから。

 これには思わず内心で苦笑する。


 でもそっか俺からしたらさばさばしてて話しやすいな、と思ったりはするけど。

 一般の佐藤君たちから見たら怖いってなるのか。

 確かに強そうな感じはするけども。


 「確かに青山さんは凛々しい、というか自分をちゃんと持ってそうだよね?」


 いいように言い換えただけだけど、まぁこれはプラスの側面としてみるかマイナスの側面として見るかの違いだろう。


 「逆に二人に聞きたいんだけど、さ」


 「な、なにかな?」 

 「うん」


 「最近女子と話したりした?」


 二人して顔を見合わせる。


 「き、昨日青山さんと、話したくらい、かな?」

 

 「事務連絡、で。返事くらいは。あとは……お母さんと、なら」 


 「あ、それなら僕もママとなら話せるよ?」


 お、お母さんかぁ。

 そ、そう来るか、なるほどなるほど。


 「い、一旦お母さんはなしでいこっか。血のつながってない人でいこう」


 「そ、そうなるとさっき話した感じになるかな?」

 「ぼ、僕も」


 「高校入学してからは二人ともそんな感じなの?」


 「ぼ、僕はそうかな?」


 「佐藤君がそうってことは田中君もそんな感じだよね?二人は一緒にいることが多そうだし」

 

 「う、うん」


 なんとなく少しずつ分かってきた。


 「じゃもう1個聞かせてほしいんだけどさ」


 なんか気づいたら俺が質問する側になっちゃってるんだけど。


 「う、うん」

 「い、いいよ」


 「二人は小さいときから女子とは話してこなかった感じだったのかな?」


 小学生低学年とかだと男女を明確に意識する機会ってあんまりない気がする。

 それこそ体としてもそんなに変わっていないし。

 性っていうものを意識しづらいと思うんだよなぁ。


 さっき話していた襲われる、とかっていうのも性的な話だと思うし。


 「しょ、小学生とかの時は……あったよ?」

 「僕、も」


 「なんでしゃべらなくなった、とかある?」


 二人の顔が曇った。

 やっぱりあるらしい。


 「いいたくなかったら全然大丈夫だよ?」

 

 そんなトラウマを掘り起こす気はない。

 これもあくまで女子が怖いか、に対してちゃんと答えるために聞いてるだけだし。


 「い、いや大丈夫だよ。昔のこと、だし」


 そういって、佐藤君が話し出した。


 「た、確かに昔は女子たちとも遊んだりもすることもあったんだおままごと、とか。お外で遊んだり、とか。ふ、普通に遊んだりしていた、とも思う。じょ、女子が多いなぁっても漠然と考えていた。と思う」


 まぁ子供なんてそんなもんだ、と思う。


 「で、でも年齢が上がっていくにつれ、てさ。な、なんというか?服を脱いだ時とか?だんだんと女子の視線を感じるようになったり、して?あ、遊んでいるときも、お、おしり、とか、だ、大事なところに触られたりするようになって……いや露骨じゃないんだよ?あくまで触れるだけなんだけど。それでその、せ、性器、のことを連呼したりする人が、いて。そういうので段々と、遊びたくなくなって、も、もちろんママに話したら学校に抗議してくれてそういうのは、なくなったんだけど……と、トイレに行くときとか、そういうの見られている感じがして、さ。…………そんな感じでだんだんと話さなくもなっていって、みたいな感じ」


 「ぼく、もそんな感じ。…………それで男子とならそういうことも、ないから。安心して、いられる。中学とかでも男子といた気がする。…………というか大体の男子はそういう経験…………してるんじゃ、ないかな?」


 二人はそういって、俺を見る。

 あったか?あったのか?いや中身ある程度上だったからなぁ。

 というかド田舎でそもそも子供の数も少なかったし。


 「うーん俺は男子も女子もそもそも少なかったから、なぁ。子供自体少なかったから…………二人が経験したようなことはあんまり、ないかなぁ」


 「そうなんだそれはよかったかもね」

 「うんうんそれはいい」


 二人はにっこりと笑う。

 ひがむとかでも恨むでもなく、よかったね、と言ってくれる。


 「ありがと~。じゃあ最後の質問、なんだけど、さ?」


 「う、うん」

 「いい、よ。なんでも、聞いて?」


 「二人の恋愛対象は、女子、男子?」

 

 ……ゆっくりと、優しく聞く。

 イメージするのは美桜ねぇの聖母のような顔。

 優しく微笑むような、昇天させるような顔。


 むっず。


 「た、多分女子、かな?男子、をその、エッチ、な目でみたことはない、よ?」


 エッチを言うときに顔を染めるのやめようか佐藤君。

 

 「考えたこと、ないなぁ?恋、したい、とか考えたことそもそもない」


 こ、これが草食系男子、か?

 いやもしくは断食系、なのか?


 「し、しいて。しいて言うなら!」

 

 「し、強いて言うなら…………そうだなぁ、女子、だとはおもう」


 本当に強いて言った感じ、だな。



 でもなんとなく…………二人が何を考えているかは大体わかった。


 「いっぱい答えてくれてありがと、それで女子が怖くないか?って質問だったよね?」


 「う、うん」

 「そう、だよ」


 まずは端的にいおうかな。

 

 「俺は女子を怖い、って思ったことはないよ」


 「そ、そうなんだ」

 「す、すごい」


 二人は本当にそうだったんだぁ、みたいな顔で俺を見てる。


 「多分二人は心配で話してくれたんだよね?俺がいやいや青山さんとか橘さんと話して、一緒のグループにいるんじゃないかって」


 たぶんこれは彼らなりの優しさで聞いてくれたわけだ。


 「そ、そんな大層なことじゃない、けどね?」

 「うん、武田君がいいならいいんだ」


 二人はよかった、息を吐く。


 「二人はなんで聞いてくれたの?別に聞かなくてもよかったわけ、じゃん?」

 

 「うーん同じ数少ない男子、だし」

 

 「話してみたい、ってのもあっただけだよ」


 「さ、さすがに女子の中に混ざってたりはできないけどね」


 てへへと笑う佐藤君と田中君。

 性格の良さがにじみ出てるなぁ。


 「ち、ちなみにさ。女子がなんでこわくない、のかな?」


 田中君の質問。

 なんで怖くない、か。


 「た武田君は許嫁制度にも参加してる、んだよね?僕らよりよっぽど恐怖ありそうだけど」


 佐藤君からも難しい質問が来たな。

 

 女の子が恋愛対象だから、ですべては済む話なんだけど。

 たぶん彼らは納得できないよなぁ。


 「そうだなぁ……女の子ってめっちゃいい匂いするんだ」


 「「え?」」


 「女の子の肌ってめっちゃ柔らかいんだよ?おっぱいは揉んでて気持ちいいしお尻もすごい煽情的なんだ」


 二人して?みたいな顔が止まらない。

 でも俺も話すのをやめない。


 「聖母のような笑みを浮かべたり、嫉妬深い愛を見せてくれたり、献身的な奉仕をしてくれたり、男を叱咤してくれたり。いろんなことをしてくれるしいろんなことをしたくなる」


 「「ほぇ?」」


 もうわけわからないみたいな顔をしてる。


 「つまり言いたいのは、さ…………女性は最高、ってこと!!」


 言い切ってやった。

 思いのたけを。


 二人はめちゃくちゃ困惑した顔をしてるけどね。

 そりゃそうだ。


 「あ、でもこれは別に二人に女子と仲良くしろ、っていってるわけじゃないよ?そこは勘違いしないでほしい」


 別に俺は二人がこのままでもいいと思ってる。

 でも同時にすこしもったいない、とも。


 だからこれは余計なおせっかいだし、考えが変わらなくたって全然いい。


 「二人のさっきの話を聞いていて思ったんだけど、佐藤君も田中君もイメージの女性が悪すぎるかな、って。いやもちろん小学生の経験とかもあったししょうがないことだと思う」


 実際前世の男子が好きな女の子に好きなんだけど、アピールの仕方がわからなくて悪戯しちゃう、みたいな感じだと思う。

 それに女子の方が精神年齢の習熟は速いっていうし、中学年がちょうど性とかに興味を持つ頃合いだったんだろう。

 だけど彼らの女子のイメージがそこで止まってる。

 最初苦手なのは女子の一部だけだったけど、年々苦手意識が増していきいまは女子全体って感じな気がする。

 それに拍車をかけてニュースとかでもそういうのを見てより強固にしてしまった、そんな感じだろう。


 というか世の男子はこういうパターンも案外あるのかもしれない。

 もしくは九頭竜みたいに選民意識を強めるか。


 「青山さんにしてもそうだけどたぶん佐藤君田中君が知っている女子とは変わっていると思うよ?」


 高校生なんてもう半分大人みたいなもんだ。

 やっていいことも悪いこともわかる。


 「みんながみんあそうじゃないけど、大多数は。少なくともこの学校にいる女子はフレンドリーで話やすい人の方が多いと思うよ?…………あとはみんな見た目も整ってておっぱいも大きい人が多い」


 青山さんとかすごいからね。


 「お、おっぱいとかだめだよぅ」

 「大人、の世界」

 

 二人して顔を赤くしている。

 なんというかすごい初心だ。


 「どう、かな?俺が女性を怖くない、っていうか好きな理由はわかってもらえた、かな?」


 二人はうつむきながらもゆっくり、と。

 

 「た、武田君が女性好きなのは十分に、伝わったよ?」

 「女好き、なんだね」


 ひどく語弊のある言い方をされてる気がする。

 間違ってない、間違ってないんだけどなんか違う!


 少なくともおれは純愛派だから!制度的にはあれだけどもとは純な愛派だから!


 「で、でも話したり、はできない、かな…………なんとなくイメージとちがうかも、とは思うんだけど」

 「う、うんおれも。…………女子とずっとかかわらないわけに、いかない、のもわかってる、けど」


 二人ともどうやらそうらしい。


 そりゃそうだ。

 俺からの話で変わるわけない。

 でもきっかけがあったならよかった。


 「それでいいんじゃないかな?ゆっくりで。いきなり女子に話しかける、話す、なんて無理だよ」


 それはハードルが上がりすぎた。


 「とりあえずは俺は青山さんとか女子と話したりしてるから、さ。その様子、とか遠目で見てたらいいんじゃないかな?そしたら少なくとも小学生の時と同じかどうか分かるんじゃない?そうやって女子を知っていってみるのは?それなら負担も少ないでしょ?」


 「そ、そうだね」


 「うん、みてるよ」


 「あとは俺がとって喰われないか、もね?もしかしたら俺が食べちゃってるかもしれないけど、さ」


 そんなことないけどね。


 「わわわ、え、えっちだ」

 「おと、な」


 二人ともすごい新鮮な反応するなぁ。


 「た武田君っておもったよりもあれ、なんだね」

 

 「あれ?」


 あれってどれ?


 「下ネタ…………いうんだね?」


 「真面目そう、なのに」


 二人とも意外だったらしい。

 逆に男が3人集まって下ネタ言わない方が俺は違和感だったりするんだけどね。


 「引いた?」


 「いやおもしろいな、って」

 「僕も僕も」


 二人とも笑顔だった。

 気づけばもう昼休みが終わりそうだ。


 「また今度ご飯、一緒に食べてくれると嬉しいな。今度はお弁当もってくるから」


 「こちらこそまた食べたい、な」


 「僕も、たべたい!」


 よかった最初よりは少し打ち解けれたみたいだ。

 やっぱ下ネタのおかげ、だな。


 3人で教室に戻るともうみんな席いた。


 「あれ、武田君遅かったじゃん?」


 青山さんは椅子に片膝をつきながら、こっちをニヤッとしている。

 二人は少しかがみながら、そのまま自分の席へ。


 「仲良くなれた?」


 「まぁまぁかな?」


 「こんくらい?」


 青山さんは悪い顔を浮かべて、手をこそっと見せてくる。

 親指を人差し指と中指に挟むジェスチャー。


 「んなわけ」


 よかった二人が見てなくて。

 いきなりの下ネタはきついもんね。


 「あ、意味分かるんだぁえっろー」

 

 まぁ一般男子なんで。


 「魔よけの意味……だよね?えろいってなに?」


 そ知らぬ顔をする。

 中南米ではそういう意味もあるからね。


 「うっわずるぅぅ、分かってた人の会話だったのに」


 「たぶんエロい意味だったんだよね?それ知ってるって青山さんこそすけべなんじゃない?」


 「ぬあっ!」


 「こーらセツナをいじめないのー」


 橘さんがにやにや見てる。


 「やりこめられてるセツナもおもろいけどねー」


 「ミズリーっ!」


 なんか佐藤君たちと話してるのが女子と話してる感じで、青山さんたちと話してる方が、男友達と下ネタ話してる感覚に近いんだけどこれいかに?

 逆転してない?



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 今回長かったごめそ


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