第70話  「偶然と疑問」

 昨日は大変だった。

 美桜ねぇに叱られるのはやっぱりきつい。

 ストレスの発散とかじゃなくて、その言動すべてが俺の身を案じて、心配してのものだから。

 

 花咲凛さんにはサプライズされた罰として、昨日はたっぷりと疲れを放出させていただきました。

 事後には、「完全な八つ当たりですね……」と言われてしまったので追加で制裁しておきました。

 まぁ八つ当たりなのは間違いないけど。

 

 そのせいで今日はまだ疲労感が残っている。

 教室には既に結構な人が登校していた。


 「あ、武田君おはよー」

 「おはよー」

 「おはよう」


 教室に入ればみんなが挨拶してくれる、出だしはそんなに失敗してないらしい、よかった。


 「おはよー」


 だからちゃんと挨拶を返すわけだが…………


 「あ、あいさつを返してくれたぁぁ!」

 「朝から話せちゃった…………」

 「き、昨日のは夢じゃなかったんだ」

 「わかる私も夢だと思ってた!」

 

 と、称賛してくれる。

 思わず俺はアイドルか何かな、って思わず勘違いしそうになっちゃう。


 女子たちのそんな反応に、苦笑しながらも席へつくと


 「武田君おはよっ」


 青山さんが登校してきた、相も変わらず胸の谷間が大胆に開いていてえっろい。

 もし昨日下半身のイライラを発散していなかったら危なかったな。


 「おはよ、青山さん」


 その後に橘さんが登校。朝だからかぼんやりとしていて眠そう。


 「みんなおはよー」


 ふあぁ、とすこし伸びをしながら橘さんも俺の隣の席につく。


 「キョウ君もおはー」


 「おはー」


 「昨日はお楽しみでしたなぁ…………宝生さんと」


 一瞬どきっとした、花咲凛さんとのストレス発散の声が大きかったんじゃないかと

 でもそういうことではないらしい。


 「ちょっと二人で出かけただけだよ」


 「ほーんそうですかぁ、えっちなことはしたん?」


 なんでもないことのようにぶっこんできたなぁ。

 みんなもみんなもで聞き耳立ててるし。


 そこで彼女の意図がなんとなくわかった。

 彼女は間に入ってくれようとしてるんだろう。


 率先して橘さんがみんなの聞きたいこと聞いてるんだ。

 つまり橘さんが俺の窓口いわゆる緩衝材みたいになってるわけだ。

 ならうまく答えないと、ね


 「するわけないじゃん、まだ高校生なのに、さ」


 「でも許嫁、っしょ?」


 「許嫁だからこそちゃんと手順を踏むんだよ。ちゃんと好きだから、ね」


 こういう感じに言うように宝生さんから指示されている。

 実際は浮いた話もないわけだけど。


 「ほんとぉ?私との仲に誓っていえるぅぅ?」


 「誓えるよ?ただ不安なのは橘さんと誓う仲が今日入れても2日しかないってことかな?それでも信用できるら…………だけど」


 紗耶香さんとは誓って何もしてないからなぁ。

 ホント手つないだだけだし。


 「2日、されど2日だよ!じゃあ身体的接触もないんだねん?」


 「身体的接触って言い方……ま、橘さんが考えている接触のうちに入るかはわからないけど、手をつないだくらいしかしてないよ?」


 30秒。


 そういった瞬間聞き耳を立てていたみんながどよめいた。


 「「手を…………」」

 「「つないだぁぁぁぁっ?!」」

 「しかもだけって言ったぁぁぁ」

 「「「えっっっっろ!!」」」


 どこがだよ!!!


 「あー、キョウ君それはだめだねぇ不純異性交遊だよぉぉ?」


 ちっちっち、と橘さんも指を振っている。

 どこぞのいけ好かない刑事みたいだ。


 「つまりさっきの誓いは破れられていたっていうことですね…………うーんみんなどう」


 「「「「「「「ギルティ!!!!!」」」」」」」


 「有罪確定!被告は洗いざらい話すべーし!」


 なんともひどい裁判である。

 

 「俺まだ弁護もらってないんですけどー」


 「弁護人は私!弁護することなし!ギルティ!!」


 やっぱりギルティなんじゃねぇか!

 まぁみんなも本気で言っているわけじゃないしな…………本気じゃないよな?

 


 「何を騒いでいるんですか、もう始めますよ」


 ちょうどクラスに秋月さんが入ってきた。

 いいタイミングだ、この話も追われる。

 ただ一つ誤算があったとすれば、秋月さんはそのまま授業を始めず、

  

 「…………それと武田君も男性だからと言ってあまり浮かれすぎないようにしてください」


 「えっ…………」


 今の悪いの俺かぁ?!


 「なにか?」


 秋月さんの怜悧な目。

 有無を言わせない、教師の圧って感じだ。


 「いえなにも。…………すいません」


 解せぬ。


 おいそこで騒いでた女子!そそくさと無言で戻っていくな?

 罪を擦り付けるな?

 というか橘さんは俺の弁護してくれ??


 あ、なんか口笛拭いてそっぽ向いていやがる!

 青山さんもなんか「わりぃわりぃ」みたいに手でやってるし。


 「それでは授業を始めます」


 なんか秋月さんが俺にだけ冷たい気がするなぁ。

 やっぱり許嫁なのを隠すためなのかな?


 教壇で授業する秋月の姿は厳格な教師って感じがぴったりで。

 ここ1か月の秋月さんの俺への対応を思い返すと…………



 …………あ、別にいつもどおりか。


 

 うん考えてみたらいつも通りだった。

 悲しいことに。あれくらい塩対応だったわ。



 授業終了のチャイムが鳴る、こういうのは時代が変わっても変わらないらしい。

 

 お昼を食べる前に先にトイレにでも行こうかな?

 

 この学校、というかこの世界ではどこの施設でもそうなんだけど男性専用トイレってのは少なくなっている。

 デパートとかでも各階に女性トイレはあるけど、男性トイレは一個しかない、そんな感じ。


 ということで例にもれずこの学校も少ない。

 許嫁制度を推進していることもあって多い方ではあるけど、それでも3つ。

 まぁそれだけあれば十分っちゃ十分なんだけどね。


 ……つまり何が言いたいかというと、俺の教室からは距離があって微妙に遠いわけでそうなると、

 授業合間の休みに行くというのは微妙にめんどくさい。


 だからみんな昼とかにいったりするんだけど……

 一緒のトイレにクラスメイト2人がいるのも偶然かな?

 でもいい機会か?教室ではあんま話すチャンスもなかったし。


 「田中君と、佐藤くん、だよね?同じクラスの」


 話しかけたら露骨にびくってした。

 なんかちょっと警戒されてる?


 「急に話しかけてごめんね」


 「べ、別に大丈夫だよ」

 「問題、ない」

 

 なるべく柔和な笑みを浮かべておく。

 警戒心をもたれても嫌だしね。


 若干たどたどしいのが佐藤剛君で、言葉がぶつ切りっぽいのが田中一君。

 

 花咲凛さんにクラスの男子だけでも覚えときなさいって言われて覚えてて本当に良かった。


 「ぼ、僕たちの名前覚えてたんだ」

 「…………」


 田中君は無言だけど首を縦に振ってる。


 「そりゃ知ってるに決まってるよ!数少ない男子だし」


 「そ、そうなんだ……」

 「そう、だよね」

 

 「二人はいつも二人でご飯食べたりしてるの?」

 

 「き、基本は一緒、かな?」


 「そうなんだ!じゃあまた今度一緒にご飯でも食べようよ。今日はご飯教室に置いて来ちゃったからあれだけど」

 

 「こ。このまま食べないかい?ぼ、僕たちのも分けてあげるから」


 「そうするのが、いい!」


 二人して熱心に誘ってくれる。


 「い、いやでも二人に申し訳ないよ。お腹もすいちゃうだろうし」


 それに花咲凛さんのお弁当を食べたい気持ちもある。


 「だ、大丈夫僕ら少食だから!」


 「普段のお弁当、だと、多すぎる、から」 

 

 なんというか意外だ。

 この二人がこんなにも積極的に話してくれるのは。

 教室ではどことなく気弱な雰囲気を醸し出していていたからなあ。


 「んーじゃあせっかくのお誘いだしご相席させてもらおっかな?」


 「や、やった。じゃあいつものとこでいいかな?」


 「うん、うん」


 トイレを出て二人についていく。

 どうやら弁当箱は外にちゃんとおいてきたらしい。

 衛生管理ちゃんとしてて偉いな。


 校舎を出て中庭へ。

 そんな階段に木陰で見晴らしのいい場所があった。


 「こ、ここ案外穴場なんだよね」


 「よくここで、たべる」


 はにかみながらも二人は笑顔で話してくれる。

 二人のお弁当は確かに小さかった。


 こ、これで多いって言ってたの?

 佐藤くんのは本当にダイエット中のJKくらいのお弁当しかないし、ちょっとガタイのいい田中君でさえ標準的な女子のお弁当くらいのサイズ。


 「二人はこれだけのお弁当足りるの?」


 二人分のお弁当を合わせて食べても、胃袋的には余裕がありそうな感じなんだけど。


 「全然足りるよ?」

 「…………」 


 足りるんだ………。

 佐藤君はおにぎり一個とおかず、田中君もおかずを1品とサンドイッチを分けて呉れようとする。するんだけど…………。


 「いやさすがに申し訳ないよ!俺教室に戻ったらごはんもあるし」


 「いやでも武田君のは教室でしょ?食べづらいだろうしそれに」

 「も、戻りにくく、ない?」


 戻りにくい?なんで?いじめられてるわけでもあるまいし。

 二人の言葉の意味がちょっとわからない。


 「いやお弁当食べるだけだよ?なんなら休み時間とかでも食べられるし」


 「で、でも女子、とかがさ?」

 「気、休まらない、じゃん?」


 そこでようやく俺は気づいた。

 彼らが何を気にしているか。たぶん異性を気にしてるんだろう。


 「あー別にそんなことないよ?普通に話すだけだし、話しながらご飯食べたらいいし。だからとりあえずこんなにもらえないよ、でも半分ずつは貰うね?」


 佐藤君からは小さいおかずをもらって、田中君からは一切れサンドイッチをもらう。

 二人のお弁当は冷めてもおいしかった。しかも丁寧に作られているのか味が染みているし、サンドイッチも具材がそれぞれで異なっている。

 それだけでもかなり手が込められているのもみてとれる。


 「うんとっても美味しい!」

 

 「よ、よかった」


 「うん」


 ご飯を食べながら雑談を交わす。

 二人はないが趣味なのか、とか何が好き、とか他愛もない話。


 ご飯も食べ終わり一息ついたとき。


 「ね、ねぇた武田君。ひ、ひとつ聞いてもいいかな?」


 「うん何でも聞いて?」


 佐藤君はしかしなかなかおずおずと切り出してこない。


 「こ、これを僕が聞いたっては言わないでほしいんだけど」


 「そりゃもちろん!」


 その切り出し方からするってことはだれだれが好きとかそういう話だな?

 きたきた男同士の恋愛話。やっぱ仲良くなるには下ネタがはやいっていうし!


 

 さぁなんでもきいていいぞ?


 

 その割には佐藤君と田中君の表情は下ネタを話すには真剣な気がするが……まぁ気のせいか?

 意を決したのか佐藤君が口を開く。

 

 

 「武田君は…………女子が怖くないの???」




 全然下ネタじゃなかった。


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