第63話 「許嫁投票~それぞれの思い 後編」
SIDE 宝生 紗耶香
「ただ今帰りました、お父様お母様」
食卓には既に父と母が座っていた。
「お帰り紗耶香、美味しそうなご飯ができているよ?母さんがよりをかけて作ってくれたから」
柔和な笑みを父が浮かべている、仕事をするときは厳しいけれどひとたび家に帰れば母さんのことを溺愛するだけの人。
まぁ母ラブが強すぎて嫉妬心の塊であって、たまにそのいちゃつきに胃もたれしそうになりますが。
「お帰りなさい。それと言い過ぎよお父さん、私の料理なんて普通の人と変わらないわ、ちょっと高級な食材を使わせてもらってるくらい。あとはたっぷりの愛情だけよー」
「母さんのその愛情がスパイスになってるんだよ~」
「もうあなたやめてよ娘の前で~事実ですけど」
二人でいちゃいちゃし始めました、黒川も顔には出さないけど辟易としてそうな顔をする。
なんか私もう帰りたくなってきました。
そこで二人で視線でイチャコラして1分ほど待っているとようやく…………
「……紗耶香もお腹すいているでしょう、ご飯は準備しているからまずは食べましょう?そのあとゆっくりとお話ししましょう?」
お父様の後にいわれるとどうしてもついで感が出てしまうわね。
まぁ等しく愛を注いでくれているのはわかるのだけど。
「いただきます」
お母様が作ってくれたビーフシチュー。
優しい味がします。
「黒川もたべなさい?今回は色々やってもらったし、食べたでしょう?」
「しかし……」
「いいから当主命令だよ?」
「……では失礼いたします」
しぶしぶといった顔で食べ始める。
うん、いつもの光景だ。
うちは使用人とかもほとんどいないためこういうこともままある。
「……それで許嫁投票はどうだった、とは聞かないよ? 大体知っているからね」
「はい……」
「ちゃんと前の日に話したように、賛成にしたようだね」
「はい……話してなかったらもしかしたら拒否していたかもしれません」
まぁ△に見えるような〇ですけど。
「それくらい悩んでいたものねあなた」
とても悩んで相談した。
動画を公開して炎上させた件、あそこまでやるのはいかがなものか、時折見せたあの狂気、それがどうしても気になりました。
【彼の立場ならやるしかないからね、紗耶香と許嫁関係が終わったら宝生家の力は使えなくなる、その時に報復でもされたらたまらないからね。関係者含めて処罰しておこう、と思うだろう】
そういわれたら確かに、と思いますた。
論理的には。
さらにお母様の言葉。
【それにあれじゃない、彼がここまで怒ったのってお姉さんのためでしょ?そしてこの許嫁制度に参加したのも。それだけ愛が深い、と読み取れる……それこそ自身の人生をベットするほどの。──そんなことを常人ができるわけないわ】
一歩間違えば自分の人生を棒に振るのだから。
それを迷いもなく彼は決めたらしい。
あの行動すべてが姉のため。
そう考えたら徹底的にリスクを排除するのもわかります、それで自分に矛先が向くまで彼はきっと許容しているでしょうから。
「ひとまずは彼に認めてもらえるくらいから始めようと思います」
「へぇ」
面白いものをみるようにお父様が笑う。
もうこの人は私の感情をきっと読んでいるのでしょう。
「今回の炎上きっと宝生家の力が入っているのでしょう?それも黒川経由で武田さんにお願いされたのでは?」
「……」
無言の笑み。それは肯定ということでいいのでしょうね。
黒川も申し訳なさそうにしているし。
「きっと今回の件は過去に私が甘い対応をしたから、そんな風にでも言われたのでしょうか……宝生家の力がないとあの炎上のスピードはおかしいですもの」
それがなくても炎上はしたとおもいますがそれにしても早すぎました。
「過去のこともあったからね、張り切ってやっていたよ。ただ彼はそんな風に入ってなかったよ?ただ単純に協力してほしい、自分の姉の安全のためにってだけだよ──」
隠すことでもない、とお父様もさらっと話す。
「あらあらそんな事を言わなくても私たちが協力してくれると思ってたんでしょうね、どこまで彼は計算しているのかしら?」
お母様も興味深そうに笑う。
「……ダメだよ」
ふいにお父様の声が絶対零度をまとった。
「娘の許嫁に嫉妬しないの、有力ね、ってだけだよ」
「ならいいや」
すぐに霧散したけれど、本当にお父様お母さまのこと大好きなんだから。
「話を戻すけれど、今回の件黒川じゃなくて私にも言っていい話だと思うのよ、ただそうしなかったきっと反対するかいい顔しないと思ったのね……事実たぶんそうしてた気もする」
たぶんいい顔はできなかったでしょう。
「たぶんこれは椎名さんと本質的には同じ。彼女は警備体制が筒抜けになってることも教えてもらえなかった、それと同じくらい信頼されていない、ということ」
肝心な時に信頼しきれない、そう判断されたということ。
私のことを助けたのに、その相手を信用すらしていない。
「そもそもの話も私が舐められたのも悪かった。舐められて私を攻撃しても大丈夫とさえ思われてなかったらこんなことにはならなかったから」
あの時私が甘い対応をせず、もっと別の方法で従業員とかも助けることはできたのだから。
「うん」
二人とも私の選択をきちんと聞いてくれる。
「あと単純に悔しいわ、あなたじゃ助けにならないって言われてるみたいで。でも事実そうだからとりあえず並び立てるようになるわ!」
これは私の宣言。
もう足手まとい扱いなんてさせない。
「善性は美徳だよ、君は我慢強いけどそれを見て悲しむ家族や従業員知人がいることを忘れないように、ね?」
お父様からは苦言を。
そしてお母さまからは──
「あなたの危惧する通り彼の狂気っていうのはきっと存在するわ、それは端々に見えたから。今のところその狂気は家族が関わらなければ発揮しないとは思うけど、あなたはその狂気を発揮してもらえるよう目指しなさい」
「でも私はまだ彼のこと愛してるとはいえないですよ?」
「そりゃそうよ愛なんてそんな簡単に芽生えないわ?でも男嫌いだったあなたが並び立ちたい、そういい始めた。その淡い気持ちを大事にしなさい」
確かに最初は諦めてたし、反感しかありませんでした。
しかしそんな気持ちは薄れている。
「そしていずれ彼の狂気を制御なさい、正妻として。──昔の私が暴れまくっていたお父さんを止めたみたいに」
「その話はやめよ、過去のことだよ?」
「あら私は好きなんですけどね?」
二人がまたいちゃつき始めたので、放置して少し考える。
……正妻として、か。
そこまで考えてはいなかったなぁ。
「じゃあ難しい話はおわり、いやー娘が処女で終わらなくてよかったー心から心配してたんだよねー」
「あなた」
「お父様」
「あ、すいません」
なんでこう時々デリカシーがないのだろうか、この人は。
この一か月でいろいろ変わりました。
最初はあんなに許嫁制度がいやだったのに今じゃ悪くない、とさえおもっている。
いや少し明日以降が楽しみ……かも?
「母さん紗耶香が別の人を想って笑顔に……うれしい気持ちと巣立っていくような悲しい気持ち……なんか複雑だよ」
「いい加減子離れしなさいな、大学生なんだし……あとでよしよししてあげるわね?」
だからそういうのは私と黒川がいない時にやってほしいのよね!
聞こえてるんですから……
SIDE??
「報告は以上となります」
「そう……分かったわ」
力をそぎ落とせればよかったのだけど、さすがにそう簡単には落とさないわね
「第一目標はクリアしたのだしいいわ、かなり盛況みたいだし」
手元のタブレットには、SNSでは九頭竜たちの炎上がまとめられている。
今回の件でやつらは私たちの徳にはなってくれた。
「灰崎はどうしますか?」
「……灰崎?」
ああNAZ機関の。
「私たちの件を漏らされてもめんどくさいわ始末して」
「……承知いたしました」
そのまま部下が出ていく。
それにしても──
「九頭竜は予想以下ね、あまりにも。馬鹿さ加減で言えば予想以上ともいえるけれど」
これ以上考えてもしょうがないわね。
どうせ彼らの行先なんて決まっているのだし。
……さぁ今までのように彼らは男だと鼻にかけて威張れるのかしら。
みものね。
今後の彼らの行く末を想うと少し気分が晴れた。
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長かった1章ようやく終了!
次回からは2章!
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