第62話 「許嫁投票~それぞれの思い 前編」

 SIDE 秋月 莉緒


 「それで?許嫁投票の結果はどうだったのかしら?」


 「……聞かないでよ、分かってるでしょ?」


 私の恋人はコーヒーを片手に意地悪そうな笑みを浮かべてる。


 「ふふ本当に【空白】で出したの?」


 「ええ、出したわよ」


 これが私にできる精一杯の抵抗なわけで。

 男が嫌いな私が今できたこと。


 「【デートができなかったから武田君の許嫁候補が正しいか判別できない、でもそれをもって否定することもしない、だから一応は継続してあげる】……だから空白」


 「うん」


 「それを考えてたから、あの時あなたが熱を出して私が代わりにデート行こうか?って言ったとき否定しなかったのね、かなり渋ってたけど。普段なら否定するものね」


 本当は彩香を行かせたくなんてなかった……でも彩香が私のためにも許嫁候補の人となりを話して確認したいって言ってくれて否定もできなかった。

 だから私たちの関係を続けるために使わせてもらった。


 「あなたにしては本当にグレーなやり方よね」

 

 わかっている、こんなことは先延ばしでしかないことは。

 根本的にはどうしたらいいのかはまだわかってない。

 

 「もう一回いうわよ?〇か×かって言われてるのに、範囲外の答えを出すなんて教師らしくないしあなたらしくもないわね」


 まぁそれしかできないのでしょうけど、とぼそりとつぶやく。

 なんで彩香はこんなにも冷静に話せるのか私たちの今後のためでもあるのに。

 

 「あやか!」


 「わかった……じゃあ一つだけ言わせて?今回は恭弥君が優しかったからそれに乗っかる形でうまくいった。でもいつまでもこんなこといかないわよ?彼が優しいから成り立っているだけよ」


 「……」


 「今していることは状況の先延ばしでしかないわ、そんなんでは恭弥君がいくら優しいからっていずれ納得いかなくなるだろうし、あなたの親は言わずもがないつか気づく」


 「……」


 分かっている、分かっているけど、何も動けない。


 「だから私が言いたいことはただ一つだけ」


 それまでの真剣な表情から一転して、ふと優しい声音に変わる。


 「自分の選択をなさい、あなたならきっとできるわ」


 「自分の選択……」


 いままでもそうしてきたつもりではあるけど。

 何が違うっていうの?


 「……難しい話は終わりにしましょ?」


 コーヒーをシンクに置き、リビングを出ていく。

 それはまるで私をおいて出ていくように見えて……


 「そんな目で見ないの」


 見れば彩香が私の方を振り返って苦笑していた。

 

 「先シャワー浴びているから後で来て……?」


 潤んだ瞳で彼女が見つめてくる。


 「めちゃくちゃにして、ね?」


 流し目でそんなことを言ってくる彩香。

 全くもう、こういうところほんと私の扱い方をわかっている。

 でも、実は私……


 「すぐいくわ」


 とりあえず今日は激しくなりそうかも……。



 SIDE 橘 瑞麗


 「……上手くできているの?」


 電話越しで少し不機嫌そうに話す母親の声。


 「はい、お母さん」


 「そうそれならいいわ……まぁまだ女を使って誘惑できていないのはどうかと思うけれど」


 「……」


 「私の時はそれはもう上手くやったものなのよ?あの人を落としたとなんか──」


 そこから話し始めるのはもう何回も聞いた話。

 いや何回じゃすまない、何十回も何百回も聞かされた。


 過去の話なのに。

 もうお父さんはとっくに出ていって家にはいないっていうのに。

 家には私とお母さんしかいない……昔みたいに4人家族じゃないんだから。

まぁお姉ちゃんのことなんてあんまり覚えてもないけど。


 そんなことを想っても言わない、いつものように聞き流す。

 

 「ねぇちょっと聞いてるの?!」


 「聞いてるよちゃんと、昔からお母さんはずっと綺麗だったんだよね?」


 「そうなのよ!だからね──」


 こうやってまた気持ちよく話し始める。

 話を遮ったりすると、怒り始めるんだから。

こういうときは待つしかない。


 「──そういえば動画見たわよ?あなたは大丈夫だったの?」


 やっとその話をしてくれるのね。


 「うん、大丈夫だったよー」


 「そうそれならいいの。あなたの許嫁もお父さんみたいにいい人だといいわね……お父さんはまだ帰ってこないけどなるべく家に帰ってくるような人にしなさい」


 帰ってこないってどれだけ待つつもりなのか……。


 「わかってるよー、お母さん」


 「それならいいの、それとほかの女より先んじて粉かけなさいね?ほかの泥棒猫たちに奪われないようにしなさい!」


 お母さんのその声は怨嗟に満ちていて。


 「うんそれも大丈夫だよー、私が一番仲良くしてるお母さんの言いつけ通り」


 「さすが私の子ね、このままその調子で続けなさい」


 言いたいことだけ言って電話を切られる。

 これもいつものこと。


 「はぁ……だる」


 電話をベッドに放り投げ、そのまま横になる。


 「これでも家にいる時よりは全然まし」


 家にいる時はいつも気が抜けなかったから。

 この生活もお母さんが持ってきたものだからろくなものじゃないと思ったけど、存外悪くなかった。

 許嫁候補の人たちも優しいしそれに、


 「武田さんも悪くなかった」


 正直許嫁投票自体どうするかは、デートをする前には半分決めていた。

 挑発しても怒らないし、裸を見ても特に何もしてこなかったから。

 私の知っている男とは違ったから。


 「それに許嫁投票での武田さんの行動もよかったなー」


 彼が九頭竜に対して徹底的にやったのはよかった。

 たぶん彼があそこまで怒っていたのは、彼のお姉さんのため。

 そのために九頭竜たちを法律で捕まえ、社会的にも制裁した……やりすぎと思えるくらいに。躊躇もせずに、それがいい。


 「あー武田さん私の親も合法的に始末してくれないかなぁ?」


 たぶん今じゃまだそこまではしてくれないだろう。

 助けてはくれるだろうけど。


 「正妻にでもなったらやってくれるかな?」


 どうだろ、でもとりあえず今の関係じゃどうしたって無理だろう。


 「……とりあえずは学校も始まるし、仲を深めていこうかなー」


 スマホを見て、彼に連絡する。


 【学校一緒に行こうよ!学校でもよろしくねー!】


 「こんな感じでいいかな?」


 自分の頬が自然と和らいでいることには気づかなかった。



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 話長くなりすぎたので分割した!

 次回は宝生さんの理由!土曜に公開!

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