第61話 「許嫁投票⑦」
「皆さんお忙しい中お集まり頂き誠にありがとうございます、そして前回はあのような騒動を起こしてしまい申し訳ございませんでした。この場を借りて改めて謝罪させていただきます。」
感謝と謝罪。
椎名さんが深々と頭を下げる。
5秒以上かけて頭を上げた椎名さんの眼もとには化粧で隠しきれないほどの隈。
「今回はああいうことはないのね?ああいうのはもうこりごりよ?」
心底うんざりしたような顔の秋月さん。
「ええ、ああいうことは起こりません!そうならないために上層部に警備の補充をごり押ししましたので、そして──」
椎名さんは鞄を手に抱え、扉へ向かっていく。
まずはホテルのカギを内側から施錠し、しかもそのうえで鎖を巻き南京錠で固定する。
「──万全の態勢を施しております!」
もうなんか椎名さんの目がバチバチに決まってるんだけど?
気持ち充血もしている気がする。
「そ、そう……これなら安心ね?」
「わ、わぁすごーい」
あまりのガンギマリ具合に秋月さんと橘さんも若干引き気味だ。
「椎名さんから要請があって宝生家からも見張りを出しています、……前回は半分私のせいみたいなところもありましたから、その節はごめんなさい」
「あなたが謝ることなんてないわ?悪いのは邪魔して婚約破棄なんかをしたあの男たちであって被害者のあなたに過失なんて何一つないのだから」
「そうだよ!あんな犯罪者なんて社会のゴミ、気にすることなんてないよー!」
中々に酷い言いざまだ、二人ともあの場では黙っていたがどうやら九頭竜たちには相当鬱憤がたまっていたらしい。
そりゃそうか。
「だからキョウ君がバシッと言ってくれた時はちょっとスカッとしたよ、本当はそのまま潰して欲しかったけど」
さらっと笑顔で怖いことを言うよね、橘さん。
というか何をつぶすのかな、何を。
「まぁ確か潰さなかったのはあれだけど、ちょっとは見直したわ、やるじゃないあなた」
なんか秋月さんにもほめられた。
でも二人して潰してほしそうなのはちょっとやめてほしい普通に怖いから。
なんか俺喧嘩したら狙われそうで怖いもの。
「俺は自分の思ったことを言っただけですけどね?」
「気色悪い、ってね……あれ言われたら傷つくわね」
「しかもキョウ君の言葉、感情のってなかったから余計怖かったよねー」
そしてなんかビビられてもいるんだけど。
「……いえあれは本来わたくしの役目でした。……誠に申し訳ございませんでした」
また椎名さんが深々と頭を下げる。
しかしここまで謝られるとなんと申し訳ない気持ちにもなってくる。
あいつらが来るのはわかっていた上で誘い込んだまであるからな。
「……」
「……」
さすがに秋月さんと橘さんもこれ以上は何もいえない。
「……気にしないでください、大企業の圧力にはどうしようもないことがあるのはわかっておりますので」
宝生さんの言葉は大企業の娘だからこそ出る発言だ。
間違っても俺はそんなことは言えない。
ただそれで当人が納得できるかは別問題だけど。
椎名さんはそれでも、申し訳なさそうに顔を伏せている。
「そうはいってもですね……」
まだ足りないか、でも今日はそんなことを言うために集まったわけじゃないからね。
「あんなバカみたいな行動は予測できないですよ、クズたちはしかるべき罰は受けるでしょうし。これ以上言っても仕方ありません。それよりも今日はこんな反省会みたいなことをするのではなく未来の話をしましょう」
「未来……ですか」
「ええ、今日が一つの区切りの日でしょう?」
「そうですね……」
「それでも椎名さんが納得できないなら──」
「──なら?」
縋るような椎名さんの目。
「次があったら、その時は頼みます椎名さん」
明るい笑顔を浮かべておく。
気にしていないよ、と、言外のメッセージも込めて。
「武田様……」
少し目に涙を貯め、しかし決意に満ちた目をしている。
「今回見たいなことがもう一回あるなんて私普通に嫌なんだけど?」
「確かに先生の言う通り、もう経験したくないねー」
「……私も今回のことを含めれば2回経験しましたが、もう勘弁してほしいわ」
宝生さんが控えめにしかしそれでも確かに笑いながら同意してくれる。
この話は、もう笑って流そうという俺の思惑に乗ってくれた形だ。
「宝生さんは当事者だからよりもう経験したくないわよね」
「本当に、ね」
つられてみんなも笑う。
それで会場の雰囲気も暗いものから、すこし暖かい雰囲気に変わる。
「じゃあこんなことを経験しないように守ってください、お願いします! 俺ひ弱な男なので」
「はいお任せください!」
椎名さんは覚悟を決めた顔をしている。
でもそんなことされるとすこし罪悪感を感じちゃう。
俺そもそも椎名さんには本当に何も思っていないからなぁ……
まあいいか今回の件を機にもっと頑張ってくれるだろうし、結果オーライ。
「誰がひ弱な男なんだか」
「キョウ君めっちゃ大立ち回りしてたけど」
「ひ弱な割にはすごい高笑いしてましたけどね?」
おかしい、いい雰囲気になったのはいいけど俺がなぜか引いた眼で見られている。
「……気のせいじゃない?」
「違うわね」
「ちがうねー」
「それは無理よ」
三人から同時に否定された。
ひどい、そういうときだけ連携して。
はっ?!
もしかしてこのまま許嫁拒否されるか?!
なんかそう見たらみんなの笑顔が悪魔みたいに見えてきた。
「さ、さて取り敢えずご飯でも食べない?こないだはあんまり楽しめなかったし」
「あ、逃げたわね」
「キョウ君にげたー」
「逃げ足速いわね」
「……夕食の準備はすでにできておりますので」
椎名さんが助け船を出してくれた、その隙にスタッフさんが配膳をしてくれる。
今回は鍵もしているから、誰も入ってこないから安心して食事を楽しめる。
うわ、このステーキうまぁ。
舌がとろけるんだけど。
「これおいしーー!」
「わかる!」
橘さんの言葉に全面同意である、 俺と橘さんは舌鼓を打ち続ける。
対して秋月さんと宝生さんは優雅に口に運んでいる。
さすが俺より年上だ。
「……さて宴もたけなわではございますが、そろそろ本題に入りましょうか」
椎名さんの言葉で皆の雰囲気も少しひりつく。
しかし宴もたけなわっていつの時代だよ。
「それではみなさんに許嫁投票をしていただきます、手元に紙が用意されています、そちらにこの許嫁制度を続けるかどうか、〇か×で記入してください。あ、記名は忘れないでくださいね」
それぞれ衝立のようなものが用意されて、見えないようにされる。
俺の答えはもうとっくに決まってる、というかそれしかないのでパパっとかける。
「いいですよ」
「わたしもー」
「きまってるわ」
皆も迷いはないのかすぐに記入される、みんな×にしてたら俺泣いちゃうよ?
「あ、開ける前に一応ルールを再度お伝えします。今回は4人で行うため答えが偶数となる可能性がございます。ですので2:2で割り切れなくなった場合は武田様の票が入ってる方が優先されます。ですので武田様の票は実質2票分です」
これには事前に言われていた通り。しかし本当に男性優遇の社会だ。
これで俺許嫁投票負けたらたぶん病んで引きこもるな、うん。
まぁ裏を返せば誰かが投票してくれればいいってことだ、頼む誰か!
誰かが入れてくること祈りながら、開封の議へ。
「では発表いたします」
緊張の瞬間。
息をごくりと飲みこむ。
「武田様……〇!」
これは自分で書いたからわかる。
大事なのは他だ他。誰か投票しててくれ!
「秋月様……え、えぇっと、え?……く、空白?」
椎名さんが
く、空白?
え、これどういうこと?どうなるの?
秋月さんは堂々とした顔してるし、そりゃそうでしょ、みたいな。
「こ、これはいったん後回しにいたします!」
え、えぇぇ。空白って、真っ白ってことだよね?
「気を取り直しまして宝生様……ええっと、△っぽい……〇?え、△?え、どっち?無駄にきれいだからわからないんですけど!」
おい椎名さん困惑してるって!
というかあなたたちさっきから〇か×かって言ってるのに、それ以外の選択肢出してくるのやめて!
「つ、次!さ、最後に橘様!」
もういやな予感がしない。
気持ち椎名さんの声も震えている気がする。
頼むよ橘さん!
祈るような気持ちで彼女を見る。
橘さんはご飯をおいしそうに食べている。
なんか期待できないかも……。
「橘様!……え、えぇっと花丸!」
花丸……一応丸だよな?
つまり?
「許嫁制度継続……ってこと?でダイジョブ?ちゃんとした〇は俺だけなんだけど」
椎名さんは橘さんの紙をゆっくりと下に置き、そしてひとこと。
「……たぶん」
前代未聞の〇が男しかいないという許嫁投票の結果になった。
────────────────────
次回理由もちゃんと説明するよ!
良ければ作者フォローもしてもらえると助かります……!
沢山のフォローと応援ありがとうございます。
また★とかいただけてめちゃくちゃ嬉しいです。ありがたい限りです!
今後もよろしくお願いします!
なにかわかりづらいところとかあったらお気軽にコメントしてください。
応援ボタンなどもぜひお願いします!!全部がモチベになります!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます