第57話 「許嫁投票③」 SIDE悪役令嬢
「お姉さんが心配でしょう?」
不快な笑みを浮かべて灰崎が武田さんを脅してくる。
ただそれに猛然と反応したのは椎名さん。
「あなたは何を言ってるの?そもそも彼のお姉さんは専門の病院でちゃんと警備を……」
そこで椎名さんが言葉に詰まる。
さっき九頭竜が言ってたことを私も思い出した。
九頭竜が乱入してきた最初に言ったこと。
【君の不出来なお姉さんが入院しているのは、丘の上に建つ緑が丘病院だよね? ちゃんと専門の施設にも入院できるように整えているよ】
そういっていた。
九頭竜たちがそんな情報を直接入手できたわけがない。
ではその情報源はだれなのか、そんなの決まってます。
目の前でほほ笑んでいる灰崎以外にありえない。
「私には知人がまぁまぁいましてね、どこに入院しているのかとかも教えてもらえるんですよ。それこそ増員したはずの警備体制とかそういったところもね?」
椎名さんが慌てて携帯で誰かに連絡する。
十中八九、警備の責任者か誰かにでしょう。
「……っ?!」
ただその結果は芳しくないらしい。
悔しそうに唇をかみしめている。
「どうしました?責任者が出ませんか?それはそうでしょうね。今ごろは緑が丘病院の鎮圧も終わり、もう確保も終わっている頃でしょうし」
「……あなたそれでも公的機関の人間ですか?!人質を取るなんてマネあまりにも外道すぎる!」
「椎名さんは本当に真っ白な人ですね、一応これでも私は公的機関の人間ですよ……まぁ椎名さんと違って使えるものは使って結果を出す、ただそれだけです」
勝ち誇ったかのように椎名さんを見下す灰崎。
ただあまりの暴論に皆が皆、顔をゆがめている。
椎名さんもここまで灰崎がここまでやるとは思ってなかったのか、拳をこれでもかと握りしめている。
「……こんなことをしていいと思っているのか?今回このことを公表すれば──」
だからたまらず秋月先生も口を出してはいるけど……
「あなたは確か許嫁候補の秋月様、でしたね? 公表ですか?この暴力事件で? 先ほども言ったようにこんなの些細な
九頭竜の様子を見れば、少し不満げにしている。
「私も面白い案だとは思ったんですけどね、椎名さんの顔も潰せて、宝生家のご令嬢をまた婚約破棄させることができるという。まぁさすがにそこまで上手くはいきませんよね、結果だけで満足するとしましょう。……あぁここの録画も私の手でなんとでもなるので変なことを考えないようにしてくださいね、手間ですので」
もう灰崎の中ではどうやら勝ったことになっているらしいですね。
それはどうやら九頭竜と高遠も一緒のようで……
「ははは、ざまぁないね! さっきまで勝ち誇っていたのはどうした、あの笑顔ももう出せないのか!」
「さすがにおいたが過ぎたんじゃないのかな、恭弥君? さすがにそれじゃ恋人としてもやっていけないよ」
「コウの言う通りだ、さすがにこんなに反抗されたんじゃ恋人になんてできやしない。……これはちゃんと躾をしないとなぁ」
「よかったね、かわいがっては貰えるみたいだよ?」
下種な笑みを浮かべる九頭竜に、同意する高遠。
自分が一番なら新しい男ができるのをやめるようにすればいいでしょうに。
女性と違って男性同士なんて妊娠できるわけでもないのだから、男性への愛を自分だけで独占しておいた方がいいに決まってるのに。
……それとも乱交でも望んでいるのでしょうか?
「それにしても本当に良かったな」
「何がですか?九頭竜様」
「いや恭弥に姉がいてくれてだよ」
武田さんに対して君付けがなくなったか、どうやら明確に下だと見下し始めたらしい。
「姉がいて、ですか?」
「そうだよ、こいつの不出来な姉がいたおかげで俺たちはなんとか成功することができた。本当にこいつの姉には感謝しているよ、何か褒美を上げたい気分でもあるなぁ」
自分を王様か何かと勘違いしてるんじゃないのでしょうか?
いえ実際に勘違いしているんでしょうね。
自分が灰崎にいいように使われているとも知らずに。
「確かに武田様の不出来なお姉さまには感謝しないといけませんねぇ」
というか本当に何も思わないのかしら、ここまで武田さんが静かにしていることに対して。
本当に何も感じないのでしょうか。
「どうされました?武田様?もう何も言えないですか?」
「……」
「反抗的になさってもいいのですよ?まぁそのぶん九頭竜様の躾も厳しくなるかもしれませんがね?」
プルプルと、小刻みに武田さんの体が揺れている。
「恐怖で何も言えなくなってしまいましたか?ふふふ」
「まぁそんなに心配することはない、従順にしてくれたら悪いようにはしないさ」
「そうだよ、悪いものじゃない、君も真の良さに気づくよ?」
形勢逆転したとみたのか、さっきまでの狼狽ぶりはどこへ行ったのか、というくらい意気揚々としている。
「武田様申し訳ございません、私の力が足りずこんな事態になってしまい。本当に申し訳ございません……」
力なくうなだれる椎名さん。
私の手元でスマホが震え、それと同時に灰崎のスマホも音が鳴った。
内容をさっと確認すれば予想通りの内容。
「さて任務完了の吉報ですかね……あぁあなたたちには悲報かもしれませんがね」
喜びが抑えられないらしい。
それは灰崎だけじゃなくて、九頭竜と高遠もそう。
早く出ろ、と灰崎のことをせかしている。
「これでお前も俺らのものだ」
「どうせならスピーカーにしましょう、みんなで朗報を聞きましょうよ」
スマホを全員が聞こえるようにして来る、そんなことしなきゃいいのに。
「……結果は?いい報告なんでしょう?」
電話は部下からの電話みたいです。
椎名さんは絶望して、いやそれでも何とかしようとスマホで各所に連絡とかしようとしている。
「あぁもう無理かも」
ここまで何も言わなかった武田さんがぼそりとつぶやく。
その言葉に秋月さんも橘さんも同情するような目を向けるけど……でもそんな目を向けなくてもいいと思うのよね。
なぜか電話からは返事がなかなかない。
「なぜ返事をしないの?早く報告なさい!」
「あー、あー、聞こえてますか?」
「……誰?あなた」
「聞こえているみたいですねよかったです」
灰崎には聞き覚えのない声だろう。
ただ私たち一緒に生活したものならわかる。
秋月先生と橘さんも不思議そうな顔をしてる。
「誰だお前は!」
「これスピーカーになっているのですね、ならお嬢様たちもいらっしゃいますね」
「いるわ」
「よかったです、それでは一言だけお伝えしましょうか──」
一呼吸おいて、
「──すべて抜かりなく、存分におやりください」
この言葉は私に向けてじゃないわね。
多分意味を分かったのは私とあと一人。
その他の全員が訳の分からないような顔をしている。
「あはははははッ」
そう一人以外は。
「……た、武田くん?」
「キョウ君?」
急な豹変ぶりに許嫁候補の二人も困惑している。
いや私以外の全員ですね。
「お言葉に甘えてじゃあ存分にやろうかな」
前を向いた武田さんの顔は暗い笑顔が浮かんでいた。
────────────────────────
1章クライマックス近づいてきたよん。
レビューを1件いただきました!誠にありがとうございます!すごくうれしいかったです!みなさんも見てもらえたらです!
あと沢山のフォローと応援ありがとうございます。
また★とかいただけてめちゃくちゃ嬉しいです。ありがたい限りです。
今後もよろしくお願いします!
なにかわかりづらいところとかあったらお気軽にコメントしてください。
応援ボタンなどもぜひお願いします!!全部がモチベになります!!
ではでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます