第53話 「やっぱり謎しか作らない保健教師」
やばい。
戦慄するこのお化け屋敷普通にやばいやばすぎる。
入って5秒で後悔した。
男ならば、みたいなことを考えてかっこつけようとしなければよかった!ちょっと前の俺をぶん殴って止めてやりたい!
なんで死体が起き上がって追ってくるんだよ?!死体はそこら中に転がってるし、ちゃんと片付けといてよ!!
あと暗いし!!たまにあたりが明るくなったとしても緑色の光で怖かったりするし!
もっと怖くない色にして!!
というか一番のホラーは…………
「ふふ、楽しいわね-」
なんで白石さんはほほ笑みながらこのお化け屋敷を探索することできるんだよ。
普通こういうのって、女性側が「きゃーこわーい」とかいうもんじゃないの?
俺が押し付けられる白石さんの胸の重量で安心感を得ちゃってるもんね。
「あ」
「…………どうしました?」
「こういうのってもしかして、「きゃーこわーい」とか言った方がいいんじゃないかしら?」
「いや今更ですか?!というかすごい棒読みでした──んねっ?!」
なんかお化けが出てきてめっちゃ舌噛んじゃった!!
「きゃ、きゃぁこわーい」
俺の驚いたのを見て、一泊遅れて悲鳴らしきものを上げる白石さん。
あげる、上げているんだけど…………
「…………白石さん」
「な、何かしら?恭弥君」
「ちょっと棒読み過ぎません?」
「それは我ながら思ったわ、何なら白衣の着方違くない?とか内心思ってたし」
それ全く怖がってないじゃん。
「白石さんがいればお化け屋敷怖くなんてないですね」
「…………でも大丈夫?恭弥君楽しくなくない?怖がってない女が一緒にいて。なんだったら途中退場しようか?」
暗いから顔はあんま見えないけど、白石さんにしては珍しい言葉だ。
「いえ?全然?確かにお化け屋敷は怖いですけど、こういう経験を一緒にできていることはすごいうれしいですし」
特に胸の感触なんてずっと味わっていたい。
まぁ言わないけど。
「ふふ、そっか」
「ええ、そうでうぅぅぅぅっ?!」
舌噛んだ!!
驚きすぎて舌噛んだ!!!いたい!!
というか出た、頭に包丁刺さった女が出てきた!!
これからかっこつけようとしてたのにいいところで出て来てぇぇ!!
「じゃあ先に進みましょうか?あんまりここにいたらほかのお客さんにもキャストの人にも迷惑になっちゃうかもしれないししね?」
そういえばこの女の人の目がぎらついている気もする。
まるでこんなところでいちゃつくな、みたいな?
いや気のせいか?お化けだしな元々だよね。
やっと迷宮を出れたのは一時間後くらいたってからだった。
もう普通にここのお化け屋敷2度と行かない。
次行ったらおれ失神しちゃう気がする。
「んー楽しかったわね、いろんな種類の悪霊とかお化けとかいて、また来てみましょ?」
伸びをしながら、楽しそうに笑う白石さんにちゃんと俺の意思を伝える。
断固とした俺の意思を。
「ええ、また来ましょうね」
胸の迫力にはお化けの怖さなんて掠んじゃうよね?
その後もいろんなアトラクションを遊んだ。
ジェットコースターは大体制覇したし、べたなところで言うと、ティーカップとか、高さ70メートルの塔から落とされるアトラクションとか本当にいろんな遊具を楽しんだ。
そんな楽しい時間なんてあっという間に過ぎていく。
「もう夕方だねぇ」
「そうですねぇ」
なんというか今日初めてゆっくり座った気がするな。
「年甲斐もなく動きまわちゃった」
「年甲斐もなくって、まだ若いじゃないですか?」
「あら嫌みかした?恭弥君はもっと若いけど?」
「いや嫌みとかじゃ全くなくて、えーっとなんていうんですかね!そんな悲観することないというか?」
いえばいうほどドツボにはまっていってる気がする。
「……ふふっ、冗談冗談。恭弥君の言いたいことはわかってるから大丈夫よー」
どうやら俺はまたからかわれたらしいな?
「どう?今日のお出かけは少しは恭弥君の気晴らしになれた?」
夕陽によって白石さんの顔は見えないけど、たぶん聖母のような顔をしてると思う。
そう俺に錯覚させるくらい優しい声音だった。
「……気晴らし、ですか?」
「ええ…………風のうわさで聞いたところによると、恭弥君今結構大変な状況にあるらしいじゃない?うちの莉緒がかかわっている許嫁投票とはまた別の件で」
別の件…………白石さんが言っているのは十中八九宝生さん関連の話だよね?
風のうわさって、それ秋月さん経由じゃないかな?
「そうですね、ちょっと面倒なことにはなってましたけど、それだけです。そんな大変じゃないですよ?」
「あら?そうなの?」
本当に、と少しだけ訝しい様子で訪ねてくる。
「ええ、まぁ気を張っているっちゃ張ってますし、そういう意味では少しはつかれていたりもします」
それは事実だけど。
「でも正直あんな奴のことなんて些事でしかないですよ? あんなことで大変なんて言ってられません。こんなんで弱音を吐いていたら、タイプも異なって、いろいろな問題を抱えている許嫁候補の方たちの問題に一緒に向き合うなんてことできませんから。大変がっていたり余裕ない人に相談なんてできないし話そうとも思わないでしょう?」
「それはそうだけど……でもすごい、それで納得できるの高校生じゃないみたい」
あながち間違ってもないんだよな。
思わず苦笑してしまう。
「一応高校生ですよ?」
「一応ってなにそれ」
ふふっと小さく笑う。白石さんは冗談だと思ったみたい。
でも本当なんだよね、だって前世があるから。
「でもさっきのは見栄もちょっと張りました。本当は大変だなぁとも思ってましたし、でもある人が言ってくれたんです。『こんなんで大変なんか言ってたらハーレム王なんて夢のまた夢だよ?』みたいなことを。…………ハーレム王は目指してませんけどね」
「なかなかスパルタなことをいう人ねーそれは」
スパルタ、スパルタ、かぁ。うん確かに。
でも。
「確かにスパルタですし厳しいけど、でもその分優しくもありますから」
感情見えづらいし、いたずら好きだけど。
だから俺はそんな彼女のこともいつか解決してあげたい。
「いいわねぇ恭弥君にそう思われているその人が、ちょっとやけちゃう」
「まぁ今はこんなみんなに心配されちゃうくらいなんでまだまだですけどね?」
「それはそうでしょう、でもたぶん君は頑張り続けると思う。これからもきっとね?」
「そうありたいですけどねー?」
「だから申し訳ないけどうちの莉緒の時もよろしくね?不器用だけど、優しい子でもあるから。恭弥君のまえではツンツンしててあんなんだけど、信じられないかもしれないけど一応言っておくと今日わたしをここに派遣したのは彼女だから」
考えられるとしたらそうだし理屈では秋月さんなのも分かるんだけど。
白石さんの言う通り信じがたい。あんなに厳しいし俺に会いたくないともいっているのに。
「莉緒が風邪気味なのも本当だし理由の一つだけどね? でも莉緒が別の問題で大変そうな君に今の自分じゃ優しくすることなんてできないし、違うからって。だから優しくしてほしいから今日だけは私を派遣してあげるって」
…………そっか。
うまく家の中で隠せてると思ってたんだけど違ったらしい。
秋月さんにもばれていたらしい。
「……腐っても教師だからねぇ、そういうのはわかっちゃうのよね?」
「そうなんですねー」
教師ってすごいな。
「…………それでどう?最初の質問に戻っちゃうけど、少しは何も考えずに気晴らしになってもらえたー?私としてはなってればいいなーって思うんだけど……」
「ええ、いっぱい叫んで叫びすぎてすっかり!」
「そっか…………ならよかったー、ここに来てから私も普通に楽しんでただけだからそういってもらえてよかったわー」
あぶなかった、とふぅと一息つく白石さん。
でもよかった彼女も楽しんでたみたいで。
気づけば長く話してたらしい。
もう頂点はすぎ、地表も近くなっていた。
楽しい時間もすぎる。
そして彼女は最後に一つだけあることを教えてくれる。
「え?」
「だから明日は安心してね?そしてそれで彼女を責めないで上げてほしいな?」
「それはもちろんですけど…………いいんですか?」
「いいのよー、これは彼女にとってもメリットっちゃメリットなのだから」
俺に有利でしかないんだけどなぁ?
本当にいいのかな?
「じゃあ帰りましょうか」
そのまま遊園地を後にする。
もう家に着くころには、夜も遅くなっていた。
「今日はありがとうございましたー」
そういって、家のちょっと前で降りようとして
「あ、忘れものだよ?」
「え?ほんとでs──んっ」
振り返ったら、白石さんの顔が触れるほどの目の前にあった。
それでも止まることはなくて──
「──大人のキスよ?」
どれくらいだったのかわからない。
一瞬かもしれないし、数分だったかもしれない。
「恭弥君は色々頑張ってると思うわ、頑張って頑張ってそれでも、もし疲れちゃったり少し休みたくなったら私のところにも来ていいよ?」
「…………なんでそんなに?」
よくしてくれるのか?
そこは言葉に出なかった。でも白石さんには伝わったらしい。
「うーんそうねぇ」
少し悩まし気に彼女は言って、妖艶にほほ笑む。
「それは私が保健の先生で、莉緒のことを大事に思ってて、君のことも興味深く思ってる……からかな?」
なるほど、ぜんぜんわからない。
「だからすべてが終わったら、続きをしましょ?」
バイバイ、って言って走り去っていく白石さん。
すべてが終わったら、か。
本当にあの人は謎しか残していかない。
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