第51話 「美人教師とのデート」


 「あー、緊張するぅぅぅ」


 「今更何を言ってるんですか?もう3人目ですよデートするの」


 「いやまぁそうなんだけどさ…………でもどんな時も初めてのデートって緊張しない?」


 「なに青春みたいなこと言ってるんですか、思春期ですか」


 失敬な。


 「ばりばり思春期ですがなにか?!」


 「……そういえばそうでしたね」


 え、もしかして花咲凛さん素で忘れてたの?

 ひどくない?こんなにも高校生っぽいのに。


 「いえ最近はキョウ様がみなさんに混じってというか、どちらかといえば主体的に策謀を練られたりしていたのでつい。確かに思い消せば高校生でしたね」


 精神年齢だけ見たらいい年齢だから。

 でもどっちの人生でも高校生までだから大人のことは知らないから!

 つまり高校2回目ってだけ。

 

 「ばりばりの高校生なので、大人の、しかも自分を嫌っているって宣言されていてそのうえパートナーもいる相手とのデートは普通に緊張します!」


 秋月さんと本当に何放そう。

 どうしよう、にらまれて、海に捨てられたりしたら。

 泳いで帰ってくればいいかその時は。


 「まぁもうなるようにしかなりませんから…………では行ってらっしゃいませ。あ、また誰かに妨害されそうになったらすぐに連絡してくださいね?」


 妨害ねぇ?

 まぁさすがに今回はないと思うけどなぁ。


 「はーいんじゃ行ってくるね」


 「行ってらっしゃいませ…………?」


 「ごふっ?!」


 び、びっくりした。

 普段はキョウ様ってしか言わないから、旦那様ってギャップがすごい。

 いいねこれ。時だったらもっと盛り上がっちゃうかも?


 花咲里さんは少し目を細め、


 「私はメイドなので、キョウ様のことを旦那様ってお呼びしても何もおかしくないですよ?」


 「今まで呼んだことないくせによく言う」


 「ではこれで緊張も吹き飛んだでしょう?」


 確かに吹き飛んだけどさぁ…………

 心臓がドキッとした。


 「緊張の吹き飛ばし方が豪快で、びっくりするんだよ」


 「……豪快ってなんかかわいくないですね、キュンキュンしたとか言ってください」


 「男のキュンキュンきつくない?」


 「…………きついかもです」


 その辺は世界が変わっても一緒か。

 じゃあ言わせようとすんな!


 「ほらお時間ですから、はやくいってらっしゃいませ。私もやることございますのでほらほら」


 しっしとまるで早くいけとばかりに手で払われる。

 俺はあれかな?熟年夫婦の邪魔者扱いされてる虐げられている旦那かな?


 「ではお気をつけていってらっしゃいませ」


 「はいはい、いってきまーす」


 ちょっと釈然としない気持ちを抱きながらも外へ。

 

 確か秋月さんから指定された場所は、家の前だってはず…………

 玄関を出れば、すぐにいるはずなんだけど……なんだけどなぁ?


 なんか見覚えのある車がいる、赤いスポーツカー。

 あれ?あの車って?


 確かなんかまえ同じような場所でキスしてる姿を見た気がするんだけどなぁ。

 あの車から降りてきたのは確か秋月さんだったから秋月さんの車に間違いないっちゃないのか?

 けど、あれかな?元々は秋月さんの車でその時はたまたま白石先生に貸してただけなのかな?

 そうだよね?きっとそうだよね?

 3人でデートとかはないよね?


 「あ、やっほー!恭弥君!待ってたよー」


 車の前でやっていたのは見覚えのある色気ある女性。

 サングラスを前髪の上でかけている姿も非常に様になる。


 「…………何しているんですか、白石先生」


 「あ、ダメだよ恭弥君。ここは学校の外だから先生っていうのは!そういうのは学校と夜の時だけにしてほしいかなー?」


 「…………なるほど…………そうですかわかりました、白石さん」


 「いま何を想像したのー?しかもごくりと喉を鳴らしてたよ?」


 ニヤニヤとからかうような笑み。

 くっ?!


 「…………さぁ?何のことやら?」


 なぜばれたんだ?

 うっかり想像させられてしまったじゃないか。

 いつもよりきわどい衣装ミニスカ白衣を着て、眼鏡をくいっとし、全身を優しくなでられる姿を。


 「恭弥君目泳いでるけど?しかも信じれれないくらい」

 

 「くっ、これが噂のハニートラップか?!」


 今日が短めのスカートはいてるのが目に入ってしまった結果だ。

 完全にだまされた。


 「トラップなんて何もしかけてないわよ?どちらかというと自分からトラップに引っかかりに来た感じじゃない?」


 「そんなバカな?!」


 「ふふ、恭弥君顔に出やすいわねー。お姉さんそういう感じも好きよ?というかいつまでそこにいるつもり?早く乗ってー寒いんだから」


 今日は先生じゃなくてお姉さんでいくらしい。

 

 そういえば白石先…………さんは紺色のシャツ一枚だ。確かに寒そうに体を小刻みに震えさせている。


 「なんでここにいるかも中で説明するからほら乗って乗って」


 なんか某人造人間アニメのみさとさん張りに無理やり車に乗せられたけど、車内はめちゃくちゃいい匂いが香っている。

 なんというかバニラみたいな甘い匂い。

 そこに白石さんの香水のにおいが混じって、なんか独特な高級感が漂っている。


 しかも気遣いも完璧で、水まで用意されている。


 「うわすっご」


 「でしょ?」


 少し誇らしげに彼女は笑う。


 そんな白石さんの大人の雰囲気にどぎまぎとしているうちに、車が発進する。

 

 …………そういえば人の車に乗ったのは2台目だ。

 宝生さんの運転もうまかったけど、白石さんの運転もまたうまい。

 運転の良しあしなんてそんなわからないけど。

 

 「それで、なんで白石せん──さんが今日この場にいらっしゃるんですか?というか秋月さんは?」


 「あら、なーに? 私じゃいやー?」


 ふふっと妖艶に笑う。


 「いやなんてことはないですけどね?白石さんとお話できてもちろんうれしいんですけど」


 でも今日は秋月さんとデートの予定だったから。

 明日の許嫁投票のためにも気持ちを伝えたかったし知りたかった。


 「莉緒のことが気になるって顔ね、でもそれもそうよね、恭弥君は明日許嫁投票だし。そりゃ莉緒とデートをしたいわよねーー」


 「まぁ…………はいそうですね率直に言えば」


 そしてそんなあなたはその秋月さんの特別なわけで。


 「それで気合を入れてきたら、迎えに来たのは私で莉緒はいない、と確かに不思議な状態だね」


 「ええそうです、ついでにもう一つ根本的な疑問もあるんですが。どうせなら今お聞きしてもいいですか?」


 ここに至るまで言及してこなかったこと。

 もうどうせなら踏み込んでしまおうこの機会に。


 「ええ、大体聞きたいことはわかるけどいいわよ? なんでも答えちゃうそれこそ3サイズまで」


 ふむふむ。なるほどね。

 そうなると──


 「では疑問は2つに増えましたね」


 「正直でよろしい、でも鼻の下伸ばすのは気を付けなさい?」


 莉緒とかの前では特に、ねと付け加えてくれる。


 「伸びてないですけどね?でも一応気を付けます」


 ふふっと軽く笑われた。

 これが大人の余裕か!


 なんか調子崩されるなぁ。


 「それで私に何を聞きたいのかしら?」


 「じゃあ率直に──白石先生と秋月さんは付き合っておられるのですか?」


 まぁこの答えがイエスなのはわかっている。

 でも実は二人の口からはちゃんと聞いてなかった、あくまで見たのはキスしただけ。


 聞かれた白石先生は、笑顔を崩さないまま。

 

 「そうね、確かに恋人関係ではあるわ、ちゃんと莉緒のことも好き」


 「やっぱりそうですよね?というかすぐに教えてくれるんですね?前は教えてくれなかったのに」


 「それって最初に話した時のことかしら?…………聞かれていたら答えていたと思うわよ?別にそんなに隠しているわけでもないし聞かれなかったから言わなかっただけよー」


 あ、そうなんだ。てっきり隠していると思ってた。



 「まぁほかにも聞きたいことは実はまだまだあるんですけど、それで最初の疑問の答えは?」


 「ああ私が来たのは単純よ?昨日から莉緒とは一緒にいるけど、体調微妙に崩しちゃったのよねぇ」


 「え、大丈夫なんですか?」


 というかこんなとこ来てていいの?


 「一応熱ももう下がってきてはいるから大丈夫なのよね〜というか本当は今日莉緒ここに来ようとしてたのよ?約束したからって」


 「そんな無理しなくてもいいのに」


 「あの子責任感は強いから。それこそ男の人で散々言ったあなたのためでも来ようとする、そういう子なのよ」


 だから代わりに私が来て、もてなすよ、って言っておいたの。

 すごい不承不承だったけどね、と苦笑する。


 「ならば断わるよう連絡したらいいんじゃないですか?」


 「そういうのができない不器用な子なのよ、許嫁投票もちゃんと投票しようとしていたし、私怨とかもなしで」


 そういうとこは公正なんだなぁ。

 でも先生だもんな、ちゃんとフェアにしないとできない仕事だもんね。


 ほんと真面目なんだから、と困ったようにでも自慢するように白石さんは優しい笑みを浮かべる。

 それだけでこの人が本当に秋月さんのことを好きなのが伝わってきた。

 妖艶な感じじゃない、作られたものじゃなくて、素の表情。

 でももしかしたら──


 「──だからちゃんと恭弥君の真価を見極められるように!って言われたからここからある場所に行くよー」


 「ある場所?」


 「うん、ここから2時間かからないくらいかな?」


 「どこに?」


 「そーれーはー…………ひみつ♡」


 ウインクまでしてくれた。

 うーんあざといけど嫌いじゃない、むしろ好きかも。


 「あと私が来たのは私が恭弥君と会いたかったから…………ってのもあったりするわよ?」


 ふと、なんでもないように前を向いたままそんなことをつぶやく。

 この人は本当にもう…………調子狂わされっぱなしだ。


 「まだまだドライブも長いしとりあえずお話でもしましょ?」


 まだ車は高速を乗ったばかり。


 「じゃあ先にもう一つの疑問」


 「なになに?また難しい質問?お姉さん答えられるかなぁ?」


 いやそんな難しい質問じゃない。

 覚えてれば答えられると思う。


 「3サイズを教えてください!」


 「ごふっ」


 あ、白石さんがむせた。

 これは予想外だったらしい。


───────────────────────────

デート相手、秋月さんだと思った?

いいえ違います、秋月さんファンの方ごめんね?






 


 

 

 


 

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