第50話 「終わりの始まり」side悪役令嬢
武田さんはそれ以上何も言わずに、メイドの佐藤さんと二人ですぐに自室へと上がっていった。
明らかに何かがあった。
本来なら気にもとめないこと。
彼にとって何かいやなことがあったのだろう位にしか考えなくて気にしなかったけど。
なんかいやな予感がする。
すごくいやな予感。
そしてこういう時の予感は大体当たる。
…………とはいっても私に何かできることはないのだけれど。
ただあの顔が無性に頭から離れない。
本当に怒った人の顔だった、すごすごとリビングに戻って本を読む。
「あ、というか結局謝れてないじゃない」
あーすっきりしないままかぁ…………。
次の日。
武田さんのメイドである佐藤さんから黒川に連絡が入る。それで昨日武田さんが怒った内容も概ね分かった。
どうやら昨日高遠と九頭竜の二人が、武田さんに接触したらしい。
しかも相当失礼なことを言ったらしく、それに対して昨日怒っていた。
「失礼なことをしたのはたぶん九頭竜なんでしょうね」
高遠は良くも悪くも目立たない男だ。
積極的に何かを仕掛けようとなんてしないのでしょう。
「それで九頭竜は何て言ったの?自身のハーレムにでも加われ、とでも言ったのかしら……いえでもそのことで彼が怒るとは考えづらいわね。その可能性もあるにはあるけど、うーんそれも考えづらいか」
「さすがお嬢様ですね、確かに九頭竜は武田さんに自身のところに来ないかと言ったようで、彼の勧誘が主な目的だったようです」
彼を引き抜いて、私にダメージを与える、っていうところか。品性が下劣というかなんというか。
「裏には誰かがいそうね、なんというかうちは敵が多すぎて誰、と言い切れないけども。まぁ今回の件でのとっかかりはこの家の様子をみれる人間……NAZ機関辺りでしょう」
「ええ、お二人も同じ結論に至ったらしく、同様のことをおっしゃっていました。NAZ機関、他にも怪しい動きをしている所を調べてほしい、とのことでした」
ただよくその話を黒川にしてくれたわね。
普通に考えたら、宝生家のおうち問題と考えてもおかしくはないでしょうに。黒川が裏切ってたと考えてもおかしくはない。
「ただ少し甘いな、と思いましたね。武田様の立場で考えれば、我々も疑われてもおかしくはないのに。ま私に限ってそんなことはあり得ませんが」
どうやら同じ疑問を黒川も持ったらしい。
そうしていると、自身のスマホがピコんと鳴る。
こんなタイミングよく連絡するとしたらそれは……
相手は案の定予想した通りのあの人。初めてのラインにしてはなんというか味気ない、というか完全に仕事のメールではあるけど。
書いてある内容はさっきまで黒川は説明してくれた内容と同じこと。
そしてもう一つのお願いが書かれていた。
なるほど、そりゃ怒るわね。
「こうも仰っておりましたよ。これは俺と宝生さん、俺たちに対する明確な攻撃、である、とも」
攻撃、とはなかなかの言葉。
こないだのデートを邪魔してきたときには、あくまで不快だった、という言葉にとどめていたから本当に怒り心頭なんでしょう。だからこそより冷静に敵を倒そうとしている。
だから黒川のこともちゃんと疑って罠を仕掛けている。
「──あと他には何か言ってなかった?」
「はいおっしゃっていましたよ」
「なんて?」
「ええ、どうやら九頭竜からは許嫁投票が終わった次の日に迎えに来る、と言われているそうです。……彼曰くお嬢様が一度OKをもらった後に、宝生様の前から武田様がいなくなった方がダメージが強くなるだろうと考えたみたいことです」
「……そう、それだけ?」
「は、はいそれだけですが。」
私の質問の意図が謎だったのか、少々困惑気味の黒川。
そうよね。
「でも不思議ですよね。九頭竜ならやるとしたら、前回と同じようにやると思っていました」
あの時の怒りを思い出したのか、複雑そうにつぶやく。
でもよかった。
「それを聞いて安心したわ」
「安心?」
「ええ、あなたが裏切っていなくて」
「……どういうことですか?」
「彼があなたに言ったのは嘘も混じってたってことよ。本当はそこまで九頭竜はいってないわ、ただ許嫁投票の時に答えを聞きに来る、と言っただけらしいわ」
「確かに私が教えてもらったものとは違う……ああそう言うことですか」
そこだけ聞いて黒川も得心が言ったのか、あぁなるほどと頷いている。
「私が伝言をいわなければお嬢様が私を疑う種になるし、違う話を言っても疑う材料にはなる、だからお嬢様にも同時進行で連絡をされていた、そんなところですか?一言一句同じことを言わない限り不信感が残る、いやらしい手です。……そしてお嬢様だけ信用されたのは過去に被害にあって九頭竜と協力することはあり得ないと考えられたから、ですね」
「みたいね」
思わず苦笑してしまう。
「お嬢様も大概ですが、彼もなかなかですね。本当に高校生ですか?」
何が大概かは分からないけど、まぁ言いたいことは分かる。
「一応そうらしいけどね、まぁでも彼の立場ならそうするのも分かるけれど。私だから黒川の過去を知っているし、そんなことが出来るはずがないことを知っているけれど」
「そうですね」
でも武田さんは知らないからね。
「それで彼が怒った理由は、高遠は彼のお姉さんを侮辱したからだそうよ」
それもメールに書いてあった。
その事実を聞いて、黒川は嘆息する。
「本当にどうしようもないというかなんというか、彼がなぜこの許嫁制度に参加したかを考えればどれだけ家族を大事にしているかなんて明白でしょうに……少なくとも軽々しく触れるべきでないことくらいわかりそうなもんですが」
「本当にね……ただ私たちが考えている以上なのかもしれないけどね」
「というと?」
「彼から一つお願いされているわ、これを実行して、と」
スマホの画面に掛かれている内容をそのまま見せる。
「なるほど……かわいそうに」
確かにかわいそうと言えばかわいそうだけど。
「自業自得でもあるわ、これについては彼女が頑張るしかないんじゃないかしら……私たちもただやることはやらないと、情報をこっちでも独自に調べるわよ?……気づいたら私たちが同じ立場になるかもしれないから。だから彼のお願いもちゃんとしてね」
「承知しております、それでは」
黒川が出ていく。
今回の件で覚悟がきまった。
やはり私もちゃんとしなきゃいけないな。
それからの2週間ちょっとは黒川も忙しそうにしてた。
進展は色々あったけれど、特段私にできることはないので優雅に過ごす。
あれから彼とは連絡もほとんどしていない、する内容もなかったし。
まぁ彼は他の子ともデートをしていたらしいけれど。
こないだは、橘さんとデートをしていたし今日は先生としに行くらしい。
……あれ?でも先生最近体調崩してなかったかしら?どうするのだろう。
明日は来れるのかしら?
どっちにしても私のやることは変わらないけれど。
明日は許嫁投票。
明日ですべてが終わる。
さぁ終わりを始めましょう。
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50話到達!!
次回はデート編!!
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