第49話 「デートの後に」side 悪役令嬢
武田さんとのデートが終わった。
「デート自体は悪くなかったわね」
私の男性受けしないのコースを嫌な顔せずに、回ってくれた。そもそも私は好きなものに関われてるから、っていうのもあるのだけれど。
デートの中で、彼はいい意味で男性らしい感じがしなかった。
過去の男たちのように、強引さも卑屈さなく、私の話をちゃんと聞いて会話をしてくれて、笑顔で受け入れてくれた…………途中までは。
年下と話してる感じじゃなった……なんというか年齢を重ねた人の、絶妙なわかっている人の会話の距離感だった。まぁそんなことはあり得ないんだけど。
だからこそ高遠と九頭竜と出会ったのは最悪の偶然だった。
もう終わったはずの過去だったのに。
気持ちとしては吹っ切れているつもりではある。
好意なんてものは微塵も残っていないし、あの時吐かれた言葉も今更何を言っているのか、ってくらい。
だからかなり不快だった。
案の定その後は微妙な空気に包まれ夕食も食べずに帰ってきた。
ただ問題はここから。そのデートが終わった後、武田さんが二つのお願いをしてきた。
一つは【どこかのタイミングでもう一回デートをしてほしい】
これは普通に了承した、別に害はないし、もう一回くらいしてみてもいい。
見てもいいなんて上からいったけど、普通逆なんだろうけどな。ほんとおかしい。
それに私なんかとデートをしようなんて物好きな人でそれもおかしいのだけど。
でもそのあとのお願いが私を不快にさせた。それまでのプラスの感情が一変するくらいにはイラっとした。
彼は私が踏み込んでほしくないのをわかったうえで、踏み込んできたから余計に。
「イラっとしちゃったのよねぇ」
思わず独り言ちる。
…………でも今思うと、確かに彼が聞いてきたタイミングもわかるといえばわかる。
腐っても彼は許嫁候補。
武田さんは責任感もあるし、どのような状況になっているのか、そしてたぶん許嫁として一緒に問題に向き合おうとしてくれたんだと思う。寄り添おうと踏み込んでくれた、とも見える。
本心はどうかわからないけれど。
許嫁で私が苦労していた問題に対して聞こうとしてくれたのかもしれない…………話の触り方はめちゃくちゃへたくそだったけど。聞くタイミングでちょうどよかったのかもしれない。とても下手な触り方だったけど。
…………時間がたった今ならそう思えるけど、どうしてもあの時は感情的になってしまった。
その後、私が話したくなくて黒川に行かせた時も、デートを台無しにした私には怒ってなくて、高遠達に怒っていたようだし。
私に怒ってもおかしくないのに、やっぱり今までの男とは少し違うのかもしれない……
そんな気がしないでもない。
「いかがしました?お嬢様?」
武田さんの元から戻った黒川が、目の前で不思議そうに見ている。
「ううん、報告は以上?」
「はいさようです、…………それにしてもあの方は何か違いますね? 我々使用人に対しても丁寧でした、私も今回は結構失礼な物言いもしたと思うんですけどね」
反省ですね、と黒川がうつむく。
きっと黒川も私のことを想って彼に聞いていってくれたから。
ただ…………
「私が言うのもなんだけど立場は弁えなさい、あくまであなたは宝生家の者としてみられるのだから。…………自制してるようなのでいいけれども、気をつけなさいね?」
私も甘いわね本当に。
でも私のためを思ってやってくれた子に、なんといえばいいのよ。
いつもそう。
「承知いたしました、申し訳ございませんでした。……今日はもうお休みになられますか?」
「私はもう少し仕事をしたらねるわね、黒川はもう上がっていいわよおやすみなさい」
「…………そうですか、ではお言葉に甘えて上がらせていただきす。失礼いたします」
黒川が紅茶を入れてから、退室していく。
「…………ふぅ」
今日は大変だったな………そういえば明日からも彼とは会うのだけど、なんというか喧嘩別れみたいになってるし…………明日どうしよう。
「ちょっと憂鬱だわ……」
そんなことを考えてたら寝るのが少し遅くなった。
翌朝、いつも通りの朝食…………とはまぁ言い難いけども。
なんというかとても気まずかった。武田さんとは昨日とは違って目も合わないし、何とも言えない表情をしているし。
このまま何とはなしに終わったら…………
そんな風に思っていた時期が私にもありました。
「どうだった〜?どこ行ったの〜?楽しかった〜?」
橘さんが意気揚々と聞いてくる。
まぁそれはこのしらけ切った場を何とかしようとしてくれたんだろうけど、今はその気持ちが痛い。
ほら、武田さんも乾いた笑みを浮かべているし。
たださすがというべきか、うまく話してくれた。
楽しかったって、この場所でも言ってくれた、はにかみながらも。
その表情は嘘にも見えなくて……。
まぁ悪い気分はしない。
なんというか、私の感情は複雑になってきた。だから私の意見を聞かれた時も、ちゃんと感想を言った。
「楽しかったわよ?」
…………まぁ最後に皮肉を言っちゃったけど。
たぶんいやきっと武田君の中では私は嫌な女だろうな…………そしてそのままでいいと思う。そうするように仕向けてるのもあるし。
でも心の中で少しだけ名残惜しいと思う私もいて。
本当に複雑だ。
そんなことを考えながら、自室に戻る。
なんというか、自分がめんどくさくて嫌になってきた。
あーほんとかき乱されてるわあの人に。
「あーもうすっきりしない!」
「…………では素直に謝られては?お嬢様も昨日の態度は悪かったと思っているのでしょう?」
まぁ思ってはいる。
思ってはいるのだけど、せっかく嫌われそうなのに。
「というかあの方はたぶんその程度のことは気にされていないと思います、あと嫌われてもないと思いますよ?さっき話されていたことも嘘の感じもしませんでしたし」
黒川も同じ感想かぁ……
でもやっぱり私にネガティブな感情ないの?もしかして彼マゾヒズムなのかしら?
いやそんなわけある?
「その感じだとお嬢様信じてないですね?」
黒川があきれたような顔をしてるけど、わかるものかしら?
「普通にあれだけのことされたら、嫌いそうだけど」
私だったら間違いなくいやになると思う。それに私女だし。
男の好みそうな女じゃないし、私。
「そんなこと気にするような器じゃないってことですよ!もっと大きいってことです。なのであとはお嬢様の気持ち次第では?」
私の気持ち次第、ねぇ?
でもそうね、このままじゃなんというかもやもやするし。
こういうのは即断即決すべき、経営でもそうなのだし。
「じゃあ早めに話に行こうかしら、あくまで話に行くだけだけど」
「はいはいさようでございますね」
黒川の生暖かい眼。
なんか最近黒川が生意気な気がするのだけど気のせいかしら?
数日がたった。
…………できなかった。なんというかなんと声を掛けたらいいかわからなかった。
「ヘタレですか、お嬢様は」
またまた黒川のあきれた目。
それ主人に向ける目ではないからね?
「うるさいわね、今日こそは謝罪するわよ」
とか黒川に意気込んでいってみたものの気づいたら夕方になっていた。
黒川の眼が痛い。
彼はランニングにでも行ったのか、家にはちょうどいない。
男なのに鍛えてるなんてほんと変な人よね。
リビングで読書しながら彼を待つ。
しばらくすると、玄関が開く音。
帰ってきたかしら?
…………なんか今思うとで待ちしたみたいじゃない?私?
ストーカーっぽくないかしら?
リビングのドアに手をかけようとして既に先客がいる。
もうメイドが玄関で出迎えている、早いわねあのメイド。
確か佐藤、だったわね。
「……キョウ様、どうされましたか、そんな怖い顔をして」
怖い顔?
「部屋に戻ったら話す」
いつもみたいな柔らかさが言葉にない。
何ならすごく硬く、感情も見えづらい。
そんな彼の横顔が玄関のすりガラス越しに一瞬見えた。
「…………っ?!」
彼の顔は能面のように、感情を一切失っていた。
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