第48話 「仕掛けた罠」
改めてコーヒーを1杯持ってきてくれる花咲凛さん。
コーヒーを口に入れると、擦れた心がちょっと落ち着く。
さっきは変なやつとコーヒーを飲んだせいで、美味しく味わえなかった。
「コーヒーと一緒にケーキも用意しましょうか?」
「……一緒に食べない?」
「ご命令とあれば」
「じゃ命令」
「あら乙女にカロリーの爆弾を食べさせるなんて酷いご主人様ですね、…………持ってきます」
言葉では不服な感じだけど顔は嬉しそうだけどね?
まぁ無表情なんだけど。
花咲凛さんは2人分ちゃんと準備していたらしく、
「いただきます」
「はい、頂いてください?」
いつも通りの会話。
…………甘いものはそんなに得意じゃないけど、花咲凛さんのだけはコーヒーとかと一緒に食べたくなるんだよなぁ。
「…………うんおいしい、抹茶?」
「それはよかったです、今日は抹茶のシフォンケーキにしたんですよ」
花咲凛さんもそこでようやく、「失礼して」と言って一口食べる。
「うん、おいし」
一瞬花咲凛さんの真顔が綻んだのを俺は見逃さなかったぞ?
言ったら怒られるから言わないけど。
「…………キョウ様何にやけているんですか?シフォンケーキ没収しますよ?」
「理不尽だっ?!」
「いいえ、当然です」
【悲報】何も言わずとも怒られた件について。
「よかったです、キョウ様の眉間のしわ少し和らぎましたね」
「眉間のしわ?」
手でもんでみるが皴なんてない気がするけど?
「そりゃ私がほぐしてあげましたからね?今はないですよ?」
それもそうか。
にしても、しわが寄ってるっことは知らず知らずのうちに緊張していたんだな。
「灰崎が去ってからのキョウ様が一番怖かったですよ?窓から見える後姿を穴が開くくらい睨みつけていましたからね」
「そんなに?」
「ええそんなにです」
まぁ彼女の前では怒りを出せなかったからな。
気弱な男を演じていたから。
「まぁ我慢してたからね」
「その割に途中で我慢できなくて、皮肉をおっしゃってましたけどね?」
皮肉…………ああ。
「宝生さんの会社と同じくらい支援できるのかってところ?」
「そうです…………宝生グループは日本トップの企業、そこと同じくらいの企業なんてあるわけないでしょうに。しかも相手が頼れるのが、灰崎グループとわかっていて言っているんですから性格が出ますよね」
「いいってことだよね?」
「ええもちろん」
「…………まぁちょっとの皮肉は許してよ、否定したいのを我慢してたんだから」
「まぁ確かにそれはそうです、普段なら怒ってますもんね」
「そうだね、宝生さんの良さとかも分かってきたからかなり不快だったよね。でもここまで来てせっかく罠にかけたっていうのに意味がないからね…………まさか本当に釣れるとは思わなかったけど」
「それは本当に」
やったのは簡単なこと。
共有部の広場で、つまり監視されているとわかっている所で、同棲生活の不満と姉さんのことを漏らしただけ。
ただそれだけで即座に来る俺にアタックを仕掛けてくる当たり、行動が早いよな灰崎。
本当に笑っちゃうくらい。
「今も尾行はつけてるんだよね?」
「ええつけておりますよ」
「さすが花咲凛さん、ありがと」
「いえいえご指示通りのことをしたまでですから…………それにしてにキョウ様が考えていたように、共用部で一人で出かけるそぶりを見せたら本当に来るんですね」
花咲凛さんも驚きを通り越してあきれてしまっている。
本当節操がないというかなんというか。
「2回連続なんてあまりにも都合がよすぎるって普通は考えると思うんだけどなぁ…………何かあるんじゃないか、って」
「よく言いますね、キョウ様。自分で椎名さんとあまり連携とってないことを示唆したうえで、相手が舐めやすいように自信ない感じを装って調子に乗らせて…………何度も言いますが、いい性格してますよね」
…………あえて言いたい放題にさせたっていうのはあるから今回は否定しづらい。
「相手の方途中から気持ちよくなって、謝罪にきてたはずなのに、気づいたら灰崎が勧誘していましたからね」
あれには苦笑してしまった。
「ね、謝罪まではわかったけど勧誘されたときは驚いたよ」
行けるって思ったんだろうね、俺が気弱な雰囲気を出してたから。
俺の不満を出させて、それよりもよりよいところがありますよって感じ。
もしかしたらこんな感じで、高遠は勧誘されたのかもしれない。
高遠ならついていきそうだし。
「どうしますか?灰崎の勧誘にのります?」
「そんなわかりきった質問しちゃう?」
「いえメイドとしては一応聞いておかないと、と思いましてね──あむ」
シフォンケーキを頬張りながらそんなことを聞いてくる。
絶対花咲凛さん興味ないよね、シフォンケーキに舌鼓うってるしさ。
本当においしいなこれ。
「まぁあんなざるな勧誘に乗るわけがないよね、あれに乗るやつは普通に考えを疑うよね」
「今高遠様のことあほって言いました?」
「高遠っていう個人名はだしてなかったよ?……少なくとも俺は」
「前後の話からしたら、どう考えても高遠のことじゃないですか?」
「文脈ってやつだよね、日本人がよく言う」
海外とかだと明文化してあることしか反応しないらしいけどさ。
「勝手に読み取った方が悪いってことですか?」
「まぁそうともいえるね」
「うわぁメイドのせいにするんだぁ性格悪いご主人様さまですね、それにしても私の天才的な頭が仇になってしまったってことですか……」
「今日俺の事めっちゃ性格悪いっていうね!それにすごいポジティブ!」
泣いちゃうよ?俺
「冗談ですよ、ポジティブなのはそうしないと生きていけなかったので…………」
目を伏せ目がちに、でもいつも通り淡々とそんなことを言う花咲凛さん。
なんだか悪いことをしている気分になってきた。
そういえば花咲凛さんの過去について俺はほとんど知らないな。
だからもしかしたら花咲凛さんの過去に何かあったのかもしれないけど…………でも本人が話してもいないことをむやみやたらと聞くもんじゃないしなぁ。
宝生さんの時と違って必要に迫られているわけでもない。
「そっか…………」
だからなんて言えばいいか困った。
「反省しました?」
けろっとした様子の花咲凛さんがそんなことをのたまいコーヒーを飲んでいた。
「…………だました?」
「演技はまだまだですねぇ……精進してください?」
「…………はいっ」
ちゃんとだまされたから何とも言いがたい。
「あ、そういえば今週の分の搾精…………していきます?」
何気ない口調で、さらっとまた言ってきた。
「今後少し忙しくなるし、ストレス発散もかねて、いかがですか?」
確かになぁ。
今後は許嫁投票もあり、学校も始まっていく。
行けるかどうかはまだわからないけど…………いけなかったら引っ越しでもっと忙しくなるね。
まぁだから…………
「…………いったんしておこう、かな?」
「じゃあ今日はいっぱい…………吐き出してくださいね?
何なら今の会話ですごい溜まった気もするけどね……あれまさかこれはあえて?
それなら計画的過ぎて怖いよちょっと。
花咲凛さんは蠱惑的で、不思議ととても艶のある声だった
口調とかは変わらないはずなのに。
それはそれとしてもこう挑発されたら、ねぇ?
「余裕ぶっちゃって…………今日こそは俺がヒイヒイいわす!」
「頑張ってください?♪」
ふふふと余裕ぶっていられるのも今だけだぞ。
負けました。
「ふふふ、キョウ様は今日も勝てませんでしたねぇ…………」
今は花咲凛さんに膝枕され髪をなでられています。
男っぽいところを見せたい気持ちもあるが、気持ちよさが勝ってしまう。
そんなまどろみに気持ちよくなってると、
「そういえば明後日ですね?」
明後日?
「…………なにが?」
「え、お忘れですか?秋月さんとのデートですけど?」
あ。
「あ、やべ」
すっかり忘れてた。
明後日じゃん。
「まぁ今回は秋月様がデートプランを考えてくれるそうですから行くだけですから大丈夫でしょうけど、それにしても忘れちゃだめですよ?」
「すいません…………」
ちゃんと叱られた。
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