第47話 「灰崎の謝罪と勧誘」
「私は灰崎、灰崎カナメです。ちょっとお茶しませんか?」
当の本人が俺に接触してきた。
確かに椎名さんが言う通り、彼女とは違う系統の整った人だ。
2人とも同じショートカットだけど、パーマをかけているから椎名さんとは印象ががらりと変わる。
まぁ俺の心象的な印象の違いもあるだろうけどね、なんというか灰崎はごてごてとしている感じがする。
「…………灰崎さん…………すみませんどちらの方ですか?」
口調も寄せるのは高遠のように気弱な感じを。
俺の質問に、おやといった顔をして、
「椎名より聞いておりませんか?私のことは」
「いいえ聞いていないですね」
わざわざ知っているなんて言う必要は無いからね。
ただ彼女は素直に受けとったのか、
「そうですか……てっきり聞いていると思っておりました」
そういった時一瞬だけ嘲るような笑みをみせ、すぐに微笑みに変えた。
「すいません、では改めて自己紹介を。私は日本少子化対策重婚法推進委員会第3課許嫁機関【Naz機関】の灰崎 カナメと申します。一応武田様のご担当をしている椎名と同じ課で働かせていただいております」
「…………あぁ椎名さんの同僚なんですね、その方がまたなぜ?」
「はいそうです、本日お伺いしたのは武田様に
「謝罪…………ですか?」
なんのことの謝罪だ?
心当たりが多すぎてどれのことかもわからない。
「はい、私の担当は九頭竜様を担当しております、その件で…………」
「…………まぁわかりました、お付き合いいたします」
今更なんの話をするのか興味がある。
もうとっくに謝罪で済むレベルは超えていると思っているんだけどな。
「では車を回しますので、そちらで──」
「──いえこの辺にしましょう、ここらへんでおすすめのカフェを知っているんですよね」
悪意のなさそうな笑みを俺も浮かべる。
それに対して、灰崎もさっきみたいなとってつけたような笑みを返してくる。
「……承知いたしました、ぜひいかせてください」
無言で歩くこと徒歩5分。
こじゃれたカフェで、コーヒーもおいしくケーキもあるここ最近発掘したカフェ。
ここを選んだ理由は単純。
相手の土俵に立つのが嫌だったからというのと、相手の車に乗ったらどこに連れていかれるかわからないから。
まぁはするメリットは相手にもないし、しないとおもうけど。九頭竜の担当ということで馬鹿の可能性もある。馬鹿は何をするか分からないからね。
それに昔からの教えにもある事だし、小学校とかでよく習った、
【不審者の車には乗らない絶対!】
…………まぁ不審な人と歩くのもアウトな気もするけど。
着いたカフェには人もそんなにおらず、話すのにはちょうどいい。
4人掛けの席に対面で座る、もちろん女性である灰崎をは奥のソファ席に。
嫌いな相手でもちゃんと女性を立てる、なんたってジェントルマンだから俺。……本音は何かあった時に即座に俺が逃げやすいようにだけど。
「なに頼みますか?」
「コーヒーでお願いします」
灰崎と俺の分のコーヒーとそれにおすすめのタルトを頼む。人もいないからかすぐに提供される。
「さすがです恭弥様のおすすめのお店ですね、おいしいです」
「それはよかったです」
二人して、意味もない表面上だけの会話をする。
コーヒーを入れて一息、そこでようやく本題へと話を進める。
「…………それで謝罪でしたっけ?」
なんか思い出したら最近椎名さんにも謝られたな、機関として謝りすぎじゃない俺に対して。
「はい、この度は私の担当である九頭竜が申し訳ございませんでした」
灰崎が深々と頭を下げる。
「…………すみません、何について謝られているのかわからないんですけど?」
「困惑させてしまい申し訳ありません、先走りすぎてしまいました」
「九頭竜が恭弥様の元に突然押し掛けたかと存じます、あなたの予定も考えず、その後にあなたを不快にさせるようなことを言ってしまい本当に申し訳ありませんでした」
「…………はぁ」
「本来なら九頭竜が謝罪に訪れるべきですが、また突然彼は押しかけそうでしたので、まずは私が謝りにまいりました」
ならあなたもアポイント取ってきて欲しいですけどね?
さすがに言わないけど。
1つ頷くと、灰崎は俺が謝罪を受けとったと思ったのか、灰崎はここぞとばかりに
「しかし彼にも悪気があったわけではなかったんですよ。ただ彼はなんていうかとても不器用なんですよね」
彼の弁明を始めた。
「……不器用?」
あれのどこが?
勘違いくそやろうだと思うんだけど。
「男性をあまり知らない武田様ならしょうがないかもしれませんが、男性はみな不器用なものなんです」
「は、はぁ」
男性の俺が、女性のあんたより男性を知らないってなんだよ面白いことを言うじゃん。
「しかも最近の男性はなんていうんでしょう、九頭竜様のようなああいう昔ながらのドラマとかに出てくるような男らしい方はあまりいらっしゃらないです。なので恭弥様のように温厚で慎重な方には最初は不愉快かもしれません。ですが!」
「…………」
灰崎は言葉が乗ったのか、自分の語り口に酔いしれるように滔々と語りだす。
「ただあの方の男性らしさ、強引さというものも必要です、それこそが今の世の中に足りないものなのですよ。だから恭弥様、一度真剣に九頭竜様との友好を結んでみる気はありませんか?」
「…………俺が言われたのは恋人関係になってほしいというものでしたが?」
あぁ、と灰崎が顔を抑える。
「それがあの方の悪いところです。そうなる可能性も十分にある、というだけですよ。過度にとらえないでいただきたい、最初は純粋に仲良くなりたい、そういっているだけです」
灰崎はにっこりと安心させるような笑顔を浮かべる。
いや何も安心しできないよ?襲わないよ?って言ってる狼の元に行く羊みたいな感じのこと言ってるよ?
「ではうちの
「それは大変失礼いたしました。不出来な、というのは言葉の綾ですよ。そしてあなたの姉上を今以上の環境にお連れするという意味でございます。…………それにしても恭弥様のお姉様が羨ましい。ちゃんとしなければいけない女性にも関わらず病気でも愛してもらえるなんて」
最後のは呟きみたいな感じ…………酷く不快な小言だけど。多分言うつもりはないんじゃないかな?
……落ち着け俺、笑顔を作れ。
今詰めるつもりはない、話が進まないし。詰めるのはもっと後だ。
「今以上のといっても一応今も国がかなり厚遇してくれると思いますが?」
「ええ、ただあくまでそれは好待遇。最高級ではないでしょう?」
「…………そんなことをどうやって?失礼ですがそれが九頭竜、高遠にできると思いませんが?」
待ってましたとばかりに灰崎は、ここだけの話ですが、と声を潜めて
「九頭竜様、高遠様は将来有望なお方です、支援もたぶん恭弥様よりも手厚いです、それに………」
「……それに?」
「大企業からのサポートもあります」
大企業、ねぇ?
具体的な名前は出さないが、灰崎グループのことだろう。
ただ…………
「生憎と大企業のことはあまり知らないのですが、それは宝生さんのところの企業よりも、大きいところなのですか?」
日本でもトップ5に入る大企業宝生グループ。
それと同じか、それ以上か。
その質問に彼女はぴくっと一瞬頬を引きつかせたが、
「宝生グループを上回るとはさすがに言えませんが、同じぐらいにはできるでしょう、それに私が担当だからこそできるサポートもございますし、それでも不安でしたらここだけの話。さるお方からもサポートをいただけます、誰かは言えませんが」
おなじくらい、かなり大きく出てきたな。
虚勢を張っているのか、それとも何かあるのか?
彼女の顔からはそこまでは伺えない。ただ何かはありそうだけど。
「…………お話は理解いたしました…………ただ俺は宝生さんの許嫁でもあるし、仲良くなることはできないんじゃないでしょうか?椎名さんの目もありますし」
不安そうに顔をうつむせながらしゃべる。
「……大丈夫です。恭弥様!その際は私が万全のサポートをさせていただきます」
「……それはつまり担当が変わる、と?」
「そのことを恭弥様がお望みでしたら」
そんなことを俺は望むつもりは無い。
「ではその場合許嫁はどうするのですか?」
「その場合もちゃんと考えておりますよ、恭弥様にとって相応しい女性はもっと居ます!今の方は見かけこそ素晴らしてと思いますがあくまでそれだけ。あなたの内面、慎重なところ、そういったものを真に理解してくれる方は別のところにいるんじゃないでしょうか?そのお助けを私も九頭竜も高遠様もみな出来ます!」
「つまり婚約破棄しろ、ということですか?」
「新たな道にそれぞれ進むだけでございますよ?」
彼女はこの間ずっと笑顔で俺に話しかけ続ける。
言い方次第だよな、結局やることは変わらないというのに。
そうやって人のハードルを下げてくんだろうな。
まるで新手の宗教勧誘みたいだな。
「考える時間をいただいてもいいですか?」
「もちろんでございます!この話は恭弥様の人生に関わる事ですから!しかし決して今以上に不幸せになることはありませんから!安心してお任せ下さい!」
俺の返事に喜色を浮かべる灰崎。
「……返事はいつまででしょうか?」
「そうですね、九頭竜様との件も期限は確か許嫁投票だった時と思います、その時に然るべき場所を用意いたしますので、お答えください」
「……つまりあと1週間、ですね?」
「はい、より良いお答えを期待してます!恭弥様なら正しいお答えを選べると信じております」
彼女は恭しく頭を下げる。
そのままコーヒーを一息に飲み干すと、
「すみませんこの後も予定ありまして、お先に失礼致しますね」
「え、ええ」
彼女は俺の返事も待たず去っていく。
窓の外を見れば、彼女が来た時とは違い、しっかりと歩いて帰って行くのが見て取れる。
もう大丈夫かな?
「……どうだった?俺の気弱な男性の振りは」
「大変上手くて面白かったですよ、キョウ様」
私服姿の花咲凛さんが後ろからコーヒーを持って現れた。
─────────────────────────────
今回長めだった、すまぬ!
沢山のフォローと応援をありがとうございます。
また★とかいただけてありがたい限りです。今後もよろしくお願いします!
なにかわかりづらいところとかあったらお気軽にコメントしてください。
応援ボタンなどもぜひお願いします!!
全部がモチベになります!!
Twitterやってます。
もしよろしければTwitterのフォローしていただけますと幸いです。
@KakeruMinato_
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます