第46話 「調査結果と接触」
「灰崎は私と中、高、大と同じで、そして宝生さんの先輩です」
「えっ?」
「……それでは3人は、幼馴染っていうことですか?」
花咲凛さんの疑問にあり得ない、と首を横に振る椎名さん。
「あぁ違いますそんないいものじゃないですよ、私と彼女は仲良かったこともないですし、灰崎の方が一方的に私をライバル視している、という感じでしたね。思い出してみればたまに絡まれたりもしていました」
この言いぶりだと、椎名さんの眼中にはなかった感じだよね。
「ライバル視される理由とかは何かあるんですか?」
「なくもないですね、私こう見えて成績もよかったんですよ…………謙遜してもしょうがないのでいいますけど、普通に学年トップでした。それで彼女は2位」
椎名さん普段謙遜しているつもりだったんだ。
それが俺にとっては驚きだけども。
「さすがですね」
一応当たり障りない言葉を吐いておく。
「いえそれ程でも、ただ勉強ができただけですからねー。ここからはたぶん私の推測とかにもなりますが、私は結構要領よくやっている人間でした。なので放課後とかは友達とかと遊びに行ったりしていて…………そういうのが気に食わなかったんでしょうね彼女は。そういうタイプではなかったので。……なにかと突っかかってきたりしていて、テストか何かで自分がたまたま上回ったときにはそれはもう自慢してきて、まぁそんな感じでした」
勝ってうれしかったのに。当の相手は全く気にもしていなくて、相手にされず、みたいなことか。
完全な一人相撲みたいになってる。
「まぁただ私と灰崎はこう言っちゃなんですが、見た目もよかったんですよね。なのでよく比べられて…………私にとってすればただ迷惑なだけですが」
椎名さんは本当に煩わしかったのか、顔をしかめている。
「まぁ私と灰崎の関係なんてこれくらいです。結論を言うと、灰崎には好きか嫌いかで言えば間違いなく嫌われてはいます」
灰崎には嫌われている、それは裏を返せば椎名さんは何もほとんど思ってないっていうこと。
さっきの話ぶりもそういえばこの件があってようやく灰崎のことを思い出した感じだ。
椎名さんは十中八九その灰崎を歯牙にもかけてなかった、そんな感じなんだろう。
同情できなくもないが、まぁ俺には関係ないよね。
「そうなんですねわかりました。ただこれは単純な疑問なんですが、政府肝入りのこの許嫁制度のプロジェクトに入れるってなると灰崎も相当優秀なはずです。……にもかかわらず私怨でここまでのことをするでしょうか、なんというか……」
常識的に考えても、自身が担当する許嫁候補に好かれようとして情報を売るっていうのは考えられなくもない。
ただそんなことすら計算できないことがあるか?
リスクに見合ってない気がするんだけどな。
「……馬鹿っぽいですよね」
花咲凛さんが俺が言わなかったセリフをさらっと言った。
「まぁこれだけだと確かにリスクに間違いなく見合わないんですけど…………」
その言い方はつまり──
「──まだ先がある、ということですか?…………つまり宝生さんと灰崎にも深い関係が?ただのOBというだけでなくて?」
「深いかどうかは分かりませんが、因縁はありますね」
「因縁…………ですか」
「はい、因縁といっても企業色が強いですけど。それも宝生様が望んだものではないですし、悪いわけでもないんですが」
「椎名さんの時のように勝手にライバル視ってことですか?」
「…………ともまた違うんです」
「と、言いますと?」
「恭弥様、そもそも灰崎グループというのは御存じですか?」
「灰崎グループ…………」
ふむ、と少し考えこむふりをしてみる。
ちなみに言うと全く心当たりもない知らない。
さて、と。
考え込むふりをして花咲里さんに目くばせ。
ちらり、ちらり。
おしえてかざえもん。
意図が伝わったのか、と一つうなずき。
「…………はぁしょうがないですね。恭弥様こういうことにはとんと興味ないですもんね」
精神年齢は30年近く生きてるが、どちらも結局高校までしか生きれてないからなぁ。
そういうのに興味が出てこなかったんだよね。
「灰崎グループは日本でも上位50社に入るくらいの大企業でございます、多種多様な業務を手掛けており、主に輸入雑貨や医療、福祉などで名をはせておりますね」
「大企業に関連があるって言うところでは宝生さんと似ているね…………いや灰崎っていう名前ってことは、まさか宝生さんと同じ社長令嬢ってことかな?」
「そうと言えばそうですし、違うと言えば違いますね」
…………ん?どっち?
「灰崎カナメは所謂、庶子でございます」
「えーっと庶子って言うことは、本妻以外との子供ってことだよね?…………そんな人が公務員?」
「さようでございます、そして灰崎家には嫡子も10個年下ではありますがおります」
うわぁなんかそれを聞くだけで、複雑な予感がしてきたんだけど?
「大企業の後継者争い、とかですか?」
花咲里さんも同じ発想に至ったのか、俺がききたいことを先に聞いてくれる。
「あぁ、いえ後継者は多分年下の子ですね。あくまでカナメは庶子なので本妻の子供が優先されているそうです、だから彼女はここの部署にいるわけですし」
「なるほど…………同じ長女なのに扱いに宝生さんと差があるわけですね、境遇の差がある、ということですか」
「それもありますね」
「まだあるんですか…………」
「まだまだありますよ」
「まだまだ…………」
もうちょっと食通気味なんですけども。
「企業としても、得意としている分野が結構似ているんですよね、宝生グループと、灰崎グループでは。そして宝生様の1度目の婚約破棄の前に、宝生グループが灰崎グループのシェアを数年単位で奪いあっておりました。その戦いでは宝生家が勝っておりますが、その後にあの婚約破棄。その件で宝生家も少なからず損失が出ております」
…………つまり一族を巻き込んだ企業間の争い、か。
先に子供を巻き込み始めたのは、灰崎グループか。
「企業間の争いね、それに巻き込まれた…………いやもはや宝生さんに至っては完全な被害者でしかない、ほぼ関係ないしね」
「そうですね、なにも宝生様は悪いことはしていない。ただこれは調査して分かった結果ですがね。そこもうまく灰崎がやったようです」
「企業としてはちゃんと隠ぺいしたのですね」
「いえこれは灰崎がすべてやったことで、企業としては多分ほとんど関連はしてなさそうですよ、表立ったものは何もないですね。私もあくまで状況と結果から推察してるものです、あと裏の情報とかも」
…………こ、こえぇぇぇ。
さすが秀才。
「にしても陰湿なやり口ですね」
「彼女の心情になってみると納得できなかったんでしょう、宝生様は長女として愛されている一方、灰崎は庶子として生まれて次女が出来てからは不遇の扱いがあった。しかも彼女は高校の時には既に自社ブランドも創り上げ成功している一方で、自分は一介の公務員。そういう鬱屈した気持ちも推察はできますね」
「まぁ実利はともかく、私怨は考えられる、かな?」
リスクを超える嫉妬心はある、ともいえる。
「後これは審議が不明ですが、彼女の羽振りが宝生様が婚約破棄にあってからよくなった、との話もありますね。…………これがあらゆる伝手で調べた背景はこんなものです、それでどうなさいますか?恭弥様」
「…………なるほど」
一応灰崎が動く理由には、なる、かな?
まだ不明瞭だけど。
ただ。
「なら宝生さんは本当に何も悪くないじゃないか」
「…………そうですね、この件も改めてすべてを調べなおし、すべての違和感を調べたうえで分かったことです、しかも当時の宝生様の担当は灰崎でしたから隠ぺいは簡単でしょうね」
下種が。
「勝手な嫉妬心だねほんと」
「これが調査結果です…………それでどうされますか?」
「叩き潰しましょう、もちろん。それ以外ありえない」
結局自己満足でしかないからね。
その次の日。
夕方散歩をしていると、一人のスーツ姿の女性の姿。
「こんにちは、武田様…………ですよね?」
黒髪のショートカットの女性。
眼は切れ長でスタイルがいい。どちらかというと、スレンダーって感じかな?
「…………はいそうですが?あなたは?」
「私は灰崎、灰崎カナメです。ちょっとお茶しませんか?」
当の本人が俺に接触してきた。
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