第45話 「調査結果と腹黒」
「ご報告が遅くなり申し訳ありません」
椎名さんの表情にいつものような軽さはない。
まぁ椎名さんの立場になっても、いつものように軽い感じにはなれないよね、あくまでも国側の不手際なんだから。
少なくとも、こちらはそう確信している。
「正確な調査が必要なことでしょうから時間がかかるのも無理はないですよ」
「そう言っていただけるとありがたいです…………」
「まずは喉でも潤してください」
花咲凛さんが出してくれたお茶を勧める。
本当に急いできたのか、ハンカチで額の汗を拭きながらお茶を一口。
椎名さんは出されたお茶をごくごくと飲み干す、しかも優雅に。
器用なことをするね、相当喉乾いていたんだな。
「…………喉も潤ったことだと思うので、そろそろ。あ、花咲凛さんこの部屋は?」
「大丈夫ですよ、心配されているようなものはなにもありません」
「そっか新たに仕掛けられてもなさそうでよかった」
「さすがに自身の部屋とかに盗聴器とか隠しカメラとかは嫌ですからね、ちゃんとやりますよ。メイドを舐めないでください」
「メイドになるにはやっぱりそう言う技能も必要なんだー」
「ええ基本技能ですね」
「そんなわけないじゃないですか!こんな技能にまで精通しているのはNAZ機関のメイドだけですからね? 一般メイドはこんなこと出来ませんから」
椎名さん曰く出来ないらしい。
一般メイドってなんだ一般メイドって。
でもということは、花咲凛さんは特殊メイドなんだね?
「私も一般メイドですよ?まぁ比較対象はNAZ機関のメイドしかいないのであれですけどね」
「あなたそこでも成績かなり良かったじゃない」
「程ほどですよ、本当に程ほど」
「よく言うわ、あの環境でのトップでしょうに」
どうやらうちのメイドさんはかなりできるらしい。
それは安心した、ただ──
「──花咲里さんの昔の話はもっと聞きたいけどまた今度聞かせてよ、今はそれよりも聞かなきゃいけないことがあるから。…………それで椎名さん教えてください」
「はい」
彼女はカバンから資料を渡してくれる。
「結果から言うとやはりNAZ機関側から、個々の情報が漏らされておりました。大変申し訳ありませんでした」
開口一番彼女は深く頭を下げる。
「まぁ顔を上げてください」
「ですが…………」
「勘違いしないでほしいですのですが許したとかそう言う話ではなくで、今謝っていただいても自体が何も進展しないから言っているだけでよ」
にこりと笑う。
怒ってもしょうがないから、逆に笑う。
こういうのなんだっけアンガーマネジメントとか言うんだっけ。
たしかに効果がありそうな気はする。
「そ、そうですか」
椎名さんはゆっくりと顔を上げ、俺の顔を見てビクッとしすぐに眼を逸らす。
「恭弥様顔が怖いです」
「…………普通のつもりだけど?」
「いえ全然」
どうやらアンガーマネジメントは意味なかったぽいな。
「まぁ話をするのには問題ないですよね」
「あ、もうそのまんま行くんですね中々鬼畜ですね恭弥様」
何がかな?
ジェントルマンを目指している僕に失礼だ。
「では早速。まず先ほどもお伝えした件ですがやはりNAZ機関の者から九頭竜達に情報伝えられていたようです」
「そこまでは前回聞いた通りですね、それで誰が漏らしていたかももちろんわかったんですよね?」
「え、ええもちろんです。漏らしていたのは最初のお見合いの時にもアシスタントとして来ていた職員、その者が九頭竜の担当者に伝えていたという流れです」
「それで、名前は?」
大事なのはそこだ。
俺の敵の名前。
「そんなに睨まないでください、恭弥様今敵を殺しそうな目してますよ?」
「そんなことしませんよ?」
そんな物理的なことはしない。
ただ落とし前を付けさせるだけ。
「それでお名前は?」
「本来はあまり推奨されかねることですが、相手が手を出してきたので仕方ありませんよね──」
そういっている割には笑顔ですけどね椎名さんも。
椎名さんも溜まってるんだろうなぁ、まぁそいつらのせいで俺らから不興を買っているんだからまぁ当然よね。
「──アシスタントの名前は白銀 美奈子。まぁこちらは情報を伝えただけですね。そして九頭竜の担当の名前は、灰崎。【灰崎 カナメ】です」
「【灰崎 カナメ】ね」
覚えたぞ、その名前。
「表立って調べたわけではないのですけど、いろいろ話を統合するとどうやら気恥ずかし気な九頭竜が男友達を作りたい、と言っていると伝えられアシスタントは恭弥様がいつ暇そうにしているか、とか教えたみたいですね。押せてくれたら、いい男性との出会いの機会を作る、とかそんなことを灰崎は言ったようです」
気恥ずかしいから?そんなメンタルの持ち主じゃないだろ、九頭竜は。
人の結婚式をぶち壊すやつだよ?
「それで漏らしたのか」
「それで今そのアシスタントは?」
「処分はまだ保留にしております、まずは調査の方が先決と考えましたので。それに今処分をしても蜥蜴の尻尾きりになりそうだな、と」
「国のお得意の方法ですものね、末端だけに責任を負わせるのは」
「ええ、存じております。それこそ皆さんよりもとても深く。なんならこのままですと私もそうなりますしねええ」
皮肉気に笑う椎名さん。
国って本当に闇が深いよね、今も昔も。
「ですのでひとまずアシスタントに白銀はまだ泳がせておこうと思うのですがよろしいですか、共用部の監視カメラとかも」
「助かります、僕もお願いしようと考えておりましたから」
「恭弥様はそう考えてると思いました、メイドと同様いい性格をされているので」
「そんなことはないと思いますけどね~」
俺ほどやさしい人もそんなにいないと思うけどな。
あ、でも一つ言い忘れてた。
「泳がせるだけですよ?ちゃんと後で処理してくださいね?」
「…………わかっておりますよ」
「それならよかったです」
「恭弥様、そこで笑顔を浮かべられるのは、性格いいことを否定できないですよ」
「ちょっと何を言われているかわかんないなぁ」
「…………性格優しいのは私だけですね」
どの口が言っているのか全く、しかも無表情で言わないでほしいんだけど。
「まぁアシスタントの白銀についてはこの件が片付けましたら適当にそして適切に処理しておきます、ふふふ」
「あはは」
「端的に言ってお二人とも不気味ですよ」
なんでだよ。
俺は椎名さんに合わせただけなのに。
「それで肝心の灰崎カナメについて教えてください」
あくまで今のやつはただ情報を漏らしただけのやつ。
「そうですね…………灰崎は私と同じ課の同期です」
苦々しげにそんなことを語り始める。
ただそれだけでこんなことをするか?
まぁライバル関係、というのもあるのかもしれないけど。
「そして私と中、高、大と同じで、そして宝生さんの先輩です」
「えっ?」
なんか思ったより関係性が宝生さんとあるんだけど?
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