第44話 「デートの後に」

橘さんとのデートはその後無事に猫カフェに入って癒されたい、ゲームセンターにもよってクレーンゲームをしたりして高校生の青春ぽい感じで、遅くなる前に自宅に戻れた。


 「今日はありがと~、色々あったけど最終的にはすっごい楽しかった~!」


 「それは良かった…………かな?」


 「自信もっていいよ~、すごいいいデートコースだった!まるで誰かと一緒に考えたみたいなそんな感じ」


 思わず息を呑む。

 すごいな橘さん、洞察力がやばい。


 ここでごまかしてもいいけど…………なんか見抜かれそうな気がする。

それにごまかす意味もかっこつける以外意味もない。


 「あー分かる?まぁ他の人に相談するっていうずるはしたよね」


 「あれ?否定すると思った否定しないんだね~」


 「しても意味ないかなって、あ、でも信じてもらえるかどうかは分からないけど、考えたのはちゃんと自分だよ?女の子に喜んでもらえるかをちょっと聞いただけ」


 「一応信じるよ、キョウ君はそう言うの下手そうだからね」


 一応、ね。

 まぁ一応信じてもらえたのは大きいかな?前なら信じてすらくれなかっただろうし。


 「それに誤解しないでほしんいだけど別にキョウ君を攻めたいわけじゃないよ?逆にすごいと思ってるし!女の人を喜ばせようとして、誰かに聞ける助けを求められるっていうのは誰にでもできることじゃないしねん…………まぁこんなことを言っている私は今日みっともない姿をお見せしたわけだけどたははー」

 

 「みっともなくなんてないと思うよ?俺だって女の子の前だからかっこつけたかっただけだし…………橘さんの名推理によってつかなかったけど、さ」


 「名探偵でごめんね!」


 二人してあはは、と笑う。


 「じゃあ4月以降も許嫁だったらまたどこかに連れてってよ」


 「…………じゃあ橘さんが4月以降も許嫁候補にしてくれない?」


 「さぁそれはお愉しみ、ってことで」


 にこっと橘さんが笑う。

 ほんとつかみどころがないというかなんというか。


 「それじゃお休み!今日はありがとね!」


 「おやすみ!こちらこそありがと!」

 

 

 橘さんとは下の階で別れ、居室へ。

 部屋にはいり、緊張の糸が少し切れる。


 「あぁ、つかれたぁぁぁ」


 布団に入りたい気持ちを抑えシャワーを浴びる。

 海の街だからか潮風で髪がべたついていた。


 さっぱりとして部屋にもどったところで──


 「──キョウ様今日はお疲れ様でした」


 恭しくお辞儀をしてくる花咲凛さん。


「ただいま」


「いかがでしたか?同い年の橘さんとのデートは?」


「まぁまぁかな?」 


「何かはありましたか?例えば元ハーレム制度の候補者が絡んでくる、みたいな世にも奇妙な珍事の二回目とかは」


「ないよそんなむちゃくちゃみたいなことは」


あったら困る。


「ですが既に1回ありましたからねぇ」


 あってもおかしくないですよねぇ、と付け加える花咲凛さん。

 怖い怖いよ無表情で皮肉を言うの。


 宝生さんの時のは特例でしょ。

 あれはいくら何でも相手が常識なさすぎる。


「それにもしあったら俺はこんな風にベッドにねころがってない」


「それもそうですね、本当にそんなことあったらキョウ様は怒髪天を突いたように怒ってますもんね」


 怒髪天って流石にそれは言い過ぎじゃない?

ちょっとお仕置きしないとって思うだけ、あ、反省とかはいらないので。


「さすがにそこまでじゃなけどね」


 「…………そうですね、そう思うのもまた自由ですよね」


 なんだろうその間は。

全然信じてくれてないじゃん。


 「まぁいいや、それよりも橘さんとのデートでは特に問題はなかったし、何ならよかったまであるんだけど──」


 「──なんですいきなり、自慢ですか?」


 怪訝そうな表情の花咲凛さん。

 何ならちょっと複雑そう?

 いやさすがにそれはないか、花咲凛さんも


 「いやそんなことじゃ全然なくて」


 そうして、今日あった一連のことを花咲凛さんに共有する。

 話を聞き終えた花咲凛さんは、うんと一つうなずき、


 「…………つまりキョウ様はデートをして無事猫の沼にはめることに成功したっていうことですか?」


 「そうなんだよ!ちゃんと猫様の奴隷の意味を理解してもらった!」


 橘さんにも理解してもらえて本当に良かった。

また一人尊い猫の下僕が出来た。


 「これで猫をうちでも飼わせていただける夢にまた一歩ちかづ…………じゃなくて!」


 危ない危ない、本題からずれるところだった。


 「わかってますよさすがに。エレベーター内での出来事のことですよね?」


 「そう。本人はただのしつけとか言っていたけれど、今のしつけの基準とかはわからないけれどそれにしてもトラウマレベルになるっていうのは何かある気がするんだよね」


 「…………基本的には大丈夫だと思うんですけど…………でも確かにあの親ならあり得る、かもしれませんね?」


 …………あの親?

 

 「花咲凛さんは橘さんの両親のことを知っているの?」


 「知っているか知っていないかで言えば知っていますよ、私も一応政府側の人間といえば人間ですから。ただ家族構成とかどんな仕事をしているか、とか一般的なことしか知りませんけど」


 「そっか」


 その割にはもう少し個人的に橘さんの両親のことを知っていそうな言葉だったけど。

 個人情報とかもあるし言えないこともあるのかもな。


 「それで橘さんの件なんだけど、お風呂場での件も今思えば少し違和感もあるし、今回の件もあるし──」


 「──違和感があることもありますしね、少しばかり調べてみるようにいたします」


 「うんお願い」


 …………でもそれにしても俺の許嫁候補はなんというかいろんな事情を抱えているなぁ。

 

 「そういえばキョウ様」


 「ん?」


 「NAZ機関から連絡が来ていますよ」


 「って言うと椎名さん?」


 まだ一週間は経ってないけど、調べてくれたのかな。


 「ええ、それでご報告するためにお会いしたいそうです」


 「なら俺はいつでも大丈夫です、と言っといてください」


 「いつでも?」


 「うん、いつでも」


 「承知しました、それではそのようにお伝えしておきますね、脚色して」


 脚色するんだぁ。

 絶対花咲凛さんと椎名さんって仲悪いよね。

 何があったかは知らないけど。


 「連絡しましたよ、今日この後来てくれるそうですよ?しかも大急ぎで」

 

 いつの間にか返信していたらしい。


 「それはなによりだ」


 「キョウ様も早く情報が欲しいかと思いまして少々強い言い方をさせていただきました」


 「ありがと、俺にはそんな言い方出来ないからさ」


 「あら?それはまるで私が性格悪いみたいじゃないですか?違いますよ、私もこんなこと普段は出来ないですけど、キョウ様のために頑張ってるんですよ?泣く泣く」

 

 「泣く泣く?」


 「ええ、泣く泣く」


 その割には声音楽しそうだけど。


 「そっか泣く泣くか」


 「ええ、泣く泣くですよ…………そういえばキョウ様夕飯は?」


 「あーまだ食べてないかなぁ」


 「じゃあ彼女が来る前に食べちゃいましょうか、長くなりそうですし」

 

 花咲凛さんは台所に戻るとすぐに2人分の食事を持ってきてくれる。

 しばし二人でゆっくりとした時間。


 他愛もない話をしてからどれくらいたったのか。


 部屋の扉をノックする音。



 「…………はい」


 「椎名です、お邪魔しても?」


 「どうぞ」


 「失礼します」


 ドアを開けて椎名さんが入ってくる。

 その顔は疲労の色を隠しきれていない。額に汗もかいている、大急ぎできたらしい。。


 「夜も遅い時間にありがとうございます、お疲れ様です、すごい早かったですね」


 感謝の言葉をくちにすると、椎名さんが少しあっけにとられたように口にする。


 「…………恭弥様が死ぬほど怒られていて報告を待っているとお聞きしたのですが?」



 …………どんな呼びつけをしたんだ花咲凛さんは。

 報告が早く欲しかったのはそうだけど。


 「その可能性があるといっただけですよ?恭弥様の中で1週間の猶予上げたからと言って、馬鹿正直にそう受け取られて困っている、とそう私が解釈したのでお伝えしたまでです」


 花咲凛さんがまじめな顔を崩さずにそんなことを宣う。

 すごい。拡大解釈がすごいよ。

 ブラック企業みたいなことを花咲凛さんが言ってるよ。


 「…………そ、そうですか」


 椎名さんもピキってらっしゃる。

 ほんと仲悪いよなぁこの2人。


 ま、そんなことはどうでもいいけどね。


 「…………それでは調査の結果をご報告いたします」


 椎名さんが改まってそう口にした。


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