第43話 「同級生の事情」


 ガタンという音と共にいきなり視界が真っ暗になった。


 

「…………えっ、閉じ込められた?」


 十中八九そうかなぁ。

 …………まぁたぶんすぐに電気とかはすぐに復旧するとは思うけど。

 とりあえずスマホのライトをつけて、エレベーターの非常通話ボタンを探す。

 

 「非常通話ボタンは…………ってえ?どうしたの?大丈夫?」


 照らして見えたけど、橘さんがうずくまって顔を抑えている。


 「だ、大丈夫?どうしたの?」


 寄り添うように肩を触ろうとして、肩が小刻みに震えている。


 「…………暗いのと狭いところがちょっと苦手で」


 「あー閉所恐怖症的な感じかな?」


 「そう…………」


 いつものはきはきとしたしゃべりはそこにはなく、あったのはか弱い女の子の姿。

 そっかさっきの悲鳴はそういうことだったんだ、ただ驚いたんじゃなくて。


 「大丈夫だよ、すぐに出れると思うからさ、ちょっと待ってて?電話してみるからさ」


 非常通話ボタンを押すと、すぐに電話がつながる。

 状況を説明すると、どうやらビル側でも事態を把握していたらしく、対応に動いてくれているそう。

 

 「30分から1時間立たないくらいで復旧するらしいよ?」


 「そんなに?!」


 「もうここは待つことしかないよね、その間ちょっとおしゃべりとかでもして時間つぶそっか」


 「…………それしかないかも」


 でも声にはまだいつもの元気さが戻ってない。


 「あーでもすごい焦らされている気分だよねぇ」


 「…………焦らされている?」


 「そう!だってさあと1つ上に上がれれば、俺と橘さんは猫様に会えたんだよ?」


 「ね、猫様?」


 「そう!猫様!あのモフモフをなでて吸い尽くすはずだったのに!」


 「猫カフェで触ることはできても吸い尽くすまではきついんじゃない?」


 「え、できないの?」


 猫吸いするのが俺好きなのに。


 「…………たぶん?だって他のお客さんにも迷惑じゃない?猫吸いしたら」


 確かに。

 ギャルっぽい感じなのに、

 

 「そっかぁぁぁ」


 「露骨に落ち込むじゃん」


 橘さんが苦笑する。


 「猫を愛でるために生きてるといっても過言ではない」


 「それはさすがに過言じゃないかな?」


 「さすがに過言か…………でもそれくらい猫とか好きなんだよね俺って」


 「じゃあ今日猫カフェに連れてきてくれたのも?」


 「橘さんに俺の好きなものを知ってもらいたかったんだよね、橘さんと二人きりで話す機会がそう多くなかったから俺のことまずは知ってもらいたいなって」


 「……確かにそれはそうかも、しゃべったとしてもみんなで話すとかが多かったし」


 「そうそう、あと猫カフェ連れて行って猫の沼に入れちゃおうかなって」


 「でも私猫というか動物嫌いだよ?」


 「えっ?!」


 さらっと言うじゃんそういうこと!

 じゃあ猫カフェ選んだの普通にデートとして大失敗では?

 

 「猫が嫌いな、というか動物が嫌いな人なんて人類に存在しないと思ってた…………」


 「それはさすがにないでしょ~」


 「嫌いって人もまだ動物の良さを知らないだけに違いないのに…………そっか今は嫌いでも今日で好きにさせればいいんだ猫の魅力は無限大、知らないから怖くて嫌いみたいなことだきっとあははそうだたぶんツンデレのツンみたいな感じだきっとだからえーっと…………」


 「怖い怖い急に早口になんないでよ、狂信者見てる気分だよ今私」


 「人間は猫の奴隷だよ?」


 何を当然のことを言ってるの?


 「怖い怖い怖いよ君、停電で顔見えないからあれだけど絶対真顔で言ってるよね?冗談じゃないよね?」


 「なんでこんなことで冗談をいうんだい?」


 「わぁ筋金入りだー」


 なんでそんな引き気味なんだろう、当然のことなのになぁ。


 「まぁ冗談だけどね普通に猫も動物もめっちゃ好き癒されるからさ…………それあのさ、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいい?」



 動物が好きでよかったぁぁ。

 デートプラン大失敗するところだった、でもそうだよね白石先生も好きって言ってたもんね。カンニングと違ってびっくりしたよ。


 「お、お願い?一応言っておくとお金はそんなに渡せないんだけど……」


 「なんで私がお金もゆするみたいになってんの?!じゃなくて!」


 「……じゃあ俺に出来ることなんてもうないんだけどなぁ、まぁお役立ち出来ることなら」


 「逆にお金もそんな持ってないだろから、もうそうなると役立てること無くならん?」


 「ひどいよ……」


 「でもそんな君にも今だけ君にしか出来ないことがあります!」


 そんな君にもって、なかなか橘さんもひどい事言ってるよね。

 泣いちゃうよ俺?


 「お伺いしても?」


 「うん……あのちょっと言いづらいんだけど──」


 「──やっぱお金?」


 「──だから違うって!だからあれ!あーもういいわ、ちょっともうちょい近くにいってもいい?」


 「ち、近くに?!」


 「だめ?」


 「いや全然いいよ?!」


 橘さんはの息遣いがさっきよりも近くに感じる。

 そして俺の服の裾をきゅっと握られた。


 「こうでもしないと、どこにいるかわからなくなっちゃうから……暗いから、さ」


 「暗いから、ね」


 「うん」


 なんというか暗闇でよかったかも。

 今顔見たら絶対赤面してる気がする。


 「そのうち助けも来るだろうし、疲れないように座ろ?」


 「だね」


 俺の服を握っていた手を離して、お互い背中合わせに座る。

 とすん、と橘さんが背中を預けてくれる。


 やばい、女の子と密室ふっつうに緊張するんだけども!



 橘さんの鼓動の音が背中越しに伝わってくる、来るけども!

 でもそれよりも俺の心臓が破裂しそうで、それが伝わらないかの方が怖い。


 「ね、あのさ……」


 「う、うん」


 今度はなんだ?

 まさか今度は私の唇を、見たいな話じゃないよね?


 困っちゃうぞ俺!

 いやでも許嫁だから正しいっちゃ正しいのか?


 でもいいんですかそんなR18みたいな展開!


 

 「私暗闇が怖いんだよね──」



 全然そんなことなかった、そんなワンちゃんあるみたいなふざけた内容じゃなかった。

 

 「──ついでに言えば狭い所も得意じゃないんだ」


 いつもみたいな元気のある話し方じゃない、自分の感情が漏れてるそんな感じ。

 ……もしかしたらこれも彼女の素なのかもしれない。



 「じゃあこの閉所恐怖症と暗所恐怖症みたいな感じ?」


 「……そこまでがっつりじゃないし単体だとそこまでじゃないけど、その二つが組み合わさると、ね?さっきみたいになっちゃう」


 確かにさっきは一瞬ライトで見た時、顔色真っ白だったもんな。


 「じゃあこのエレベーター最悪だね」


 「ほんとに!ピンポイントで来たよ!」


 「……なんかごめん」


 「別に君のせいじゃないからね、気にしないでよ──」


 「──昔は大丈夫だったんだけどね?でも知らず知らずのうちに無理になってた感じかなぁ」


 知らず知らずのうちに、か。

 ということはなんか昔から継続的に何かがあった、みたいな話なのかな?


 「そうなのか」


 「……それ以上聞かないの?」


 不思議そうにする橘さん。


 「逆に聞いてほしいの?」 


 「いやうーんわかんない!でも聞き出そうとして来ないんだなってびっくりしただけ!」


 「俺は無理やり聞き出されたりするの嫌かな?って思うからさぁ、……やらなきゃいけないならやるしかないんだけどね?」


 思い出すのは宝生さんの時。

 あの時は聞かなきゃいけないから聞いた。宝生さんよりも姉さんを優先したから。

 でも出来ることならしたくないからしないだけ。


 「まぁそんな深い話でもないけどさ、ただ昔自分の親に悪い事とかしたときに押し入れとかに閉じ込められてね、反省するようにって。まぁ私が悪いことしたんだからしょうがないんだけどさ、それが何時間か続いたりして、それでそう言う暗くて狭い場所とかが無理になったってだけなんだけど!」


 あはは、と彼女は殊更に明るく笑い──


 「──そう言うどこにでもあるありふれた理由」


 「……そうなのか」


 なんというべきなんだろう。

 かわいそう?大変だったね?大丈夫だよ?


 どれもなんにもならない気がする。


 「だから今日は君がいてくれて助かったんだ、私のことを尊重してくれる人ってそんないなかったから、それに君がいてくれたから安心できた、までは言い過ぎだけど普通に助かった、……ありがとう


 「ッ?!……なんにもしてないけどね俺は」


 「キョウ君は本当にそう思ってそうだよねー」


 それあんまりいい意味じゃないんじゃないかな?


 「……それであとどれくらいで救助は来るんだろう、明り早くついてほしいなー」


 「本当にね!」


 「すっごい強い肯定きた!あ、キョウ君も怖い感じ?」


 「いやそうじゃないんだけど……何なら夜とか暗い所は好きまであるんだけど」


 「わー真逆だぁ!仲良くできないね!私明るいところが好き!」


 ぽいよね。

 やばいそろそろ限界に近づいてきてる。

 もう本当にやばいさっきの橘さんの話では聞き入ってけど普通の会話になって思い出してしまった。


 「あの、さ……こんな時だからこそちょっと言いたいことがあるんだ」


 「?!もう?!ちょっと早すぎない?!あまりにもじゃない?!」


 何かにすごい驚いている橘さん。

 でもね全然普通だよ?


 「早くないよ?こうなるのは必然だったんだよ」


 あの時から。


 「急にロマンチックなこといい出し始めたんだけど!?え、え、キャラの変化についてけないよ!」


 「もう言っていいかな?我慢できない!」


 「え、えっとまだ心の準備が──もういいやどうぞ!」



 なんか橘さんの体温が少し熱くなった気がする。

 でも気のせいか多分俺の勘違いだな、俺も体温上がってるから。

 自分で分かる。



 「…………めっちゃトイレ行きたいんだよね」

 


 「…………は?」



 「マジで漏れそう」



 もう膀胱の限界値が近い。


 「それ今なの?!」


 「だって早く出れないとマジでまずいじゃん!良いのここで漏らしても!」


 「それはダメ!」


 「でしょ!だから事前に覚悟してもらおうかなって」


 「まずは漏らさないようにして!」


 後ろから肩をがくがく揺さぶってくる。


 「やめてぇxdぇ揺らさないで…………しにゅう」


 「あっごめん」


 もう本当にまずい。


 「このままじゃ俺も暗闇のエレベーター恐怖症になっちゃう」


 「私の恐怖をキョウ君が漏らすのと一緒にしないでほしいんだけど!」

 

 「いいよ、もっと話して!そして俺の気を逸らしてほしい!」


 「もう何でこんな人が私の許嫁なのかな!?」


 本当になんでこんなかわいい子が俺の許嫁なのか不思議だよ。


 …………あぁトイレ。











 


 その後無事10分後に救助は来て、俺の尊厳は無事保たれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 橘さんかわええぇ、作者の俺が言うのもなんだけど笑


 お読みいただきありがとうございます!もし良ければ、下の☆ボタンで評価していただけたら幸いです。

 忘れちゃってる方もいるかもしれないので一応。


 あと沢山のフォローと応援ありがとうございます。



 新連載もやってます!お時間ある時に是非!

 下にURLとあらすじ貼っときますね〜!最新話も8時にでてます!



「気づいたら大学のマドンナを染めた男になっていた件」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330663207506037


「ねぇ、私の偽彼氏になってよ」


 そんなことをお隣のギャルに言われた、知らないベッドの上で。なんかしかもシーツで顔を隠してるし、

 え、ちゃんと責任取らなきゃ……

 ……ん?よく見たらこの人大学のマドンナじゃない?

 ……あれ?俺に偽彼女ができたのを知った幼馴染の様子が?

 ……別れたはずの元カノが大学に編入してきた?


 いつの間にか大学内で、マドンナを彼女にして、幼馴染を浮気相手に、元カノをセフレ、と大学中のヘイトを集めてるんですけど?


 俺の平穏な大学生活はいったいどこへ?

 

 



 

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