第42話 「同級生との青春」


 「今日はよろよろー!!」


 待ち合わせ場所の駅に現れた橘さんは、いつも通りに明るく太陽みたい。

 服装も橘さんの性格と同じようにカジュアルコーデで、パンツルックに薄いベージュのコートを羽織っている。


 「お、恭弥君は今日もさわやかな感じでいいねー」


 「ありがとう~、橘さんもいつもきれいだけど今日はより大人っぽくてきれい!」


 「わーありがとうすっごいうれしい―」


 わーすっごい棒読みだぁ。

 絶対うれしくないやつじゃん。


 ま、まぁ橘さんに対しては前科があるからなぁ。

 俺も裸を覗いちゃったし、お詫びをしたとは言え、心の中ではまだ嫌われてもしょうがない。

 

 済んだことはしょうがないけど、でもなんとか今回で挽回したい。

 そのための秘策というか準備はばっちり、今回は白石先生にも添削してもらったしね。

 もう橘さん対策はばっちり!


 「それでー?きょうはどこにいくんだーい?」


 俺の当初のプランだと、制服デートだったりしたんだけど。

 ここはいったん。


 「海の方にいこっかなーって思ってるよ!」


 「おー海いいねぇ、寒そう!あ、だからマスクしてるの?」


 「まーそういうのもある!あと花粉症だから、さ」


 季節は春。

 生まれ変わっても花粉症のまま。


 「私的にもそれがありがたいからマスクしててー」


 「え、見るに堪えない、ってこと?」


 そうだとしたらかなりへこむけど。


 「さすがにそこまでひどいことは先生じゃないから言わないよー……たとえ思ってたとしてもね」


 小悪魔っぽくあはは、と笑う橘さん。

 というかそれ暗に橘さんも思ってるってことじゃ…………


 「……あ、私は本当に思ってないよー、逆に恭弥君は整ってるなぁって思ってるしねー」


 「え、それはありがとうございます…………」


 なんか普段橘さんにほめられることないからほめられると照れるなぁ。


 「でもほら、まだクラスの子とかに見られて変な噂経つのもあれだしね」


 噂かぁ。

 確かに女子のうわさってすぐ回るもんね、それはこの世界も変わらないか。


 「だから私もマスクしてるでしょー?どう?」


 この辺だけだけどねー、とマスクを指さしながら話す橘さん。


 「マスクしててもかわいいですよ」


 「惜しい!普段の方がもっとかわいいけどね、ってつければもっとよかったかなぁ」


 「むっず!」


 「あはは嘘嘘、うれしいうれしい」


 「ならよかった!」


 たぶん本音じゃないけど気にしない!


 「とりあえず電車乗りましょっか」


 「ほいほーい」


 1時間ちょい電車に揺られて、神奈川の方へ。

 行先は神奈川でも人気の場所。

 今は夏でもないからそこまで人もいないっぽい。


 「わー海きれいだねぇ…………ちょっと寒そうだけど」


 「ほんとだねー」


 車窓から見える景色は、快晴で見晴らしがいい。

 頑張れば富士山も見えそう。


 「橘さんは江の島とかいったことはある?」


 「……江の島かぁ、テレビとかではちらっと見たことはあるけど行ったことはないかなぁ」


 「お、ちょうどよかった俺も初めてだから一緒に楽しも!」


 よかったぁ、江の島にして。

 最初近場で行くつもりだったからね、ダメだしされたけど。


 「そだねー楽しいといいよねぇ」


 すっごい他人事じゃん。

 まぁでもつまらなさそうにされるより全然いいか。


 電車を降りるとそこには沖縄をイメージしたような特徴的な駅。

 そこを降りて少し歩いたらそこには一面海。


 「わ、風邪がつっよいね!」


 あははと、髪を抑えながらも物珍しそうにあたりを見回している。

 

 「お腹はどう?空いた?」


 「うーんすいたっちゃ空いた!でも私いつでも食べれるし、食べれるときにご飯食べるスタイルだからなー」


 「……つまり??」


 「お腹空いた!」


 快活そうな笑顔。


 「おいしそうなハンバーガー屋さんあるらしいから行こうよ」


 「ハンバーガー?!」


 めっちゃ目をキラキラとさせている。

 白石先生のアドバイス通り。


 「好きなの??」


 「うん結構好きかなー!昔たまーにハンバーガー食べさせてもらったことあるんだけどめっちゃおいしくて好きだったんだー!」


 「たまーに食べると本当においしいよねー」


 「ね!早くいこーよ!」


 お店は海沿いにあるハワイアンチックなお店で、平日ということもあってかちょうどよく入れる。

 色んな種類のハンバーガがあり、二人してメニューを見ながら悩みに悩む。

 一足先にメニューを決めた俺はふと目の前で真剣そうに悩む橘さんの様子が目に入る。


 ……なんかすごいカップルっぽいな。

 青春って感じがする、失われた青春!


 注文を済ませるとほどなくハンバーガーが運ばれてくる。

 バーガーとポテトが一緒になったタイプでとてもうまそう。


 俺が頼んだのは普通のクラシックなバーガー。

 橘さんが頼んだのは、ギガメルトダウンバーガー。


 「いただきまーす」


 「い、いただきます」

 


 これでもかとチーズがかかっている橘さんのハンバーガー。

 もうね見るだけで、胃もたれしそう。


 そんなのお構いなしとばかりに、橘さんは勢いよくかぶりつく。


 「おいひぃぃぃぃ!」


 満面の笑みで、橘さんはバーガーを食べ進めて行く。

 すごいなどんどんなくなっていく。

 

 「どうしたのー、そんなに私の顔見て。あ、このバーガーたべたいのー?あげないよー?」

 

 自分のギガメルトダウンバーガーを自分の身体で守るようにすっと、引く橘さん。


 「大丈夫だよ取らないから」


 「ほんとー?」


 そう言いながらも、身体で守るように食べ進めていく橘さん。


 「本当ほんと」


 俺はどんだけ食いしん坊だと思われているんだ。

 思わず苦笑してしまう。


 「……海もみえていいねー」


 「あ、ほんとだー」


 絶対橘さんハンバーガーに集中しすぎて、外の景色なんて見て無かったじゃん。

 そのまま二人で食べ進め、ぺろりと食べ終わる。


 「はー、めちゃくちゃお腹いっぱい!」


 俺もクラシックバーガーが肉汁たっぷりでお腹いっぱいだ。


 「ねー、でも腹7分目くらい」


 「えっ?!」



 橘さん食べたのギガクラシックバーガーだよね。

 あれで7分目?まじ?


 「食べないけどねーそれよりもさうみ!ちょっと見に行ってもいい??」


 「俺も行ってみたかった!いこっか」


 少し歩くと、砂浜になっている場所があるから、二人で歩く。

 

 よかった。

 事前にこの辺の場所を覚えておいて。

 それが無かったらどうやって海に行くのかとかあたふたするところだった。


 砂浜はまだ春だからか、海風が肌寒く人はほとんど見えない。

 二人で海辺を少し眺める。


 あれ?海ってもっと水の掛け合いっことかして、キャッキャするもんじゃないの?

 こんなしんみりとした感じだっけ。


 でも水のかけあいは寒いもんな、いっそ砂で掛け合いっことかでもしようかな。

 ……ないな、うん。

 砂かけられたら普通に嫌な気しかしない。


 そんなしょうもないことを考えていたら、橘さんがぽつりと──

 

 「ねぇ知ってる?海って生物の起源らしいよー」


 「なんかそんなこと学校で習った気がするね」


 「私も深いことは知らないんだけどねー」


 そう言っている間も、橘さんは海の一点を見つめている。


 「なんで生物って生まれたんだろうねー」


 「……なんでだろう」


 俺なんて転生までしてるからね。

 でもなんで生まれたのかかー、考えたこともなかったなー。


 「私もわからないけどねーそんな深く考えたことなかったし……でもね昔は海とかをみるとこうおもったんだよねー」


 今多分彼女はちょっとだけ本音を話してくれているのかな。

 だからきっとこれから続く言葉は……

 

 「人間なんて生まれなきゃよかったなーって……いや私は人間になんてうまれたくなかったなーって。鳥とかみたいに自由に飛びたかったかなって」


 ただそんな彼女の言葉は思ったよりも重かった。

 

 「……え?」


 彼女はふと海を見つめるのをやめ、俺の方を向いて笑顔を浮かべる。


 「なんてねー? 冗談だよ? なんか寒くなっちゃったねー、どっかはいろっか」


 橘さんはそう言って、先に道路の方へ歩いていく。

 俺も慌てて後ろへついていく。


 ……人間になんて生まれたくなかった、かぁ。


 ちょっとびっくりした。

 でも白石先生が言ってた、「あの子は簡単ではないよ」って言うのは少し分かった気がする。


 まぁこれ以上触れてほしくなさそうだし、何か言わせてくれる感じでもなかったから何も言えなかったけど。



 「……おーい、なにそこにたちどまってるのー?」


 「ごめんごめーん」



 少し先に進んでた橘さんがこっちを見てる。


 「それで次はどこに行くんですかー?いいなずけさーん」


 さっきまでの雰囲気とは一転して笑顔で聞いてくる。


 「次は猫カフェとかどーかなって思ってるよ、海の見える猫カフェ!」


 「猫!好き!」


 目がまたキラキラしてきた。

 よかった、今はこれでいいかな。


 二人で、バスに乗ってお店のほうへ。

 お店は、ビルの6階にあるためエレベーターへ。


 「猫めっちゃ楽しみだね―」


 ウキウキワクワクと言った様子の橘さん。

 

 「俺も行ったことないんだけど、気に入ってもらえそうでよかった」


 「野良猫とか見てたからまじで癒しなんだよねー猫って」


 二人で階層が上がっていくのを今か今かと待ち望む。

 後もう少し、その時。


 ガタガタっという少し揺れる感じがした。

 地震か?


 「あれ地震、あった?」


 「たぶん…………?」


 それくらい小さいもの。

 取るに足りないものだったはずなんだけど……


 「なんかエレベーター止ま……った?」


 「……止まったね」


 階層が5階で止まってる。

 あと1階なのに?!

 猫様たちが俺を待っているののに!


 しかも──



 「──きゃぁつ?!」



 電気も消えた。

 

 「……え、閉じ込められた?」


 どうやら二人で閉じ込められたらしい。

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