第37話 「キョウ様のお姉さん」SIDE花咲凛さん


 「紹介したい人がいます」


 そんな婚約前の両親紹介みたいに我が主ことキョウ様はお姉さまに私をそう紹介した。


 あほなんですか。

 馬鹿なんですか。


 そう普段ならば言葉のの限りを尽くしているところではあるのだけれど、生憎とお姉さんがいる手前、無難に笑顔を浮かべておくしかない。

 というかお姉さま、キョウ様の一言で見事に顔が引きつってますけど。


 …………そしてたぶんこれキョウ様気づいてませんね。


 そのうえでどんどん墓穴というか、誤解というか、なんという、悪いとらえ方に聞こえるように話していらっしゃる。

 これじゃ私がまるで浮気相手みたいじゃないですか、ただのメイドだというのに。


 ほらまた、大事な人とか言って、まったくもう。

 ……ふふ少し嬉しいですけど。


 …………でもお姉さんはもう困りに困った顔をしている。

 でもキョウ様はそんなこと気づく様子もまるでなく、むしろ嬉しそうに話している。


 その姿はまるで、好きな人に喜んでほしくて空回りしている感じで。

 お姉さんも困りながらも、それを嬉しそうに聞く。


 この二人は本当に仲がいいんですね。

 お互いがお互いを想いあっている。


 しかも別に二人は血がつながっているわけでもない。でもそんな物質的な話じゃなくて、目に見えない、そんな深い時間を一緒に過ごしてきたんでしょう。

 ……私たち姉妹みたいな、血しかつながっていなくて、今では姉妹としての関りをもてないような破綻した関係ではなくて。


 これじゃどっちが本当の家族かわからないですね。

 

 思わず自嘲してしまう。

 もちろん顔には出しませんけど。

 出してないはずなんですけどねぇ。


 「俺の大事な人、だよ。家族みたいなもん」


 知ってか知らずかキョウ様はそんな言葉を放ってくれる。

 はぁ本当に天然のたらしですよね。


 「美桜様、恭弥様は昔からこのように女性を喜ばせるのがお上手なんですか?」


 「み、美桜様?!…………うーんそうだねぇ、うまいといえばうまい、かな? とはいってもそもそも身近に女性があまりいなかったからここまで表面化しなかったのだけどね」


 「わかるわかるよ姉さんの気持ち。最初様付けされるのなれないよねぇ」


 うんうん、となんかキョウ様がしきりにうなずいている。今ではすっかり慣れてらっしゃいますけどね。

 それに今あなたが女たらし、という話をしてるんですけどそこについては何のコメントもなしですか?


 「まぁそもそも病気になる前は私が隣にいたから女性があまり寄ってこなかった、というのもありますけどね」


 ちゃんと露払いしてたから、と美桜様はほほ笑む。

 こういうところ黒い所も似ていますね、さすが姉弟ですかね。


 「たしかに小さい頃は姉さんとほとんど一緒にいたよねぇ」


 昔を懐かしむようにキョウ様はそんなことを言い始める。それは亡くなられたおじい様とかの時ですかね?キョウ様が私と出会う前。


 「おじいちゃんと恭弥二人とも不器用だったから結構あの時は家事とかやってたけど、今は大丈夫なの? ちゃんとしてる?」


 家事、ですか。

 私が出会ったときはもうほとんどゴミ屋敷でしたね。

 もうきれいだったころの見る影なんてなかったですね。美桜様のためにお仕事精一杯やられてたのでしょうがないのでしょうが。


 「ちゃんとやってるよ!ーー」


 すごい。

 迷いなく噓をつくじゃないですか。でもキョウ様の言葉は続く。


 「ーー花咲凛さんが」


 すごいいい笑顔で言いましたね。


 「きょうやぁ?」


 対して美桜様も笑顔。ただ眼は笑ってない。


 「……いや手伝おうとはするんだけどねーー」


 「ーー言い訳?」


 「すいませんでした!」


 速攻であやまっている。

 キョウ様弱い。…………これがお姉さまですか。


 「…………そんな叱らないで上げてください。キョウ様も手伝おうとしてくれるんです。ただ今の自宅に、使用人が2人いるので、それで事足りてしまうんですよね。二人で暮らさせてもらっているときは、食器洗いなどは肌が荒れるから、とよくやっていただきました。それにほかの水洗いなども。ですのでが美桜様の教育をお忘れになったわけではないですよ、よくお姉さまに教えてもらったと仰っていました。」


 「あらあらそうなのね、ならほかの方の仕事を奪っちゃだめね?……じゃあ恭弥のことで花咲凛ちゃんが困っていることはない?」


 「困っていることですか…………」


 考えてみる。

 うーんあんまりないですね。


 噂に聞こえてくる男性のイメージとキョウ様はかけ離れていますし。

 女性を気遣えて、自分が男性と驕らず、まさに紳士って感じですね。


 「恭弥様には困っていることはないですね、すごくよくしていただいています」


 本来メイドなんて家政婦みたいなものなのに。

 家族のように扱って、大事にしてくれる。

 そんな経験これまでなかったですから。


 「そうなの?」


 再度真剣な目で見つめてくる。

 その顔には、恭弥様を本当に心配していることがわかる。

 そして見ず知らずの私のことも。


 ほんとうに、姉弟ですね。


 「ええ、とてもよくしてもらってます。とてもあったかいです」


 「…………あったかい、かぁ。うんならよかった!」


 朗らかな、とてもやさしい笑顔だった。

 あぁとてもいい人ですね。

 キョウ様が美桜様を溺愛するわけです。


 「あ、でも」


 「うん、どうしたの?」


 「キョウ様が朝起きないのだけは困りものですね、なんだかんだ最後には起きるんですけど」


 「あぁ、それね。昔の私も困ったわぁ気づいたら布団に引きずり込まれるのよね?」


 「そうです、あれ昔からだったんですね?」


 「全く恭弥は本当手癖が悪いのよね~」


 美桜様が困ったように笑う。


 「本当ですよね」


 「ふ、二人とも?」


 キョウ様が困ったように笑っている。少し恥ずかしそうですね。


 「ほかに何かない?」


 「そうですね、他にキョウ様のことで美桜様にお伝えすることですとーー」


 「ーーあ、ちょっと待って?」 


 「はい?」


 何かあったでしょうか。


 「やっぱ様付けなれない!何とかして!」


 「……えーっと」


 思わずキョウ様を見てしまう。


 「姉さんさすがにそれは無理じゃない、花咲凛さんだってね、いきなりは」


 「でも二人の時はもっと違う呼び方してるんでしょー?」


 なぜそれを知っていらっしゃるんですかね?


 「いや花咲凛さんがキョウ様って呼ばせていることなんて言ってないよ?」


 「キョウ様って呼ばせてるんだ~へぇ」


 「あ……なんで普段違うかもってわかったの?」


 「簡単よ、姉の感」


 「あ、姉の感」


 「ならしょうがないか」


 キョウ様はすぐ納得された。姉の感ですか。凄いです。


 「じゃあとりあえずは美桜さん、でいかがですか?」


 「うーん、いいわね。それで今後仲良くなったら美桜姉さんとかまで行くようにしましょう!」


 あぁこの方は私を受け入れようとしてくれているんですね。

 

 「ちょっと、恭弥飲み物買ってきてもらっていい?3人分」


 「りょうかーい、姉さんはお汁粉でいい?」


 「よくないわよ?恭弥のセンスを信じてるわ」


 「はーい」


 キョウ様はそういって笑顔ですぐに、買い出しに行く。

 疑問を持たないあたりすごい。

 

 「じゃ、お邪魔虫もいなくなったしガールズトークしましょっか?」


 満面の笑みの美桜さん。


 …………大丈夫ですかね、私ガールズトークしたことないんですよね。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 姉に勝てる弟はいないよね、って話。姉いないけど笑


「気づいたら大学のマドンナを染めた男になっていた件」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330663207506037


「ねぇ、私の偽彼氏になってよ」


 そんなことをお隣のギャルに言われた、知らないベッドの上で。なんかしかもシーツで顔を隠してるし、

 え、ちゃんと責任取らなきゃ……

 ……ん?よく見たらこの人大学のマドンナじゃない?

 ……あれ?俺に偽彼女ができたのを知った幼馴染の様子が?

 ……別れたはずの元カノが大学に編入してきた?


 いつの間にか大学内で、マドンナを彼女にして、幼馴染を浮気相手に、元カノをセフレ、と大学中のヘイトを集めてるんですけど?


 俺の平穏な大学生活はいったいどこへ?

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