第36話 「私の義弟」 SIDE姉


 トントントン。


 病室のドアを伺うようにノックする音が聞こえる。今も私が寝てないかを確認するために控えめ目にしたんだろう。私が恭弥が来るのに布団に横になったままなんて、ありえないのに。

 いつも私の自慢の義弟は、私の体調を気遣ってくれる。


 「はーい、どうぞー」


 今日恭弥が来てくれてよかった。

 今日は朝から調子がいい。

 というか最近はずっと調子がいい。

 

 まるで病気じゃないみたいに。

 私の病気はどうやら難病にあたるらしく、治療にはすごくお金がかかる。

 最初私がその病に患っていると、聞いたときは幼いながらもショックだった。

 

 あぁ、私の大好きな人たちに迷惑をかけちゃうな、とか。

 義弟のことをもっとお世話してあげたかったな、とか。


 まぁいろいろ思うことはあったけれど、どこか諦めみたいな気持ちが大きかった。

 あぁ私はそういう運命なのかもなぁって。昔から人よりも成熟していたからこそ、そう考えられた。

 でもそんな風に、諦めたのは私だけだった。

 おじいちゃんも恭弥も、私のために頑張ってくれた。

 

 生きることをあきらめるなって。俺たちで何とかするから子供は何の心配もせず笑ってればいいって。

 不器用な手でおじいちゃんは私の頭をなでてくれた。

 

 ド田舎で、農作業とか半分自給自足していたためか、おじいちゃんの手は無骨でささくれ立っていて、ごつごつとして痛かったけど、でもそんな手がおじいちゃんの不器用さを表していて、嫌いじゃなかった。

 でもそんなおじいちゃんも2年前くらいに亡くなって、私と義弟だけになった。

 でもおじいちゃんは亡くなるときはすごい幸せそうだった。


 私への遺言は二つだけ。

 ・精一杯人生を楽しんで、病気なんかに負けるな。

 ・恭弥を見守ってやってほしい、あいつは大抵のことは自分でできるけど、無敵じゃないから。あいつにも弱いところがあるから。


 要約するとそういう風に書いてあった。

 その手紙は最後にこう書いてあった。


 【お前たち二人と最後に暮らせて、すごい幸せだった】と。


 私と恭弥は1日中泣いて……そして日常に戻った。ちなみに恭弥への遺言は半分お小言だったけど。

 けど、悪いことは続くもので。


 そのころから、私の病状が悪化した。

 途中までは、痛みを見せないように隠してたんだけどやっぱすぐにばれちゃうよね。うかつにも倒れちゃって、入院することになり、それに加えて高額な治療費も必要になった。

 でも気づいたら恭弥が、私の入院の手続きをして、立派な病院にいれてくれた。

 

 「どうやったの?」って聞いてみても、「病気のことだけを今は考えて」って笑顔でしか言わなくて。そういえば宝くじに当たったってあの頃は言ってたなぁ

 その事実を知ったのは1年以上たってから。

 恭弥はハーレム制度、に登録したらしい。

 私の存在が彼の枷となってしまったことが、非常に心苦しかった。でも恭弥にそんなことを言うと絶対に怒るから言わない。言えない。というか言って怒られた。

 普段怒らない恭弥があの時は本気で怒っててとても怖かった。普段怒らない人が怒ると怖いんだよね。


 恭弥がハーレム制度に参加してからも恭弥はよく来てくれた。

 まぁ来て早々、「結婚することになった」っていうのは驚いたんだけどさ。

 死ぬほど驚いたんですけど、というかなんなら私が彼を幸せにしたかったんですけど?

 私が彼の奥さんになるはずだったんですけど?

 義理だし。義理だし。義理の弟なんだし!


 ……でもわんちゃんここから?正妻もあるのかしら?

 あるよね、うん話を聞く感じ。

 ないわけなさそう、だってまだ仲がなかなか進展しない感じだし。


 こないだも女の子とデートの仕方とか聞いてくるくらいだしね。


 今日は気合を入れてほどほどにメイクした、香水もほんの少し。柔軟剤と間違われてもいいいくらいの。

 ……まぁメイクはばれないくらいに、だけど。……前は気合を入れすぎて怒られたから。恭弥にも看護師さんにも。

 好きな人の前でくらいいいじゃない、と思うけど。それを言ったら看護師さんにはより怒られた。

 ……まぁつまりバレたのが悪いのだ。

 

 「姉さんはいるね~」


 ノックのあとに恭弥が笑顔で中に入ってくる。

 鞄と、手にはお花か何かかな?

 そんなのを持っている。その辺の考えはちょっと古いというか、おじいちゃんに似ているというか、いつの時代かなぁって思ったりするんだけどそんなところも素敵だ。


 うん今日もかっこいい!かわいい!最高!

 素敵な服を着ていて、一方の私は病院服なのがあれなのだけど。

 

 「わざわざ来てくれてありがとね~、今日もかっこいいよ?」


 でもここはお姉さんっぽく振る舞う。

 だってかっこいい大人の女って感じで行きたいから! 


 「はは、ありがとすごくうれしいな」


 はにかんだように笑うその姿。

 キュンです!


 このフレーズ、最近はやっているってなんかでみた。

 というか、あれ。

 何時までたっても恭弥がドアを閉めない。

 いつもなら私の体を気遣って、すぐ閉めてくれるんだけど……。


 「……今日は姉さんの顔を見に来たのもちろんなんだけど、もう一ついい機会だと思って、さ」


 あれ、なんか嫌な話の切り出し方じゃない?


 「う、うん、どうかした?」


 でも顔には笑顔を浮かべたまま。

 女は好きな男性の前では、笑顔を浮かべられる。

 ……ま、まぁ前回はいきなり恭弥が結婚するとか言って、表情筋が仕事しなかったけども。

 今回はそんなミスは…………


 「姉さんに紹介したい人がいるんだ」


 ……あれこれもしかして?

 恭弥の後ろから女性が現れる。

 なんか第一印象は知的で、クールそう。


 目が合うと、恭しく礼をしてくれる。所作がなんかすごい。


「わぁ……」


 思わず感嘆の息が漏れたほど。


 「……そ、そちらの方?」


 慌てて笑顔を取り繕う。

 こ、声震えてないかな、大丈夫よね?


 「そう紹介したいのはこの人だよ、花咲凛さん」

  

 「恭弥様のメイドをさせていただいております、佐藤花咲凛です。恭弥様からはお姉さまの素敵なお話をよく伺っています、自慢の姉だから、と。どうぞよしなに」


 あ、なんだメイドさんかぁ。

 あぁびっくりしたてっきり恭弥の許嫁の一人か、と。

 それだと私のライバルになるかもって、安心安心。


 「それと俺の大事な人、でもあるかな?」


 ……うん?

 …………うんん?


 「え」


 もう、キョウ様……と隣の花咲凛さんも恥ずかしそうにしているんだけど。え、恋人みたいな動きを

 というか、え、大事な人?


 「…………い、許嫁の方だっけ?」


 でも確かそんな名前はなかったような…………


 「ううん、許嫁じゃないよ。さっきも言った通りハーレム制度のメイドさん。いろいろ手助けしてもらってるんだ」


 ……た、大変だ。

 きょ、恭弥が、私の恭弥が…………



 メイドに手をだしてるぅぅぅぅ!



 今日私の表情筋はちゃんとお仕事をしてくれるだろうか。とても不安だ。



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「気づいたら大学のマドンナを染めた男になっていた件」


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「ねぇ、私の偽彼氏になってよ」


 そんなことをお隣のギャルに言われた、知らないベッドの上で。なんかしかもシーツで顔を隠してるし、

 え、ちゃんと責任取らなきゃ……

 ……ん?よく見たらこの人大学のマドンナじゃない?

 ……あれ?俺に偽彼女ができたのを知った幼馴染の様子が?

 ……別れたはずの元カノが大学に編入してきた?


 いつの間にか大学内で、マドンナを彼女にして、幼馴染を浮気相手に、元カノをセフレ、と大学中のヘイトを集めてるんですけど?


 俺の平穏な大学生活はいったいどこへ?

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