第30話 「地獄の雰囲気」


 色々あった。

 昨日は本当に色々あった。


 宝生さんとの楽しいデート。

 微妙な空気に終わった、最後の公園。

 宝生さんの過去に触れた。

 

 疲れた。

 それはもう大変疲れた。


 花咲凛さんにお預けを喰らったのにも関わらず、秒で寝たもんね。


 でもそのおかげで、寝覚めは良く、日課のランニングに。

 やっぱり朝のランニングは気持ちいい。


 それにしても……


 「……婚約破棄なんて、そんな簡単なもんじゃなかったな」


 婚約破棄が簡単ってわけじゃもちろんないけど、その想像をはるかに上回っていた。

 

 結婚式に乱入?

 新郎を持ち逃げ?

 

 普通の考え方じゃないし、ふつうそんな発想にならない。

 人間でもない。

 これももしかしたら、男が少ない、ってことの弊害なのかな?


 いやどうだろ。


 しかし自分が当事者ではないとはいえ聞いていて気持ちのいい話じゃなかった。

 それに、結局宝生さんの事情は分かったけど、それで俺を遠ざけた、っていうのもあんまり釈然としない。


 せっかくの楽しいデートが、もやもやしたもので塗りつぶされていく。

 

 「ああくそっ」


 ゆっくりとランニングをしていると、余計なことを考えそうだからスピードを上げる。


 息が切れる、心臓が痛い。

 肺が酸素を求めている。

 

 でもどんなに体を痛めたところで、、いつまでたってももやもやは晴れない。

 その結果。



 「はぁはぁ……」



 家に着いた頃には、息も絶え絶えで立っているのもやっと。

 今すぐ横になりたい。


 「おかえりなさい、キョウ様……どうしたんですか、そんなに息を切らして。 変態にでも会いました?」


 花咲凛さんが怪訝そうに様子をうかがってくる。


 「いやちょっと全力で走りたくなってね……小一時間ほど?」


 そういった瞬間、あきれたようなジト目。


 「……バカなんですか?オリンピックでも目指すんですか?」


 「目指すわけないじゃん」


 「キョウ様はただでさえ男性の中では体力があるほうなのに、それ以上体力を付けてどうされるんですか?」


 単純な疑問。


 「……スタミナをつけないと勝てないからね、夜の戦いに」


 こう見えて俺はこのメイドに、夜はほとんど勝てたことは無い。

 そう言った瞬間、花咲凛さんは「ああ、そういう……」と得心が言ったような顔をし、


 「ならもっと頑張らないとだめですね?……キョウ様?」

 

 ついで挑発するように眼を細めてくる。


 「それはそうと……失礼しますね」


 急に眼を閉じて、顔を近づけてくる花咲凛さん。


 え、何そのキス待ちの顔で近づいてくる感じ。

 そんな乙女心あったの?


 ……いやさすがにあるか、彼女も女性だもんな。

 忘れたわけではなかったけど、よしここは俺も……


 そう決意したところで、パチッと目を開け、


 「キョウ様、汗臭いですよ?」


 「……そりゃ走ったからね!」


 どうやら、俺の匂いを嗅いでたらしい。

 慌てて距離をとる。


 そういうの傷つくんだぞ?


 「ほら、朝食を食べに行くんですから、お風呂入ってきてください、朝風呂入れてありますから」


 「う、うん」


 そ、そんなくさいかな?


 すんすん、と自分の匂いを嗅いでみるがあまりわからない。


 「……はぁはぁ。大丈夫ですよ柔軟剤の香りとかありますから、でも今のままでは……危険なので早く入ってください」


 それってやっぱくs……考えるのやめよう。

 花咲凛さんに服を脱がされ、朝風呂へ。


 「……あぁ疲れた体に染み渡るぅ」

 

 お湯が気持ちいい。

 やっぱ日本人はお風呂だよな。


 だから俺は花咲凛さんの最言葉が聞こえなかった。


 

 「……こんなフェロモンを出すのは反則ですよ……下着がダメになっちゃったじゃないですか」

 


 そして俺のシャツを抱きしめる花咲凛さんの様子も見えなかった。


 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 

 「あぁ気持ちよかったぁぁ」


 「……はい」


 若干恨めしそうにタオルを渡される。


 「ん?どした?」


 「いえなにも、それより朝食なので下に来てください」


 少しつんとした様子の花咲凛さん。

 ただその態度から故輝樹はなさそう。


 「じゃいただきに行こうかな?」


 「……はい」


 タオルで髪をふき、行こうとして……


 「ちゃんと乾かしてください、まったく」


 花咲凛さんからの強制ストップ。

 そのままドライヤーで乾かしてくれる。


 「……あぁありがと、どうしても面倒でさ」


 「キョウ様、それ他の女性の前で言ったらだめですよ?……キョウ様の5倍は女性乾かすの面倒なんですから」 

 

 「まじ?」


 「大マジです」


 そのまま花咲凛さんにされるがままになっておく。

 なんかのオイルもついでに塗ってくれる。


 「さ」


 そうして下へ。

 ランニングから帰ってきてお腹はペコペコだ。


 「あーおなか減ったぁ……?」


 一階に行けば、中には出かける準備をしている秋月さんに、ご飯を美味しそうにほおばる橘さん。

 そしてテーブルで食後のコーヒをすする宝生さん。

 黒川さんと花咲凛さんは給仕をしている、いつの間に来たんだ花咲凛さんは……。


 まぁつまるところ全員集合という訳で。


 「お、おはよう?」


 「おはよー」

 「おはよ……」

 「……おはようございます」


 橘さんと秋月さんは、まぁいつも通りっちゃいつも通り。

 でも明らかに宝生さんは俺と目を合わせない。

 

 宝生さんはコーヒーを軽く飲み、ソファのほうへ。

 場所を譲ってくれた、とみるか、俺から離れた、とみるか。


 彼女はその間も視線は一切こちらへ向けてこない。

 

 「……いただきまーす」


 静かに朝食を食べる。

 なんというか、微妙に気まずい。

 いやうそ、めっちゃ気まずい。


 なんというか俺も宝生さんのほうを向けない。


 そんな俺らの雰囲気を察したのか、二人もあまり話さず、それぞれスマホをいじったり準備をしていたり。

 普段は話す橘さんも空気を読んでか静かにしている。


 「……このご飯めっちゃおいしい、黒川さんのご飯もおいしいけど、佐藤さんのは佐藤さんのでがっつりしてておいしい!」


 違った、橘さんはただ舌鼓を打っていただけだった。

 でも確かに花咲凛さんのご飯はおいしい。味付けが俺好み、というか、ご飯がどんどんほしくなる。



 「……こんなご飯毎日食べてたのうらやましいなぁ! おかわりしよーっと!」


 「あんたそんな食べて大丈夫? 太らないの?」


 「……太る? あー、いや全然、そんなので悩んだことはないぁ。……ご飯は食べれるときにちゃんと食べないとね~」


 ニコッと笑って、ご飯のお代わりに行く。


 「といっても限度があるんじゃない?もう4杯目よ?」


 若干引いたように、橘さんを見る秋月さん。

 

 4杯か、4杯はさすがに多い。

 しかも持ってきたご飯は山盛り、どんだけ食べるんだ。

 これをすでに3杯も食べたのか……すごいな、うん。


 そんな様子を見ながら、おいしく目玉焼きとご飯を口に運ぶ。


 「これが若さか……」


 なんか秋月さんが人知れず、絶望している。

 秋月さんも全然若いけどな。


 「……そういえば昨日はデートだったんでしょー?」


 ご飯をほおばりながら、何気ない質問。

 その瞬間空気がピリッとした


 主に俺と宝生さんが。

 しかしご飯に夢中になっているから、橘さんはそれに気づく様子もなく……


 「どうだった〜?どこ行ったの〜?楽しかった〜?」


 矢継ぎ早に質問をしてくる。

 一方こちらはゆっくり咀嚼しながら、答える時間を何とか引き伸ばす。

 頭は朝とはとも思えないほどフル回転させてるけど……。


 うーん、なんて答えよう。




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 PC買いました!

 めちゃくちゃはかどります、……ゲームが。

 THE FINALS めっちゃおもろい。

 ……間違えました、執筆はかどってます笑


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