第28話 「宝生さんの事情2」

 「あの男、九頭竜誠一がすべてを壊したのですっ!」


 「九頭竜……誠一」


 それがあのもう一人の男か。

 あの俺より少し小さいくらいの男。

 女性からしたら確かに大きいかもしれない。


 「でも壊したってどういうこと? 宝生さんの悪口を何度もその高遠に吹聴したとかそう言う感じ?」


 婚約を壊すなんて簡単に出来るようには思えない。

 それこそ花嫁をうばうみたいなそんくらいしないと。


 でも、確かに高遠と九頭竜の二人はとても仲が良さそうに見えた。

 そんな友達の、言うことなら信じる、か??

 でも宝生さんにも半年をかけて築いてきた関係もあるし、なぁ……うーん


 「いえそんな可愛いものではありません、もちろんお嬢様の悪口も言っているとは思いますが、そんなの些事に等しいです」


 「……そんなに?」


 「ええ、奇しくもそれが発覚したのは、お嬢様の晴れ舞台、結婚式の時でした、いや九頭竜があえてその日を選んだんでしょうね」


 ……うわ何それ。

 このタイミングで出てくる結婚式とかいうワード、いい予感が一つもしないんだけど。


 でも結婚式まで行くということは、二人の婚姻は相当進んでたんだなぁ…………うん。すこしもやつくね。


 「それまではじゃあ宝生さんは九頭竜誠一のことは知らなかったの?」


 「いえ、結婚式の2-3カ月前より、高遠からは仲の良い男の友達が出来た、と聞いており、友人が出来てよかったね、とお嬢様は微笑まれていました」


 「そっか、ただでさえ男は少ないから、男友達が出来て宝生さんは素直に祝福してた感じなんだ」


 「はいそうです。結婚式当日は、身内と仲のいい人が来る内内の会でした。……もちろん外向けにも改めて結婚式をやる予定で、それが終われば、二人で籍を入れる、そんな手筈でした――」


 「――結婚式は、今となってはすこし時代遅れかもですが、チャペルで式を行い、その後披露宴、そのはずでした。……実際は披露宴は行われませんでしたけど」


 披露宴が行われなかった……?

 ということは何か起きたのは結婚式か。

 でも結婚式って、精々30分もかからないものじゃなかったっけ?

 それでなにか起きるっていうのは……え、まさか、ね?


 「当日のお嬢様はそれはそれはお綺麗でした、純白のドレスに身を包み、その切れ長の眼。もう宝生家一同、全員が式が始まる前から泣きそうになっておりました」


 そりゃ、ね。

 晴れ舞台だもの、人生に一回あるかないかの。


 「普段は表情を崩さない、旦那様でさえも、潤んでいるような気がしました」


 ええ、あの時は良かったです、と一瞬だけ、柔らかい笑顔を浮かべる。


 「まさかその涙が嬉し涙ではなくて、悲し涙に変わるなんて……」


 そりゃあね結婚式でそんなことになるなんて普通想像できない。


 「…………聞きたくないけど、聞かないとだよね…………何があったの?」


 「…………奴は結婚式の途中で、それも神父の誓いの瞬間に現れ、高遠を攫って行ったのです」


 ……ん?

 …………え?……高遠を…………攫って行った?


 「…………え、ちょっとまって、高遠をさらっていくの!?え、宝生さんじゃなくて?!新郎の方!?」 


 「はい高遠です」


 えー、旦那が攫われるパターンってあるんだー…………

 でも男女の比率がおかしい今なら、それもあるのか?


 「神父の言葉を待ち、厳粛に待っている中、教会の扉が開かれ、奴は空気も読まず、叫んだんです。【花婿は俺がもらう!】って。あり得ますか?普通」


 「えぇ……」


 「まだ続きがありまして、奴はなんて言ったと思います?!いうに事欠いて、【宝生紗耶香には光一を幸せにすることなんてできない、あいつは俺にしか幸せに出来ない、さあ俺の胸に飛び込んで来い、光一!】ですよ? はっきり言って、虫唾が走りますよねぇ、ねぇ!」


 かなりがんぎまった様子の黒川さんが同意を求めてくる。

 はっきり言って、黒川さんの様子は少し怖い。だけど気持ちも分かる。


 「その九頭竜って男、狂ってますね」

 

 こんなのはっきり言って、ドラマでしか聞いたこと無い。

 現実で本当にやるやついるんだって感じだ。


 「――高遠も高遠で、潤んだ目で、「……はいっ!誠一君!」とか言って、走っていきますし、二人とも頭のねじが飛んでます。」


 「返事しちゃうんだ…………馬鹿なのかな?」


 「バカじゃないですよ、大馬鹿のくそ野郎です」


 「……え、というか彼らは同性愛者なの?」


 「さぁ知りません。でもお嬢様にドキドキとかもされていたでしょうから、少なくとも高遠はどちらも行けるのでしょう。あぁあと九頭竜は、【男同士の恋が一番プラトニックで、真剣な愛なんだ】、とかもほざいておりました」


 「……えぇ」


 そりゃそう言う恋愛もあるのかもしれないけどさぁ。

 でもその考え方は、この世界では許されにくいだろ?ただでさえ男性が少ないんだからさ。政府としても許すわけがない。前の時代でも厳しかったんだから世間の眼は。


 「口が悪くなり、大変申し訳ありません。その後二人はタクシーに飛び乗りどこかへ行き、取り残されたお嬢様は会場にいらした方に謝罪し、その場をなんとかしましたが、その様子は見ていてか胸が張り裂けそうでした。それでもお嬢様は気丈に振る舞われていて……その時一生この方の味方でいよう、と宝生家の多くのものが感じたと思います」

 

 そんなの想像するだけで、きついのに、すごいな宝生さんは。

 そんなことがあっても、このハーレム制度に参加してるわけだし。

 塞ぎこんでてもおかしくないはずなのに。


 すごいな本当に。

 彼女の気高さは。


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