第21話 「彼女の真意」
「どうしてですか、どうしてあなたは笑っているのですか」
「…………えっ?」
いきなりなんの話?
「男性のあなたにとって今日の付き添いは、苦行だったはずです。興味もない書籍などを見せられ、絵画など、芸術作品とかも鑑賞させられる。そもそも今日は私があなたの要望も聞かずに、行き先を決めています。それだけ男性が嫌悪するであろうことを多々したのに、なぜあなたはそんなに笑っているのですか」
……え?!
今の男性って、美術品を鑑賞したりとか、読書をしたり、本を眺めることとか、そういうこと嫌いなの?
初めて聞いたんだけど?
俺、美術とかは勉強もしてないしあまりわからないけど、鑑賞するのは全然好きだけどなぁ。
なんか自分の中の感性が磨かれている気がするんだよねぇ。
よく考えたら一般受けじゃしないかもしれない。でも――
「――全然苦行とかじゃなかったよ?なんならめちゃくちゃ楽しかったよ?」
感性も磨かれて、あ、これが第六感てやつかな?
「嘘です、そんなわけありません。普通男性は自分で主導権を握りたい、そんな心情があるはずです。しかも今回のデートは私が決めています。そのうえで、あなたに寄り添った、例えばもっとアクティブなスポーツ観戦とか、もしくは逆にお洒落なアパレルショップとかで服を見る、とかそういうのが好きなはずです。そう
「……ん?」
「こういうデートに連れて行けば婚約破棄してくれると思ったのに……」
その声はかすれるほど小さかった。
あぁ少し分かったかもしれない。
彼女がなぜこんなにも取り乱しているのか。
これはきっと過去の傷のせい。
それは男性という存在に対する、恐怖。
「俺は別に自分が主導権を握れなくても全然かまわない。確かにスポーツを観戦したりすることも面白いなぁとは思う、でも格闘技とかみるのは好きだけどやるのはそんなに好きじゃない」
「なぜあなたは、だってあなたは男性で……」
彼女の中で男性というものが、イメージ付けされているんだろう。
宝生さんは困惑もしているのかもしれない、今まで見てきた男性と俺が違うから。
イメージと俺があまりに違いすぎるから。
でもそれも当然なのかもしれない。
人という生き物は自分の経験したことで物事を推し量る傾向にある。
そしてこの男性が少ない社会の中で、宝生さんが出会った男性というものの絶対数は少ないだろう、俺の生きてた前世の女性にくらべたら圧倒的に。
その中で、仲良くなる、性格を理解するほどに、となるとその数が少なくなるのは必然かもしれない。
だから彼女の中では今まで会ってきた男性たちが男性像になるんだろう。
まぁこれは彼女に限った話じゃないんだろうけど。
そして問題のは、彼女のイメージの男性像は多分それはろくでもない男性像ってこと。
どんな人と出会ったのかも、どんなことがあったのかも俺はほとんど知らないけど。
でもその中で過去の婚約者たちが占めている割合は大きいのだろう。
そこまでわかればまず俺が何をしなきゃいけないのかは自ずから決まってくる。
男性、なんて広いくくりで俺をみてもらうんじゃなくて……
「うん俺は男だけど。だけどそれが何か関係ある?」
だから俺を男、ではなく一人の人間として見てもらわなきゃいけない。
でも宝生さんは、そんな問いに嘲るように笑った。
「だってそれがあなた達を支えるものでしょ?男である、ということがあなたたちのプライド。唯一無二の絶対のことじゃない?」
「いや別に。男だから、とかが俺を支えてるわけではないかな。だって俺は俺だし。仮にも女の子だったとしても、生き方とかが変わるわけないでしょ?」
「それはあなたが男だから言えることじゃない?女の立場を経験していないから」
男だから、特権があるから、か。
確かにこの世界ならそうだ。でも前の世界と比べて肩身が狭くもある。一概にいいものでもないと思う。
俺は前の世界の影響があるからか余計に感じる。探るような視線、奇異の視線、露骨な態度。
女友達とかなんてできそうにもない。花咲凛さんが近いかもだけど…………うんやっぱ違うわ。
「確かに。俺は女性のことは分からないよ、どんなふうに扱われるか、どんなふうに言われるか」
「なら!」
宝生さんの言葉に力が入る。
「でも逆に女性の宝生さんにもわからないんじゃないかな?例えば幼少期の男性がいかに居心地が悪いのか、とか圧倒的なマイノリティに属す人の気持ち、とか」
「だからそれは男性という特権で」
「特権というか、マイノリティというかの違いじゃないかなって思うんだ。大事なのはどの視点から見るのか。人間というくくりで見たらそんなに変わらないと俺は思う」
言い方次第、見方次第。ピンチととらえるか、逆転のチャンスととらえるか、そんな感じ。
「見え方の問題、ですか。ではあなたは今の世の中で、男性も女性も変わらない、とでもいうのかしら?」
「言わないよ」
言えるわけがない。だって俺は――
「――俺が男性であるという特権を生かして、こういう制度を使ってるからね。でもこれは社会制度の話。法律とかつくるのは女性が多いし、国会議員も多い。重鎮も男性に比べて多い。マジョリティは女性でもあるんだよ」
「それはそうかもしれませんけど……」
「俺はどちらがいいとか悪いとか言いたいわけじゃなくて、結局そのひと個人を見るべきなんじゃないかなって」
「個人?」
「そ、性別としてじゃなく一種の個としてみる。女の人だっていろんな性格の人がいるでしょ?ファッションが好きな人、運動が好きな人、映画が好きな人、海が好きな人、山が好きな人、いろんな人がいる。それと一緒だよ。数の絶対数は少ないけれど、男性だって同じ人間だ、だからいろんな人がいる、それは変わらないよ」
人は経験則で判断することが多い。
男の若者なんていない訳じゃないけど、多いわけでもないから。その経験は数少ない事例に基づくものだろう。
「…………でも変わらないこともあると思うわ」
間があった。
少し思うところがあるのかな?
「といいますと?」
「男性であること」
確かに。
「今宝生さんがみている見方は、猫はツンツンしていると一般論を語っているに過ぎない、みたいなことだと思うんだよね。でもその中の猫のそれぞれの個体には名前があって性格がある、ツンツンしているものもいれば、甘えん坊な猫もいる、抱っこが嫌いな猫もいれば、好きな猫もいる。……まぁえーっと何が言いたいかって言うと、あー」
つまり、なんだ?
「……俺個人を見ろ、そう言うことですか?」
「そ、そうそう!」
最後自分でも何を言いたかったかうまくまとめられなかった。
宝生さんがうまくまとめてくれた。
連係プレイ?
いやきもいな自分。
「武田さん自身……を、か」
「まぁでも今まで培った価値観だし、宝生さんが言ったような人もいるのかもしれない。俺はちょっと特殊と言えば特殊だから、ね」
普通のつもりではあるのだけど。
「……まぁ変な人というのは確かにそうですね」
「変な人っていうことだけ納得しないでほしいんだけど?」
「……でもそうですね、確かに私としたことがどうしても、あなたを穿った目で見ていた、いやそもそも見ていないということは確かにありましたね。あなた個人、ではなく男性、として見ていたことは事実ですね。あなた単体を見てはいなかった」
スルーされた……。
果たしてその男性、というのはどんな偶像なんだろうね。
「経営などでもそうです、自分の眼鏡で見ないように、客観的事実に基づいて、判断しなければ、致命的なミスをいつか引き起こすというのにいけないというのに。どうしても、自分のことになるとそう冷静に判断できませんね」
「それはそうでしょ、人間は機械じゃないんだ、心があるんだから」
「なんかのセリフの受け売りみたいですね?」
「はは」
まぁここは愛想笑いでごまかすしかない。
「……まぁそのくさい台詞云々は置いておくとしても、ありがとうございました。自分自身を見つめなおす機会になりました」
「それは良かった」
クサい台詞のつもりはなかったんだけどなぁ。
ただ彼女は少し視線を左右させ、
「…………そしてちょっとはあなた自身を見てもいいかな、ってそんな気は少ししてます」
ふふ、と軽く微笑む。
「ちょっと意固地になりすぎたかもしれません」
「そうかな?過去にそうさせることがあったならしょうがないと思うし、変える必要もないと思うけどなぁ……まぁ俺だけは特別に、個人として見てもらえるとうれしい」
ついでに許嫁投票で継続に投票してくれるともっと嬉しい。
だが決してこれは俺のことが好きになった、とかではない。
これはやっと彼女が、俺という存在を認識し始めた、ただそれだけ。
「……ちゃんとあなたを覗き男、としてみることにします」
「それはちょっとやめてほしいかな?」
切実にやめてほしい。
さすがに不名誉すぎる。
「ごめん、ちょっとお手洗いに……」
「はい、どうぞ」
膀胱もやばかったけど、心も限界だった。
柄にもない事を言った。
多分間違いなく花咲凛さんがいたら、笑われてた。
「あーっ」
頭を振り、ニヤニヤした笑みを浮かべる彼女を忘れ去る。
そのまま公衆トイレへ。
とは言っても、男性用はどうしても少なくなっているためわざわざ屋内の個室へと行かなきゃいけない。
めんどくさいね。
まるで女子になったみたいだ。
思ったより時間がかかった。
なかなかトイレがない。
時刻は3時過ぎ。
「宝生さん、ごめーん時間が……うん?」
戻ったら、2人の男性に絡まれている、宝生さんと黒川さんがいた。
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そういえば昨日誕生日でした。歳をとることに嬉しさをおぼえなくなったのはいつからだろうなぁ、なんなら忘れかけてた、まであるという笑
皆さんはどうですか?
ではではまた。
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忘れちゃってる方もいるかもしれないので一応…………
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