第22話 「変な男」SIDE悪役令嬢
その日は最初から憂鬱だった。
全ては、あの男が急に言い出したことから始まった。
いきなり、
【許嫁候補として皆さんのことをもっと知りたいんです!!許嫁投票の前にデート、じゃなくて、えぇとお出かけでもして、一人一人のことを理解さしてください!】
最初そう言われた時、おもったことは女性陣はみんな一緒。
(めんどくさいな)
顔に出すのが橘さんと秋月さん。
かろうじて出していないのが私、っていう感じ。
いや隠そうという努力はしている…………隠れているかは微妙だけど。
そんな私たちの表情を読み取ったのだろうか。
彼はそのまま続ける。
「これは皆さんにも悪い話ではないんじゃないかと、思うんですよね。この許嫁投票をする上で、政府の制度を利用している状態なので、対外的にもちゃんとやっていたということのためにもデートをしてもいいと思うんですよ」
まぁこれは皆さんが言っていた言葉ですけどね、と気恥ずかし気に話す彼。
確かにリスク管理としてはしたら何かデメリットがあるという訳ではない。
まぁあるにはあるけれどそれは私が男性と関わりたくない、ということ。
さすがに感情は切り分ける。
これは乗るべきかしら?
男性の意見が通りやすい社会だから、この男性の要望も聞いておく必要はある。
後々何か言われないためにも。
「ま、私はいいよー」
「ま、言いたいことは分かったわ」
「……承知しました」
私たちの返事を聞き、彼は嬉しそうにうなずく。
「ただ」
「ただ?」
彼が不思議そうに首をかしげる。
「行先などは、こちらで決めさせてください」
「えっ」
行くところも決める気だったのかしら?
でもそうはさせないでしょ。
正直男性のすることを私は信用していない。
この人が何を思って、今回の件を企画したのかもわからない。
過去の人みたいに、私たちを害しようという気配は、感じないけれど、用心に越したことは無いでしょう。
「別に問題ありませんよね?だって私たちのことを知るために今回のお出かけを企画されたのでしょう?」
「ま、まぁそうだけど……」
不満そう……というよりはどちらかというと困惑、かしら。
怒るなら分かるけど、なぜ?
予想外の展開、だから?
「みなさんもそれでいいですか?」
「ええいいわよ」
「えーめんどいけど、まぁいいかぁ」
それぞれの了承も得て、このような結果に第2回許嫁投票は終わった。
終わったのだけど――
(――その結果なぜか私が最初に……)
悔やむべきは今回の件があり、ほどほどにスケジュールを調整したからだろう。
普通に土日が空いていた、空いてしまっていた。
「……仕事とかある?」
と部下に聞いても、有能なおかげで私がすることがあまり残っていない。
有能すぎて辛い、ぜいたくな悩みなのだけどね。
でもあの二人。
秋月先生はまぁわかる。
教諭という仕事上、土日でもやることがある、と言われれば学生でしかない私たちには、スケジュールを優先させることは無いだろう。
でも橘さん。
彼女は友達とあそぶーって。
なんというか釈然としない気持ちが。
いや先に決まってた予定ならしょうがないけど、絶対違うよね。
ちらっと見えたスマホのスケジュール空だったけれど?
ただそれを言うのはまぁ無粋というものかしら。
…………いずれはこのデートをしなきゃいけないなら早めに終わらしといたらあとはもう付き合わなくて済む。
そうポジティブに捉えよう。
あとはどうせこんな可愛げのない私だ。
昔みたいに婚約破棄されるだろう。
ならばあえて素の自分が好きなところに行こう、美術とか書籍とか。
それがいいわね。
プランが決まった。
当日は公園で、待ち合わせをした。
彼は素直に私が指示したとおりに、待ち合わせ時間の10分前には待っていた。
興味深げに辺りを見回している。
本当に大丈夫かしら。
公園のどんどんと人気のないところに行っているけれど。
昔より治安は悪いのだ。
表通りにこそ入れば言いけれど暗がりに自分から進んでいくのはなかなかに信じられない。昔の人ならまだ分かるけど。
「ちょっと!」
だから慌てて呼び止める。
だが彼は聞こえていないのか、こちらを振り向かない。
「ねえちょっと!」
何回か読んでようやく恐る恐るという感じでこちらを振り向く。
そこで初めて自分をよんでいたことに気づいたかのように。
「ちょっと無視しないください、あなたから誘ったんでしょう?」
「……ん?もしかして……宝生、さん?」
「それ以外誰がいるのですか?」
私そんなに埋没しているような顔では無いと思うのですけれど。母親譲りの金髪ですし。
彼は恐る恐るといった様子で車に乗ってくる。
そんな経験ないのかしら。
でもまぁ私も人を乗せた経験なんてそんな無い。
世間一般では、男性を助手席に載せる、というのは中々に誉れ高いことらしいけど……。
今の私にとっては全然嬉しくない。男性となんて関わりたくないのだから。
「……ところで今自分たちはどこへ向かっているんですか?」
許嫁候補さんが行き先を尋ねてくる。
行き先なんて既に決めている。あなた達男性が嫌いであろう場所に。
「それはついてからのお楽しみです」
ふふっと微笑む。
あぁいつから私はこんなに醜くなったのか。
人を陥れるようなこんなことを。
なのに何故彼はこんなにも素直な顔をしているのだろう。
そんな顔が余計に嫌だった。
まるで自分の歪みを直視させられるような気がして。
その後は雑談をしてたら目的地へと着いた。
少し話してみると、素直そうな、という印象と同じような雰囲気を彼から感じた。
だからといってどうということは無いのだけど。
どうせ目的地に着けば、その顔も歪むだろう。
とうとう着いた、これで心証は悪くなるだろう。
のはずだったんですけどねぇ…………。
なんかとても楽しんでられるように見える。
目を輝かせて、書籍とかを眺めている。
男性ってこういうの嫌いのはずなのだけど……。
普段ここに来れば、どんなに嫌なことがあったとしても、心すむような気持ちになるのに、今日はモヤがかかったように気持ちが晴れない。
どうしてか、なんてのは聞くほどにない。
私は男性が嫌いだ。
いや嫌悪しているといえる。
昔はこんなこともなかったけど。
それはやはり……。
暗い気持ちに陥りそうなので、一旦考えを切り替える。
今は過去の忘却よりもやらなきゃ行けない事があるから。
目の前の男に今日で婚約破棄まではいかないにしても、嫌われなきゃ行けない。
先にそう仕向けておけばもう私が……
だから場所を改める。
どうもここはあまりに魅力的過ぎたらしい。
まあ次の場所も私にとってはそうなのだけど。
好きな場所を冒涜するようなことはあまりしたくないけど。
これもしょうがない。
なのにそれなのにあまりに彼が笑っているから。
思わず言ってしまった。
「どうして笑っているのですか」
強く言ったつもりは無かった。
でも自然とその言葉は熱を帯びていた。
彼は目を丸くしていた。
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そろそろギャルが書きたいなぁ。
それでは!
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