第20話 「悪役令嬢との許嫁デート」

慣れた様子で、中へと入っていく宝生さん。

 

 「ここにはよく……?」


 「たまに来ることはありますね」


 何回も来ている場所らしい。

 

 2階の受付を勝手知ったる様子で、スルーし、スマホの電子チケットを提示し、中へ。

 

 「あ、2枚分買っておいているので一緒に入っていただいて大丈夫ですよ」


 「あ、ありがとうございます」


 早くこちらへ来い、とばかりに手招きをしてくれる。


 いや事前準備完璧かな?

 出来る彼氏、仕事出来る人、っていうのはこういう人のことを言うんだろうなぁ。

 まぁ女性だから厳密には彼氏ではないんだけどさ。

 あぁでも社長だから出来ない人な訳ないのか……そんな人は社長やらないだろうし


 改めて考えるとやっぱこの人、普通にすごい。


 「あ、しかもこれ時間帯で入場時間きまってるんですね」


 「そうですね、ここ結構な人気スポットなので、入場時間とかを指定して、入場者が流れるようにしているらしいですよ」


 「すごい、人気スポットなんですね」


 まぁ確かにあの建物だけでもかなり目を引くしな。


 「最近では年末のテレビとかで、ここで歌を披露されたりしたそうですよセットとして」

 

 「へぇそんなに?そりゃ人気ですね」


 すごいとは思うすごいとは思うけど。


 「…………それで、結局ここは一体どんな場所なんですか?」


 「あれ?言ってませんでしたっけ?」


 「言ってないですね」


 「そういえば言ってないかもですね、すみません。ここは約25000以上の過去の絶版になった書籍や貴重なものなどを置いていて、さらには企画ものの美術展や、サブカルチャー的なものの図書館、とも言えますね。総じて言えば複合的なカルチャーセンター、っていう感じです。」


 それは何ともすごい蔵書数だ。それだけいろいろなものをそろえられるなら、これだけ摩訶不思議な建物を建てることも出来るだろう。

 実際に中に入ると、本当にすごい。

 8メートルもあるめちゃくちゃでかい本棚にはぎっしりと本が詰まり、そこから炎とが燃え盛るような、映像や果てには、水が滴り落ちるようなプロジェクションマッピングが流れる。


 人工的なものだといっても、その壮観な光景には驚かされる。


 「うわ、すごいな」


 「……綺麗ですよね」


 宝生さんもまた、この美しさに、普段緩ませない頬を緩ませている。

 うっとりと。


 得もしれぬ美しさを感じる。


 3分ほどに渡る一連のストーリー。

 ただの技術の総集ではなく、一つの作品として仕上がっている。

 素人だし、そんな大層なことはいえないけど、すごい。


 食い入るように眺めてしまった。

 その先には、階段の左右も書籍の数々。


 そしてそれぞれの場所にはそこにあったコンセプトが隠れているらしい。

 各階でもそれぞれ趣向を凝らしたつくりになっていて非常におもしろい。


 何時間だっていれるし、宝生さんが何回も来たくなるのも分かる。

 これははまるわ。


 それと時折、宝生さんが「これは19世紀のだれだれの~……」とか、「この書籍のすごいところは~……」など解説してくれるのもすごいわかりやすくて、勉強になる。


 総じていえばデートなことを忘れて、普通に楽しんでいた。

 ラノベ図書館なるものもあって、その中には結構昔のものもあり、


 「やっぱりここは数が違いますね……」


 とかいってたからもしかしたら、宝生さんはそこら辺のサブカルも詳しいのかもしれない。


 時間はあっという間にすぎ気づいたら見終わっていた。


 「コーヒーでも飲みますか」


 「そうですね」


 興奮しっぱなしで、喉も乾いた。


 「あ、結構時間たってるんだ」

 

 時計を見れば、もうかれこれ3時間近くたっている。

 近くのカフェに入り、席へ。


 「コーヒーでいいですか?」


 「いえ入館の手間もやってもらったしここは自分が。コーヒーとか紅茶、なにがいいですか?」


 「えっ、ええとコーヒー、で」


 なぜか俺が買っていくというと、驚く宝生さん。

 

 それくらいさせてくれ、ただでさえデートも何もかも全部宝生さんに決めてもらって居心地悪いんだから、さ。


 というか紅茶じゃないんだなぁ。

 お金持ちはみんな紅茶とか飲むものだと思ってた。


 「アイスですか?ホットですか?」


 「……ホットでお願いします」


 そこはそうだよね。

 うんうん、と頷きながら買いにいく。



「はい、宝生さん」


 ホットコーヒーを慎重に彼女の前に。


「あ、ありがとうございます」


「いえいえこれくらい当然ですよ」


 おぉ、アイスコーヒーも美味しい。


「どうして、買いに行ってくれたんですか?」


「どうして、とは?」


「普通こういったことは男性はやらないのではないですか?」


 やらないの、かな?

 分からん。

 なんでやらないのかも。


「世間一般で、の話なら分からないですけどまぁ自分はやりますよ。今日は既に宝生さんに楽しくさせて貰いましたからね。なので、これくらいは、と思っただけです」


「……………………」


「あ、あぁもちろんこれくらいで返せるとは思ってないですよ。今度はぜひエスコートさせてください」


「…………」


 それでも宝生さんは無言。


 え、なんで無言。


「…………さっきのこと楽しかった…………んですか?」


「はいとても」


 当たり前だ。

 未知の世界を知れたんだから。


「そ、そうですか…………それは良かった…………です」


 何故か宝生さんは困惑した表情。

 そのままカフェでランチを取り、車へ。


 今度は上野で有名な美術館へ。

 こんな風に気楽に移動できるとやっぱ車っていいよな。


 やはり絵画もそれぞれの時代背景を感じて面白い。

 描かれた当時の情勢とかを知ると、絵の細部にも面白みが出てくる。


 それを情緒豊かに教えてくれる宝生さんはとても親切でここでもすごかった


 本当に博識だな。

 そんな風にすら感心した。


 苦手に相手にすら、親切に出来る。

 素敵な人だなってだいぶ印象が変わりかけていた。


 今ならすこしわかる気がする、白石先生が言ったことが。


 唐突に宝生さんは立ち止まる。


「……どうしました?」


「どうしてですか」


「…………え?」


「どうしてあなたはそんなに笑っているんですか」


 宝生さんが睨みながらも聞いてくる。



 …………はい?どういうことですか?


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