1章 許嫁投票 編

第19話 「悪役令嬢とドライブ」


 「あ~、緊張するなぁ」


 今日は宝生さんとのデートの日。

 駅前で、宝生さんを待っている。


 春とはいえ、まだ肌寒さは残っていて、木々はつぼみのまま。

 

 軽くコートを羽織ってきてよかった。


 というか家の近くの公園にいてって言われたけど、なんだろう。

 公園デートとか、かな?

 宝生さんが公園デート、なんかギャップあるかも。いいね!

 お弁当とかつくってくれたり??

 いいねいいね!


 そんな想像に胸輝かせることしばし。


 「ちょっと」


 「…………」


 「ねえちょっと」


 後ろで誰かが呼んでいる。

 っていうか、聞き覚えある声。

 


 でもなぁこれもし俺以外じゃない人を呼んでた時めちゃくちゃ気まずいんだよなぁ。

 あの、独特の時が止まったような感覚。

 

 

 【え、私が呼んでいるのは、あなたじゃないよ】


 

 っていうあの変質者を見るような目線。

 普段は相手の気持ちなんてわからないのに、あの時だけはエスパーみたいに分かっちゃうんだよね。


 まぁその時は何食わぬ顔で、上げかけた手で肩をもんだり、髪の毛をセットしてるふりをしてみたり、前髪の分け目を気にしたり、まぁ騙し方は人それぞれ。


 もうああはなりたくない。

 ないんだけどね。

 

 でももしかしたらと思って、背伸びをするふりをして、後ろをチラ見。

 そしてすぐに前を向く。


 

 ……なんかちょっと後ろで、黒くてごついSUVの外車からサングラスを掛けた女性が俺を睨んでるんですけど?

 

 

 「……え?」


 再度チラ見。

 所謂二度見。

 するとさっきと変わらずこちらをにらみつける女性。


 「ちょっと無視しないください、あなたから誘ったんでしょう?」


 聞き覚えある声。

 というか…………


 「……もしかして……宝生、さん?」


 「それ以外誰がいるのですか?」


 「いや、誰か分からなくて……」


 「この周辺、ぱっと見あなたしかいらっしゃらないですけど?」


 改めて周りを見る。


 ……うん、誰もいないな。


 やばい。宝生さんのジト目がきつい。

 サングラス越しだからより怖い。

 


 「……時間もありますし、乗ってもらえます?」


 「はい……」


 「それじゃ行きましょうか、シートベルトしてくださいね?」


 俺のこと嫌いなはずなのに、ちゃんと言ってくるあたり、優しいと感じてしまう。

 まぁシートベルトするのは当然なんだけど。


 「……寒くないですか?」


 「はい、大丈夫ですよーお気遣いありがとうございます」


 「いえ、当然です。真ん中のところでコントロールできるので、好きに調整してくださいね? 左右でコントロール別なので私に気を遣わなくて大丈夫ですから」


 気遣い完璧すぎるんだけど?

 この人絶対モテるでしょ。

 

 「……ところで今自分たちはどこへ向かっているんですか?」


 「それはついてからのお楽しみです」


 全くの無表情で言われた。

 そう言うのって小悪魔的な笑顔とかあるんじゃないの?

 台詞だけ聞けばドキドキするのに。


 今回のデート、その場所っていうのは許嫁の方々が選べるようになっている。

 これはこのデートを行うかどうかで紛糾した【第2回許嫁会議】において決定した。


 結局、政府にというかNAZ機関にアピールするためにもそう言うイベントはちゃんとしたほうがいいということになり、個々人のデートは執り行われることとなった。

 ただデート場所は、女性陣に選ばしてほしいとのことになった。

 まぁ、変なところに連れ込まれたら困る、と言われ、この間のお風呂場に突撃してしまった件も作用して、俺以外満場一致で決定された。



 俺、盛っていると思われているのかな?


 まぁただ花咲凛さんからは、


 

 「3つもデートコース考えなくてすんでよかったですね?」


 

 なんて言われた。

 

 まぁそうなんだけどね?

 なんか前世の価値観だと男がデートコース考えてなんぼ、みたいなところがあったから違和感がちょっとある。


 まぁ楽できた、というよりは、彼女たちのことをより知れるチャンスとポジティブにとらえよう。

 

 ちなみに車の中は、海外の洋楽か何かが流れている。

 なんかおしゃれな音楽。


 「宝生さんは良く車の運転とかされるんですか?」


 「……なんですか藪から棒に」


 視線は前に固定したまま、何事かと訝しんでくる。

 

 「いや結構車酔いとか僕しやすいんですけど――」


 「――文句ですか?」


 「い、いえそうではなくて、酔いやすいんですけど、なんかブレーキの仕方が優しかったり、走っている車の安定感が違うなぁ、って優しい運転?っていうのかな?まぁいいや……だから普段からしてるのかなって思いまして」


 「ああ、そう言うことですか。すみません早とちりをしてしまい……酔ってないようならよかったです。話戻しますけど、そうですね。休日とか時間があればドライブしたりはしてますね。好きか嫌い、でいえば好き、という感じですかね」


 「あ、じゃあドライブが趣味なんですね~」

 

 「趣味、と言われるほどでは……どちらかというと気分転換ですね。好きな音楽をかけて、心を空っぽにして景色と一緒にはしるんです。忙しい時とか、悩んだりしたときはそうやって意識的にリフレッシュしてますね」


 「そうなんですね~、僕も取れる年齢になったら取ろうかなぁ」


 前世でも結局取りたいと思ってたのに、取れる年齢になって高校卒業するくらいで色々あって死んじゃったからなぁ。

 今世こそは、無難に行きて、車を運転できるようになりたい。


 「……それもいいかもしれないですね。あなたは趣味とかはあるんですか?……あ、話題の一環ですよ?他意はありませんから」


 「あ、はは。分かってますよ?」


 言わなくても別にいいけど?

 でも趣味かぁ。趣味、趣味ねぇ……


 「そう改めて聞かれると、難しいですね」


 前世では家庭環境があまり良くなかったこともあって、趣味とかを考えることは無かった。

 まぁ部活とかはあったけど、それが趣味とは違うしなぁ。

 今世では、そもそもじいちゃんのところにいるときは、護身術を学ばされてたからなぁ。

 無くなってからは、姉ちゃんの治療費とかで働いてたりしてたから、


 「……趣味、ないかもしれないですねぇ」


 「あらそうなんですか?」


 意外そうに、眼を少し見開く宝生さん。


 「てっきり私はランニングとかかと思ってましたよ…………それか女性の覗き、とか。」


 「ほ、宝生さん??」


 予期せぬ攻撃に思わずたじろいでしまう。


 「あら、そのたじろぎよう。……案外的を得ていたりしますか」

 

 「い、いやいやそんなわけないじゃないですか!やめてくださいよ!僕は健全ですから!」


 「健全に、女性の裸を見るのが、好き、と」


 「いえですから、同意なく見るのは嫌いですよ!」


 「見ることが好きなことは否定しない、と」


 「まぁそれは男ですからね!」


 そこまで否定したら、もうそれは男ではないんじゃないのか?

 一般健全男性なら普通興味津々だと思うけどな。



 「……珍妙な方ですね」


 「珍妙?!」


 なんか罵倒されたんですけど。

 俺は珍獣か何かですか?


 「……でもそうじゃないですか?今時の男性は女性の裸なんて見慣れている、とは言いませんが、下着とかは見れる機会はいくらでもあります。学校とかだと、教室で着替えたりされてますからね。ですから見るのに忌避感はない方はいるでしょうが好んでみたい、というのは…………やはり珍妙ですかね」


 今時だと男性用の更衣室が準備されてることの方が多いからなぁ。

 ちなみに俺はど田舎だったし、教室で着替えてた。

 あとやっぱり」恥ずかしさが少ないんだよなぁ、前世の感覚が残ってるからか。

 言ってしまえば、今の男性は前世の女子のような考え方、羞恥心、とかなのかもしれない。


 「…………普通ですよ?」


 だから俺はそう言うのが精一杯。


 「普通っていう方は、大体普通じゃないんですよ?」

 

 「うっ……」


 「さ、着きましたね」


 会話している間に、目的地に到着したらしい。

 駐車場を降りて、降りた先にあるのは、石材らしきもので出来た、超多角形の建物。

 外観には、古の神みたいな梟らしき壁画が書かれている。


 普段の日常からかけ離れた、ある種特殊な雰囲気に、異世界に舞い降りたようなそんな錯覚を覚えさせる。


 「ではいってみましょうか」

 

 「……はい」


 …………宝生さん、一体ここはどこ?

 

 ここは異世界ですか??



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最近思ったことがあります。

 この作品は本当にラブコメだろうか???

 皆さんの意見は??


 あ、1章 許嫁投票編 スタート!


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