第15話 「女心と春の空」
「……昨日は申し訳なかった、これお詫びといったらあれだけど…………」
次の日の夕方。
リビングを通り掛かった橘さんにこれ幸いとものを渡す。
こういうのは早い方がいいに決まってるからね。
「なにこれ、賄賂?」
「なんのための賄賂だよ。いやある意味で正しいかもしれないんだけど。こないだのお詫び。本当に悪かったから」
「こないだ……あぁ朝のことね。 全然いいのに〜、でもありがとうねん貰っとこうかな〜」
どうやら興味無いって初対面で言われてしまってはいたけど、こういうものは受け取ってくれるらしい。
でもそうか。興味無いということは好きでも嫌いでもないということ、だから別にいいのか。ここから興味をひけばいい。
「…………中身みてもいー?」
「どうぞ?そんな大したものじゃなくてごめんだけど」
少しウキウキしたような様子で、中身を開けていく。
「わぁ、色んなお菓子がある! ちょっと一口っと」
そう言って徐にひとつを開けるとパクリと1口。
それを噛み、目を閉じて、しばし無言。
「…………ど、どう?味は大丈夫…………だと思うんだけど」
あまりに沈黙が長すぎてこちらから声をかけてしまった。
「…………さいっこう」
ふと漏らした声は感嘆の声。
次に目を開けた時はキラキラとした目で菓子折を見つめている。
「こんな美味しいお菓子初めて食べた!!美味しすぎて蕩けそう〜幸せ〜」
ひと口ひと口を噛み締めるように頬張る橘さん。
その姿は年相応の可愛げがあって。
「…………何そんなに見つめて〜、これはあげないよー?こんなに美味しいもの初めて食べたぁ」
あまりに見すぎたからか、そんなふうに疑われてしまう。
でも言えるか、少し見惚れかけてた、なんて。
「ううんそんな事言わないよ。それはお詫びの品だから、ぜひ食べて」
「それはもちろん!……それにしても世界にはこんな美味しいお菓子がいっぱいあったんだなぁ」
「そんなに?」
あそこの店のお菓子そんなに美味しいのか。
試食した時たしかに美味しかったけど。
「すごいよ革命だよこれは主食にしたらいいと思う~!こんなに美味しいのが他にもあるのかな?かなかな?」
「どうなんだろ?あるんじゃないかな?それこそそういうのは現役JKの方が知ってそうだけど。JKの間では今どんなのが流行ってるの?」
そう聞くと少し罰な悪そうにしながら。
「…………えーと、いまはマリトッツォ……とかじゃない?あれも美味しかったなぁ、ぁぁぁとスターバッフス、とか?」
「スターバッフスはたまに行くけど美味しいよね。あそこのトッピング、男からしたら呪文みたいだよね〜」
「ね、あれは覚えるのに苦労したな〜」
「やっぱ女子でもそうなんだね」
色んなトッピングがあるしね。
「今度そういう女子流行りの店、とかそういうの教えてくれたら嬉しいなぁ、時間あったらでいいから、さ」
橘さんはすこし間隔を開けて
「…………あ〜」
と歯切れ悪くなり、
「ごめんそれは無理かなぁ」
「……え?」
「そういうところに男性と一緒に行ってるってまだバレたくないし、ただでさえ白い目で見られるしね。それに1ヶ月だけの関係のためにそこまでリスク負いたくない、っていうか。どうせなかったことになるから、ごめんね。家では普通にするから、さ」
じゃね、と言いそのまま部屋に。
後に残されのは俺1人。
「………………え?」
女の子難しすぎないか?
――――――――――――――――――――――――――――――――
「【女心と秋の空】とはよく言うものですよ?キョウ様」
「…………」
「ちなみに、この言葉は江戸時代に小林一茶が詠んだ句で、【男心と秋の空】の対比で江戸時代当時は圧倒的にこちらの方が詠まれていたそうですよ?まぁ今春なんですけどね」
「…………」
「そんな落ち込まないでください。可愛い可愛い私が慰めてるんですから」
「…………」
「おっぱい揉みます?」
「…………」
「ダメだおっぱい聖人のキョウ様が反応しない。これは重症ですねぇ。いつもならこれですぐ動くのに」
どうしましょう、と頭を抱える花咲凛さん。
そうだ、と名案を思いついたかのように手をぽん、と叩くと
「……おっぱい…………飲みます?」
衝撃的な提案をしてきた。
「…………のむ」
「あ、生き返った」
おぉとぱちぱちと花咲凛さんが手を叩く。
「ってなんだよおっぱい飲む?って落ち込んでたのに思わずびっくりして正気に戻ったよ」
「それは良かったです」
「……でも俺何がダメだったんだろ。そんなおかしなこと言ったつもりは無いんだけど」
俺としてはただ会話の流れでもう少し仲良くなれたら、ってだけだったんだけど。
それまで仲良く話していたから行けるかな、と思ってたんだけど。
「別に特段おかしな流れではなかったと思いますよ?というか普通の女性なら行くって言うところだと思いますし」
「でも断られたんだけどね」
前の世界ならいざ知らず、男が少ない今の社会で断られるなんて、あんまり思ってなかった。どうやらいつの間にか天狗になってたらしい。
ううぬぼれてたわぁ、あぁ恥ずかし。
「まぁ全員が全員そうでは無いですからね。それにこれはあくまで一般的な話です」
「…………あぁ」
「そうです、彼女たちは普通ではないので。少し個性が強く一癖も二癖もある方達ですのでね」
「そう簡単にはいかない、ってこと?」
「そうです。それに1の成功は100の失敗から、とか言うじゃないですか。興味無いって言われてたのが、拒否された、これは大きな進歩ですよ。それにこれは私の感ですが、彼女にも何かある気がします」
「…………なにか?」
「はい」
自信満々に頷くかざりさん。
彼女がそう言うってことはそうなんだろう。
「あ、そういえば」
「ん?」
「橘様で思い出しましたけど、明日は学校に行く日ですから」
…………学校?
「え?なんで?まだ3月だよ?休みだよ?」
何言ってるんですか、とジト目の彼女。
あれ?何か言われたっけ?
「……前に言ったじゃないですか。転校の手続きをしに行きますよーって」
「…………あぁ?」
やばい全く覚えてない。
いつだろ。
「キョウ様がお見合いで大爆死したときですね」
それ俺がショックで落ち込んでる時じゃない?
そんな時に未来の話されてもね?
「まぁこんなこともあろうかと、必要書類は準備してありますからご安心ください。なので明日は朝から学校に行くことになってます」
「なるほど?」
「キョウ様も落ち着かれたようですし、もう寝てください健康のために。…………私も眠いので今日はお暇させていただきますね」
おやすみなさいと言って、部屋の電気を消し、花咲凛さんはそのまま部屋へ。
「…………え?」
おっぱいは?
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