第16話 「予期せぬ出会い」


「うお、広っ」


 俺と花咲凜さんは早速新しい学校へと来ていた。

 4階建ての校舎で、外壁とかもとても綺麗。

 中庭とかも十分整備されているし、人工芝のグラウンドなんて初めて見た。


「確かに前の学校よりも全然広いですねぇ」


 前の高校はけっこうがたが来ていて、所々軋んだりもしていた。

 それに前世の高校も、普通の学校だったから、こんな新しい目の学校は始めてだ。


 生憎というか幸いにというべきか今は春休み期間中のためか、校内に人はほとんど居ない。


「ねぇここまで来てなんだけど、さ」


「はいどうされました?」


 唐突に不安なことが出来た。

 

「これ、もし俺が許嫁投票で許嫁解消になったらどうするの? 元の学校に戻るの?」


 振られて直ぐに転校。

 なんなら三月末で結果が出るから、登校すらせずに転校、とか有り得るくない?


「あーそれは大丈夫です。仮に万が一、千が一、そうなったとしても転校するようなことはありませんので。ただクラスとかの編成というか、そういうのは考えることにはなりますけど」


「あ〜じゃあ今日来たことは無駄にはならないのか」


「ええ、大丈夫です」


「ならひとまずは良かったかな」


「…………トンボ帰りしたらそれはそれで面白いですけどね?」


「やだよ引越しとかめんどくさいし」


「確かにそれはそうですねぇ…………」


 まぁ俺らほとんど荷物なんてないからすぐ終わるんだけどね。

でもそれはそれとしてやっぱめんどくさい。


「……とりあえず来客口まで着いたけど、どうしたらいいんんだ?」


「確か出迎えの方がいらっしゃる、と。とりあえずは事務の方に言ってきますね」


花咲凜さんはそのまま来客口の横の事務へ。

一言二言話して戻ってくる。


「教員の方が、こちらへすぐ来られるそうですよ。ちょっと待ましょうか」


 そのまま花咲凜さんと雑談をすること数分。

 教員の方はほどなくしてやってきた。

 

 廊下の奥から白衣を来た女性が現れる。

 長い髪をたなびかせ、姿勢よくこちらに向かってくる。


「…………なぁ花咲凜さん」


「…………なんですかキョウ様」


 俺と花咲凜さんは多分今全く同じことを思ってると思う。


 だって花咲凜さんの顔が呆然としてるし。

 絶対これは予想外の顔だね。


「…………なんか見た覚えあるんだよなぁ」


 後ろ姿しか見てないけど、見覚えがある気がする。

こないだ見たのは横顔だったかな?


「奇遇ですね、私も見た気がします。ちょうど一昨日くらいに、ええ」


「…………だよねぇ」


 こんな会話をしている間にも、着々とヒールの音は近づいてきてる。

 花柄のロングスカートに白衣が絶妙に似合っている。

 身長も高く、モデル体型みたいなやつ。


「綺麗な方ですねぇ」


「そうねぇ」


「…………」


 つねられた。

 痛い。


 どうやら回答ミスったらしい。


「すみません、お待たせしてしまいましたかね?」


 柔らかい笑顔で、こちらに微笑んでくれる。

 The、大人って感じ。

 まあそれを言ったら秋月さんもなんだけど。


「いえ、こちらこそ少し早めに来てしまい申し訳ないです」


「ご挨拶が遅れました、私こちらの高校で保険医をしております白石彩香と申します」


「私恭弥様のメイドをしております、佐藤花咲凜と申します。よろしくお願いいたします」


「っ……転入させて頂く武田恭弥です。よろしくお願いします」


花咲凜さんに習って俺も挨拶を返す。


「そう、あなたが…………」


 良かった花咲凜さんと一緒に来て。

 俺一人なら動揺して気まずいことになってた。


「あなたが転校してくる子ね。高校生になってから転校なんて大変よね?大丈夫?元の学校に戻りたいとかはない?」


 ……うーん?

 なんだろう。

 探りを入れられている、のかな?

 いやでも質問としては保健医として聞いてるとも言えるし…………うーん。

 ここは一旦無難に返しとくか。


「まだ学校も始まってないし、なんとも。……まぁ漠然とした不安はありますけれどね。新しい学校に馴染めるかなぁ、とか?」


「そう?ならまたなにかあったら言ってね?なんでも大丈夫だから。そういうのも聞くのも保健医の仕事だからね?」


 にこりと人好きのする笑みを浮かべる白石先生。

 こないだの秋月さんとの件が無ければ、絆されてそうだな。秋月さんの件があったからこそ、何かあるのでは、思ってしまう。

 二人の関係は深い仲に見えた。

 俺に、隔意を抱いていてもおかしくはない。


  

「ってあぁごめんなさい、いつまでも外にいるのも肌寒いのわよね、中へどうぞ、武田君もこちらへ」


「……ありがとうございます」


「とりあえずは一旦職員室かしら?……色々提出書類とかもあるんでしょう?」


 あるんだろうか?

 ほとんどそう言うのは、花咲凛さんに任せてるからなぁ。


「……はは」


 まぁこうなるよね。

 作り笑いでごまかす感じに。

 

「はい、一式持ってきております」


「それでは、書類だけ出したら、校長室に向かいましょうか。うちは男子生徒も他の学校よりは在籍しております。本校での注意点等をお伝えすることになりますので」


 その言葉の通り、職員室での用事はすぐに終わり、その隣にある校長室へ。

 中にいたのは、小綺麗にした女性。

 30代後半くらいにも見える。


「武田さんですね?お待ちしておりましたよ。本校にご転入ありがとうございます……」


 そこからは学校の注意事項等、通り一辺倒のことを伝えられる。

 まあざっくりと言えば、

 ・規則正しく、学校のルールを守りましょう。

 ・ここは高校と大学がエスカレーター式です。

 ・ハーレム制度のことを知っていますが、だからといって特別扱いはしません。


 くらいかな?


「それでは新学期にお会いできるのを楽しみにしてますね?」


校長先生とはそこで別れ、外に出ると白石先生が待っていてくれる。


「それじゃ学校の案内をしちゃうわね〜」


 白石先生に連れられるまま、大方の施設を見せてもらう。

 図書室、化学室、美術室、教室などが最近建て替えられたのか、設備がかなり新しい。


「結構綺麗でしょ?うちの学校5年前とかに建て替えられたのよね〜、まぁ私はまだ教師になる前だけど」


「そうなんですねだからこんなにきれいなんですね……。

 あれ?隣のあの施設は?」


「ああ、あれは白百合学園の大学ね〜。うちは中高大と一貫なのよ、実は私も通ってたりしたのよ」


「ここのご出身なんですね」


「だからここの古い時も知ってるのよ、学生だったからね〜、あの時はほんとに古くて嫌になっちゃったわ、最後の1年で新しい校舎になったから良かったけど大学生最後なんてあまり行かないから無用の長物っちゃ長物よね」


そうなのか、大学4年生になるとあんま行かなくなるのか、結局前世でも大学受験のための勉強はしたけど、大学は行けなかったからなぁ

 キャンパスライフも送ってみたいんだけど。



「……ということは宝生さんが通っているところですかね」


「あ〜そうそう、そうだったわね武田君はお知り合いでしたね、、で」


 にこりと白石先生が微笑む。


 白石先生も俺がハーレム制度に参加していることを知ってる。いや学校だから普通か。

 でもあの家に秋月さんかま帰ったのを知っている。

 なればこそ何を思っている?


 フラッシュバックするキスシーン。

 この白石先生の笑顔の意味が分からない。


 俺だったら恋人がそんなことになっていたら間違いなく相手に大していい思いはしない。


 ここでそのことについて言及してくるのか?

 俺が心のうちで、戦々恐々としていると、


「……宝生さんは大学の方でも学生自治会にも参加されていて、有名なのよ?まぁその分やっかみみたいなことも言われてるみたいだけどね〜。本人は高校の頃から知っているけどとても良い子だから。…………余計なお節介かもしれないけど、武田君も彼女自身を見てあげて?」


 彼女自身、か。

 今のところはかなり厳しい人って感じだけどね。


「どうしてあなたがそこまで?」


「なんというか、不器用な子だから。勘違いも生んでしまいがちだから。元教え子、ってほどでも無いけど関わりはあったからあの子には幸せになって欲しいのよ、過去に色々あってよりこじれちゃったみたいだけど」


 拗れた、それは婚約破棄のことかな?


「武田君には期待してるわ?」


「期待…………ですか?」


「そ、期待。生徒としてはもちろん、ハーレムの方も、ね?」


「それはどう言う――」


「――あ、ちょうどよく宝生ちゃんも来たわね、そちらにいきましょ?」


 俺が質問をするのにかぶせるのような言葉。

 これ以上は今は言うつもりはないってことかな?


 でも、期待?

 なんのことだ?

 失敗するのを期待、って?

 でもそこまで腹黒くは無さそう。


 試しに花咲凛さんを見ても、首を振っている。

 分からないらしい。


 うーん、ひとまずは宝生さん、か。


それにしても、この人が、秋月さんの恋人…………。

同僚と恋人。

職場恋愛かぁ。


…………どうしよう。

 


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