第10話 「変態宣言」


 「どうしよ……」


 無駄に広い自室の天蓋付きベッドで、さっきの出来事を思いやる。

 朝は新居の広さに戸惑いながら、お昼は許嫁投票とか言う訳の分からないイベントで頭を抱えさせられた。

 しかも第1位イベントって言ったぞ第1って。


 そして椎名さんは場をかき回すだけかき回して、颯爽と消え去っていった。


 

 ふざけんなくそボケ。



 残された俺らは1度考えを整理するために、それぞれ自室に戻っていく。

 まぁ今後共同生活を送る上でのこともあるから3時には戻るんだけどね。


 「にしても、許嫁投票かぁ」


 まあつまりあれは今後この許嫁生活を送る上で多数決をとるということになる訳だ。


 昨今の社会情勢を考えると、確かに普通の女性なら男性と結婚できるチャンスを逃すことは無いだろう。

 そうなると仮に3人だとしたら、たとえ男性が反対したとしても、この生活は続けられることになる。


 普通に女性と結婚したくない男性の方が多い事情を考慮し、男性票を多くしたんだろう。

 そうしたら優遇してることも証明できるからな。まぁ意味がないっちゃ意味が無いんだけど。


 だから普通にいけば、許嫁投票はすんなり通るわけだ。

 3:2とかで投票になるわけ。


 だけど今回は逆。

 治療費の関係で、俺は結婚を推進したい派閥なわけで。 逆に女性陣はなぜかこの一夫多妻制度に対して、反対の立場のわけで。


 つまりこのままだと2:3でこの制度否決されて即エンド。

 そうなったら、姉さんの治療費云々の件がどうなるのかが怪しくなる。

 即打ち切りにはならないだろうけど、最悪のケースも考えられる。

 

「ただ姉さんの治療費のためにはこの制度は継続しないといけない」


 そこは今も変わってない。

 となると――


「――誰かひとりにはこの関係を継続したい、と投票してもらわなきゃ行けないわけだ、そうしたら投票数3:2で上回れる、からひとまずは継続できる」


 つまり1人にさえ投票してもらえればいい。

 3分の1。


 うんイージーゲーム。

 うんうん。


 普通なら。

 

 …………え?


 あれ?一旦考えてみよう。

 

 宝生さんは俺の事なんて言ってた。

 えーっと確かお見合いの時宝生さんは、


 【あなたもどうせ婚約破棄するんでしょ?するなら早くしてね?長くなればなるほど時間の無駄だから】


 ぐふっ。

 思い出しても少しダメージが。

 

 苦行だけど思い出すしかない。

 秋月さんは確か。

 

 【私女の子の方が好きなのよね、だからあなたとは最低限しか関わらないから】


 うんなるほどね。

 女の子が好き、と。

 つまり男性は恋愛対象には入ってきていない、と。


 そんで橘さんが


 【どうでもいいなぁ、だる】


 これに関しては何もわからない。

 俺のことが嫌い、というわけではない、のかな?


 いやでもある意味一番難しいかもしれない。

 

 よく言うあれだよな。

 好きの反対は、嫌いじゃなくて無関心、ってやつ。


 はてさてみんな難しい、かぁ。

 でもあれだな。こう見ると実は意外と……


 「うーん」


 「……どうしました?難しい顔されて」

 

 「うぉ」

 

 横から不意に花咲凛さんが顔を出していた。


 「相当お悩みでしたね?さっきの事ですか?」


 「うんまあね」


 どうやら顔にも出てたらしい。


 「名案でも浮かびました?許嫁投票において勝つ方法、というやつですかね」


 「いや?」


 「あら自信満々に否定されますね?その割にはなにかありそうですけど」


 眼をすこし細め、こちらの真意を窺ってくる。


 「まぁ打つ手なし、ってわけじゃないかな?」


 「あらそれはざんn……よかったです」


 「今残念って言おうとしなかった?」

 

 「してないですよ?打ちのめされたキョウ様を甘やかすのもいいな、なんて全くこれっぽっちも」


 「すごい自白するじゃん」


 おれそんなに甘えた姿なんて見せてないけどな?


 「……いえいえ何のことだか。ただ甘えたくなったらいってくださいね」


 「甘えるかどうかは別としても、まぁ頼ることはあるから」


 「さて、じゃあひとまずは下に行って話し合いをしにいくか、そろそろ時間だしね」



 時計を見れば、もう14時50分だし。


  

 「方針だけ聞いても?」


 「まずは相手のことを何も知らないからね。この間のお見合いでもあれだったし。だからまずはちゃんとコミュニケーションを図らないといけないな、って」


 何も知らないままだろお互いに偏見を持ったまんまになっちゃうからね。

 彼女たちが俺を世間の男、と一緒だと思ってしまうように。



 俺が彼女たちを『悪役令嬢』なり『腹黒同級生』なり『ドSレズ教師』だとおもって見てしまったように。



 だから俺はまず伝えなきゃいけない。


 一階におり、リビングへ。

 俺が入ったとに少しして、宝生さんが来て、橘さん、最後に秋月さんが来る。


 「あら失礼、私が最後かしら?ちょっと電話してたから、ごめんなさい」


 「いえ時間に遅れたわけではないので、それで今後の、とは言っても1月だけですが」


 悲報。宝生さんはもう1月だけって決めているんですけどうしましょう。


 「その前に一ついいい?」


 この流れはあまりに良くない。

 全員の眼が一斉にこちらを向く。

 懐疑的な視線、明らかに敵対心を宿した目、興味なさげな目線。


 「……なんでしょう?」


 宝生さんが代表して聞いてくる。


 「いやこれから共同生活を行っていくんだし、もう少しお互いの自己紹介をしたほうが良くないかな、って」


 「別にそこまで必要性を感じませんが、こないだもしたし」


 「まぁまぁそう言わずに。1月は最低でもずっと一緒なんだから居心地いい方がいいじゃん?」


 「……」

 

 「あと多分みんなしっていると思うけど、先に一つだけ言っておくことがある」


 「「「……?」」」


 本当はこんな宣言するの恥ずかしいし、いやなんだけどなぁ。

 でも勘違いされてるかもしれないし、まぁ自己開示は必要だから。


 一呼吸置き、そして堂々と宣言する。


 「俺は女の子が好き!!!!大好きだ!!!!!!」

 

 

 ……言ってから思ったけどこれじゃただの変態じゃね??



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


週末ですね!

ラスト1日がんばりましょーーー!!!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る