第9話  「許嫁投票」

 「改めまして、皆さま久しぶり~……って程でもないか、最後に話したの4日前だもんね~」


 椎名さんは笑顔で、そのままダイニングのチェアに座る。

 躊躇ないなこの人。


 「……あれ?執事さんいるじゃん!この間はいなかったのに!」


 椎名さんと黒川さんは知り合いなのかな?


 「この間も近くで控えておりましたよ。ただあの場に使用人は入れなかったので、椎名様にはお会いしなかっただけで」


 あれ?なんか…………


 「そっかそっかぁ、別に今日もいなくてもよかったんじゃなーい?」


 「お嬢様の生活を手助けするのは使用人として当然。そしてその場にわたくしがいるのも当然ですよ。それこそあなたこそこちらで何を?」


 「おやお嬢様から聞いてないのかい?執事としての信用ないねぇ」


 黒川さんのこめかみがぴくとなった。

 というかやっぱなんか…………

 

 「私はあれだよ。このを送るうえでの注意点と今後についての予定とかの共有しに来たんだよ?」


 「なるほどなるほど。それなら誰よりも早く来て、皆様を待っているのが筋だとと思いますけどね?」


 そして黒川さんはかるくぽん、と一つ手をたたき。


「流石は国のお役人様。重役出勤はお手の物、ということですか……公務員というのは緩くて大変働きやすそうで何よりですね」


 「いやいややっぱこれは手厳しい、申し訳ないねぇ。私たちもあまり暇じゃなくて……本当は1番乗りで来たかったのだけどねぇ、これもどこかの大企業たちがいろいろ忙しくさせてくれるからかなぁ?」


 どこかの大企業……あぁ宝生グループのことを言ってるわけか。

 そういえば何処かの機関と企業の癒着がなんちゃらかんちゃらみたいな話をネットニュースで見た気がするな。そのことか?


 「何を御冗談を。そんなの炉端の石ころ同然でしょう。本質はすべてに対応が遅く、有効な手立てがうてない政府の無能さ加減では?それに最近では――」


 「――黒川」


 「……失礼いたしました、まぁちゃんと仕事していただけれれば十分ですということです」


 恭しく一礼。

 でもすごいな、たぶん宝生さんが止めなかったら、もっと出てたぞ。

 これ多分宝生グループと国は結構バチバチってことかな?

 

 「この間の事のようにならないようお願いしますね?」


 あ、そっちか。

 NAZ機関と因縁がある感じだ。


 「分かっているよ、ただまぁ政府が無能なのは否定しないけど、末端は末端で忙しい、ということも留意いただきたいね」


 部屋の空気が微妙に悪い。

 話し合いに参加してない、黒川さんと椎名さん以外が、気まずい顔をしている。


 あ、いやそんなことないな。

 秋月さんはマジでめんどくさそうにしてるし、橘さんは嫌そうな顔を椎名さんに向けている。

 花咲凛さんは台所でコーヒー片手に一息。


 よく一息付けつけるね?

 てか君メイドじゃなかった?そういう立ち振る舞いでいいの?


 ……俺ももらっちゃおうかな?



 「さて、それではみなさんお揃いの様だし、本題にいこうかな?いいかな?」



 そう言って、椎名さんは宝生さんと黒川さんをまず見る。

 「お前らのせいで話し始めるのが遅れたんだぞ?」と暗に、というか視線で語っている。

 それに対して黒川さんも「お前のせいだろ?」とばかりに睨み返す。


 もう本当に犬猿の仲じゃん。

 これこのままだとずっと続きそうだな。

 はぁしょうがない。


 「早く始めてもらえると……」


 「承知いたしました。恭弥様」


 やっと話の本題に入れる。


 「まずは皆さまが、共同生活を無事始めていただけましたことを心よりお慶び申し上げます」


 優雅に一礼。

 最初からそれでやってほしい、変にギスらせないでさ。


「さて、それでは今後についてです。まずは皆さまにはここを拠点に生活をしていただきます」


 そこまではまぁわかる。

 

 「そのうえで、みなさんにはまず1か月という期間を設けたいと思います。1として、その間にお互いが、結婚相手、許嫁相手として認められるのか、というのを判別していただきたく思います」


 「……判別?……それはこの間のお見合いじゃないのかしら?」


 「いえ秋月さん。前回はあくまで顔合わせ、と生理的に嫌悪感を抱くレベルかどうか、ということでした。生理的に嫌悪感を覚えるレベルでは内面を人は見ようと思いませんからね」


 「前の時とかにはそんなものあった覚えはないのだけど?」


 前の時、ああ婚約破棄の時の許嫁制度かな?


 「政府もよりよいものにしよう、と努力しているということで」


 「そう、珍しいもこともあるのね、槍でも振るのかしら?」


 おぉ宝生さんもなかなかに切れ味鋭いね。

 ただ流石に椎名さんも宝生さんの言には、顔を苦くする。


 「…………それだけ政府もこの政策には本気、ということです」


 「そう言うことにしておきましょうか」


 にこり、と微笑む宝生さん。

 悪役令嬢と呼ばれる理由の一旦を垣間見た気がする。悪役なのかはわからないけど。

 でもその綺麗さで、その笑顔はそりゃこわいよ。

 

 「話を戻しますね?ですのでこの1月で皆さん自身でこの許嫁と結婚していけるか見極めていっていただけたらと思います。ちょうど今が2月末ですので、3月末までにお互いを知ってもらいます。まぁ平たく言ってしまえば、恋愛関係としてこの人を恋愛候補として見れるかどうか、ということですね」


 「別にそれなら今からでも応えられるわよ?」


 秋月さんは皮肉気に笑うが、椎名さんは真顔のまま取り合わない。今は仕事モードということかな。

 秋月さんは拍子抜けしたような顔。


 「……あなたも知っていますよね?なぜ我々がこういう恋愛みたいな非合理的なことをを強く意識させることをするのか、その理由を」


 「男児の出生率、でしょ?」


 「そうです、それにあなた以外の人のこともありますし。この件に例外はありません」


 秋月さんもそれで渋々と言った感じで頷く。


 「それぞれが続けていけるか、婚約相手だけじゃありませんよ、同じ奥さんとしてもやっていけるのか、というところで総合的に判断してください」


 辞めたきゃ辞められる、と。そう言うことか。


「それで見極め、と言ってどうやってやるのですか?」


 そうその方法だ。それが大事。

 なんてたってこれには俺と姉さんの人生がかかっている。

 成功させなきゃいけないんだから。



 「ああ。簡単ですよ、投票です。」


 「と、投票?」


 思わず聞き返してしまった?

 あれ?いきなり雲行き怪しくなってきた。


 「そうです、全員で投票していただきます。3月31日です。それまでにお互いの内面を知って判断してくださいね。お互いに生活とかしていけば自ずとそれぞれの性格や趣向その他もろもろ分かると思いますので、題して!」


 「…………題して?」


 「許嫁投票、です!」


 「名前……」


 椎名さん以外のみんなが渋い顔をする。

 控えめに言って名前のセンスが…………。


「これちなみに投票4人で割れた場合はどうするの?半々になるけど……まぁないだろうけど」


 秋月さんの最後の一言は余計だよ!!

 でもそれは俺もとても気になる。

 非常に。


 「ああ失礼いたしました、こちら男性は2票と考えますので偶数にはなりえません」


 なるほどね。


 「まぁ男性比重の高い時代だし、しょうがない、といえばしょうがないかしら。わたしたち女性だし、ね」


 皮肉気に笑う。

 秋月さんが渋々の納得をすれば、宝生さんも無言でうなずき、橘さんもうん、と頷く。


 「まぁそんな重いものと、捉えなくて大丈夫ですよ。他の本プログラムをしている方々も同じことをしていますが、この許嫁投票で反対多数で終了になったケースはほとんどありませんから。気軽にお互いを知る1月、として形式的に思っていただいて大丈夫ですよ」


 椎名さんは笑顔でそう言い切る。

 ええ他はそうかもしれませんね、そう他は!


 「分かったわ」


 「分かりました」


 「はい」


 女性陣も笑顔でうなずく。



「恭弥様もよろしいですか?」


 これもう否定出来るやつじゃないやん。

 だから渋々。

 本当に渋々頷いた。

 

「…………はい」


 頷いてしまった。

 これ俺多分今、顔めっちゃひきつってる。

 

「それではよろしくお願いします!じゃあ許嫁投票スタート!これを超えられたらご褒美もあるので、気軽にお楽しみを~!」



 地獄のイベントが始まった。



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今日は推しの子の更新日です。

めむちょ推しです。

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