第8話 「来客と彼女たちの良いトコロ」



 俺と花咲凛さんがそれぞれ、荷物を片付けに部屋に戻る……まぁ部屋に置くものなんて二人ともたかが知れてるから一瞬で終わった訳だけどさ。

 というか花咲凛さんと、俺の部屋はどうやらつながっているらしい。


 メイドとしていつ呼び出されてもいいように、ってこと見たい。

 前の家は物理的に隣しか無かった訳だけど、今回も前とそこまで変わらないみたいだ。

 

 片付けもすんで、やることも一旦ないし、地下室でもこそっと、様子だけ見に行こう、と二人で下へ。


 ちょうど運悪くというか、下に降りたタイミングで玄関の呼び鈴が鳴る。


 「誰か来たね」


 「そうですね、一旦リビングに戻ります?地下室も気になりますけど」


 「……そうだな」


 しぶしぶ俺らはリビングへ。

 そして俺らと入れ違いに、執事の黒川さんが玄関に。


「そういえばこれ花咲凛さんは行かなくていいいの?」


「ええ、私は恭弥様のメイドですから」



 ……とか言ってるけど、絶対めんどくさいだけだろ。

 2人で暮らしてた時、たまに俺に荷物取りに行かせてたもんね。

 このメイド実は結構めんどくさがり屋である、仕事はすごいんだけど。


「お邪魔しまーす」


 玄関の方から、聞いたことのある声が聞こえてくる。


「…………椎名、さん、だよな?」


 俺をこの生活へと導いた元凶。

いや姉さんを助けてくれた人、ともいえる


「あー、恭弥様。これはこれはいつも政府にご協力いただき誠にありがとうございます。今後もご協力をぜひよろしくお願いいたします。年々、協力いただいている方は減ってきているので……」


 そうらしい。

 そもそも男性の性欲というのも少なくなっているのは周知の事実。それに、女性に対する興味の薄れ、いや最近ではそれ以上もあるらしい。

 社会は深刻だな…………


椎名さんはそのまま花咲凛さんにも向き直り、形式ばった笑顔を向けてくる。


「代わりは無い?」


「はい、変わりはございませんよ」


 花咲凛さんも形式的に答える。

 

 前々から定期的に花咲凛さんは俺との生活などを政府に報告している。

 その辺はこの制度を受け入れるにしたがって、最初から聞いていた。


「そうそれは何よりね。今後もそのまま続けて?恭弥様も何かございましたら、佐藤にお申し付けくださいね?」


 前半は花咲凛さんに。

 後半は俺に向けての言葉。


 俺の時だけ自然に笑顔を浮かべてた。

 前世の時も思ってたけど、やっぱ女性ってこえぇぇ。

 

 「それでは、恭弥様中に入りましょう。今後のお話もありますし。多分中で奥方様たちが首を長くしてお待ちですよ?」

 

 「奥方様って、まだ許嫁候補、ですけどね?」


 「ふふふ何言ってるんですか。いずれなるんですから全然間違いじゃないですよ」


 本当になれるかどうかは今のところかなり怪しいよりだけどね?

 なんなら厳しいよりではあるけれどね?


 ただ俺のそんな不安が出てたのか、椎名さんが落ち着かせる様にゆっくちとしたトーンで話し始める。


 「恭弥様。最初は皆さま緊張しているものですよ。それで固い態度になってしまったり、少し攻撃的な態度になってしまったり、言いたいことを、アピールしたいことを言えなくなってしまうこともありますから。ただこういうケースはだんだんと、打ち解けていくものです。数多の試練、課題を共同して進めていくことによって。ですから安心していただいて大丈夫ですよー、でももしそれでもダメなときは、それはそれで構いませんから。ですからご自分の気持ちと精一杯向き合って、今後の結論を出してください。皆さん少し癖はありますけれど……」


 そこで言葉を止める椎名さん。

 うん?なんだ?

 

 というか、癖がすこし?


 「うん!癖も多少なりともありますが大丈夫です!良いトコロもたくさんございますから」


 言い直したよこの人。

 少しはちょっと無理があると思ったんだろうなぁ?

  

 「そうですか、ちょっと頑張ってみますね」


 「はい、ぜひ皆様の幸せを祈っております!そしてそれを増やしていきましょう!」


 自分の思ったようにことが進んだからか、椎名さんはにこりと笑う。


 「では最後に一つだけお聞かせいただいても?」


 「ええ、というかもっと柔らかくて大丈夫ですよ?恭弥様は貴重な男性なんですから」


 「いえ、年上の女性にそんな軽い言葉なんて」


 「あら?それは私のことをと年増って言いましたか?アラサーのばばあ、と?」


 誰もそこまで何も言ってないけど?

 

 「年上ってしか言ってないですよ?」


 「恭弥様と同い年かもしれないじゃないですか?」


 「え……それはちょっとk――」


 椎名さんの視線の圧が強くなった気がする。

 言葉選びは間違えられないな。


 「――きれいすぎますよ。同年代には出せない色気が出てますから」


 一気に圧が緩まり露骨に笑顔になる。

 ふぅ危ない危ない、こなれてる感ありますよ?とか言いそうだったもんなうん。

 というかこの会話どこかで……


 「それではお姉さんが応えちゃおうかな?何を聞きたいのー??」


 なんか一気に距離感詰めてきたぞ。

 しかし身体を近づけてくるのは花咲凛さんが無言で身体を滑り込ましてくる。


 「そ、それで?」


 「はい、最後の勇気をもらう意味で、彼女たちの良いトコロ、一つだけ教えてください。それで自分もより頑張れると思うんですよ」


 「……うーんそっかぁ。そう言うのは自分でみつけてほしいけどなぁ。でも頑張る、かぁ。君の事情もあるからなぁ……」


 うーんと軽く悩ませる椎名さん。


 「お願いできないですか……椎名さん」


 「まぁそうだね最初から躓いてもあれだし。じゃあ一つだけ、ね?」


 片目をつぶってウインクしてくる椎名さん。


 よかった教えてくれて。

 教えても羅ったものをベースに、会話をしていこう。


 「彼女たちのいい所……それはね……」


 「…………っ」


 椎名さんはために溜めて。

 そして


 「圧倒的ビジュアル!」


 「…………うぇ?」


 予想していたものと違いすぎて思わず変な声が出た。



 「だから圧倒的顔よ顔。後身体!女性の私から見てもいい身体してるからね?私の美人さも霞む、、、は言い過ぎかもだけど同じくらいの。だから幸せものだよ君は。もう目の保養のためにもがんばりな!」


 そうやって椎名さんは満面の笑み。

どんだけ自分に自信があるんだこの人は。


 「一体何の話をしているんですか?椎名さん」


 見ると玄関から顔を出す宝生さんの姿。


 「いやーなにも?あなた達がどんな人たちなんだろって彼が言ってたから教えてただけだよー」


 「その割には顔、とか何とか言ってませんでした?」


 宝生さんが凍てつくような目でこちらを見てくる。


 いやそんな目で俺を見られましても、ねぇ。

 俺何も言ってないからね。。


 「みんな美人だよって話してただけだよー」


 「そうですか」


 宝生さんの圧を柳に木とばかりに受け流す椎名さん。

 ほんとぶれないなこの人。


 「でも待たせちゃったねー、じゃ中に入って今後の説明するね~」


 椎名さんは先に中へ。

 そして場に残されたのは、俺と花咲凛さんと宝生さん。


 そして宝生さんは目も合わさず、一言呟く。


 「……品位とか気にしたらいかがです?」


 そのまま中へ。

 大して俺は一瞬呆然とし、

 

 「え、これ俺のせい?」


 またリビングに入るのがまた億劫になった。


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