第1話 「ハーレム法」

1年前。

 

「…………これしか美桜ねえを助けてやれる方法はないか…………」


 手元の通帳を確認しながら独り愚痴る。

でもそんなことを言ってても始まらないから、だから決断した。

 

 寝たきりの美桜ねぇの病気の治療には莫大な治療費がかかっている。

 このままどんなにアルバイトとか増やしたとしても、破格のバイトをしたとしても、美桜ねぇに残された時間までには到底治療費を作れない、なんなら維持さえも貯金を切り崩してる訳で。

 ……そう、普通にこのままでいれば。

 普通なら絶望するしかない状況。

 

 でも世界に数少ない、男の俺だからこそ、今の状況を何とかできる。

 この時ばかりは本当に男に生まれてよかった。男だというだけで、この世界でも色々あったけどそれはそれ、この時ばかりは感謝するしかない。

 前世では男に生まれてよかったなんて思ったこと無かったんだけどな、ははは。


 男だからじいちゃんの言う通り、美桜ねぇを、家族をちゃんと助けてやれる。

 ……でもまぁ。

 

「こんな政府の制度を実際に受け入れたらじいちゃんとばあちゃんにはしこたま怒られるんだろうなぁ……」


 もう死んでるから実際はなんて言うかはわかんないけどさ!

 でも義理とはいえ、あんたたちの孫で、俺の姉さんのためだから、許してくれるよな?

 てか許してくれなきゃ困る!あんなに元気だったのにぽっくり逝ってんじゃねーよ、先に死んだ方が悪いよなこれ。

 もっと長生きしてくれよ!

 

 「嘆いてもしょうがないか。それはそれ、これはこれ、とかじいちゃんたちにはいわれそうだけど、でもこれが俺の選択だから」

 

 もう俺は決めたから。

 これが俺が美桜ねぇを助けるため唯一思いつく方法。

 

 「それでは、ハーレムを作!」


 ハーレムを作るんじゃない、作られる。

 「何を馬鹿なことを」、とちょっと昔の人、それこそ1990年代、2000年代に生まれた人達、は言うだろう。

 それこそじいちゃんの世代は今とは違い男女比が1対1だったからなぁ。


 でもそれも今では別。

 2100年の今、男女比の割合は圧倒的に変わり、

1:5。

 それも高齢者なども含めての数字だから実際問題、若者の比率で言えば差はもっとあるっぽい。

 10倍差以上は肌感あるんじゃないかな?


 クラスに30人いたら男子が4人いたらいい方くらい。

 大体は3人くらいかな?

 自分しかいないこともある。


 でもだからと言って、国が何も対策を打たなかったわけじゃない。

 精子バンクなどの制度を作り上げ、活用し、女性が結婚しなくても子供を持てるようにして、子育てのための支援策など、人口を減らさずに増やすような政策を実施した。

 

 しかし、上手くいかなかった。

 何故かは分からないが、人工授精だと男児が産まれる確率は多くて50分の1。裏を返せば産まれるのはほとんどが女性。

 

 学説では、男性が女性に射精したときに出る「zetta-i-umare-ru」という酵素が自慰行為等で出る精子ではほとんど出ないらしい。

 

 そこで国が作り出した起死回生の法律、「一夫多妻法」

 通称【ハーレム法】

 減りすぎた人口を増やすために、1人の男に対し、複数の女性が妻となることを認めるもの。


 一見すれば、いい法律のようにも思うが……

 が、政策が施行されてから既に半年が経つが、一向に増えない一夫多妻夫婦。

 制度が進まない理由は、なんてことは無い、ただ単純な話なわけで。


 

 

 「……世間の風当たりが強すぎる、そりゃ増えないよねぇ」


 

 

 親世代の反発。

 そして、現状いる男性も女性と複数結婚したいなんておもっていない人が多い。そもそも女性が得意じゃない男性が多いもんなぁ今の世の中。

 だから男性同士で、みたいなパターンも増えてるらしい。

 

 ……まぁだから、俺がハーレム婚することによって、お金が手に入って、美桜ねぇの治療費にあてられるんだけどね?

 

 治療費を得るために、なんとしても俺は今日のお見合いを成功させなきゃいけないわけで。


 言い方は悪いが、一種の身売りに近い。

 

 たとえ、どんな人が来たって、絶対に婚約しないと……。

 お見合いするだけじゃ、お金はまだ全然足りないから、ね。

 

「…………でも実際に対面するとなると、やっぱり緊張するなぁ」

 

 別に今時の男子みたいに女性が苦手、とかそういうのはそんなない。

 でもやっぱお見合い何て大層な名前付くと、やっぱねぇ?緊張するよね?

 しかも俺まだ16歳だし、普通お見合いなんてしないしね?

 

「……そんな緊張しないでも大丈夫ですよ、キョウ様なら絶対大丈夫ですから」


「……花咲凜さん、そんなこといってもこればっかりは」


 佐藤花咲凜かざりさん。

 俺がこのハーレム制度を応募するにあたって、俺の様々なサポートをしてくれることになった俺専属のメイドの女性。

 ……確か年齢は19とか言ってたかな?

 本当に色々なことを教えてくれた、いろいろ、とね。


「大丈夫ですよ、この1年間、必死にお姉さんのために努力して、その間も様々なことを頑張ってくるあなたを見てきましたから。たとえ今日来る方々が、一癖、二癖も三癖もある方だとしても大丈夫ですよ」


 ……うん?

 一癖二癖はあっても、三癖なんてなかなかきかないけど?

 とっても不安になってきたけど??

 

「花咲凜さん、癖があるっていっちゃってるじゃないですか……」


「癖は……実際ちょっとはありますからね、事前情報とはいっても、さっき来たものですが、それを見てもそこに関しては……事実ですし、今更隠すことでもないですからねぇ、もう会いますからどうしようもできないですし、ふふ」


 「ふふって、そんな無表情で笑われても怖いだけなんですが?」


 「それは失礼しました」


 そう、ぎりぎりまでいろいろな件を加味されたらしく、ハーレムを選ぶのに時間が経っていた。

 だから俺はどんな人なのか、顔すら知らない。


「じゃあ軽く情報だけでも聞いておきますか?それとも先入観なしに?」


「いや、もう癖があるって聞いちゃったし、ちらっと聞こうかな」


 そんな深く聞く時間は残されてないし。


 じゃあちらっとだけ。 


「一人は年上の美人さんです。そして、控えめに言って、サディスティックな高校教師」


 もう肩書から背徳感がすごい。

 控えめにサディステックって、誇張して言ったらドラスティックか?いやちがうな。

 で、でもそれだけか。

 この調子で行けばそんなに……


「一人は同い年の美人さんです。家庭環境が、控え目に言って、難がある訳あり腹黒美少女同級生」

 

 ひ、控えめにいってかぁ。

 な、なにそれ、訳あり腹黒同級生とかパワーワードが過ぎないか?

 

「そして最後に……え……っ」


 ……なんかとても驚いたような声が聞こえた気がしたけど?

 

 「失礼いたしました。最後の一人は、今をときめく花のJD。美人です」


 じゃあもうみんな美人じゃん。

 それは良かった。だからもう追加の情報を出さないで?お願い嫌な予感するから。

 

 だけど俺のお願いは届かなかったらしい。


「えー、その人はお見合いを2回も破断にさせた御令嬢……とのことです」


「…………なんて??」


 もう頭の理解が追いつかない。


「一人はお見合いを3回も破断にさせた御令嬢」

 

 ……わーお。

 もうすっごいんだから。


 もうどこを見ても、何かしらありそうで……涙。

 

「これが政府のマッチングシステムにあなたが最適合となった方です。大丈夫ですあなたなら頑張ってみましょう? きっと大丈夫ですから!何かあったらお話は聞きますしね?」


 俺に最適合した人って癖ある人しかいないの???遠回しに俺嫌味言われてるかのかな?


「…………頼みますよ?」


「最初に会った時のあなたとは思えない言い方ですね?あの頃のあなたはもうほんとうに……」


「それは言わないでくださいよ花咲凜さん」


 俺のネクタイの紐を託しあげ、きちりと締めて、スーツのボタンを締めてくれる。

 

 

 「……ふふ、でしたね」


 「行ってきます」

 

 そうして歩き出そうとして、


 「あぁ、じゃあ最後にさっき伝えなかった情報を……」


 うしろを振り返ると、微笑むような微笑をうかべている。

 

 「三人とも美人じゃないです。とても美人ですよ、期待しててください」


 ぺろりと花咲凛さんは自身の唇に手を当てる。

 その姿はいつものあの姿を思い起こさせる。

 

 「……それは良かったです」


 全く本当に何に期待しろというのか。


 「じゃあ行ってらっしゃいませ、キョウ様の夢をかなえるために頑張ってくださいませ。わたくし花咲凜はいつも通り、こちらでお待ちしておりますから」


 「……はい、行ってきます」

 

 さて鬼が出るか蛇が出るか。

 

 ここから俺のハーレムが始まる!

 そう意気込み勢いよく俺は扉を開けた。

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