第2話 「絶望のお見合い」

 ホテルの控室のドアをあけ、お見合い会場へ。

 今ならどんな人が来てもいける気がする。

 サディスティックな美人女教師に、美人悪役令嬢に、訳あり美人同級生もう全部が全部どんとこい!!

 

 「よろしくお願いします!!」


 勢い良く頭を下げる。

 初手低姿勢から入れば大体の物事は上手くいく。

 これじいちゃんが言ってた。


 

 角度はきっちり60度。


 

 さぁさぁ誰が声をかける。

 事前情報ではみんな一癖も二癖もある。


 だから最初に声をかけてくれた人から、仲良くなっていこう。

 声をかけてくれる=コミュ力少なからずあるだろうから

 

 ……が一向に声をかけてくる相手はいない。

 

 ふむ。

 なるほど。

 これみんなコミュ力きつめか。

 俺も実はコミュ力きつめなんだよね。

 

 あ~、こーれ前途多難です♪


 「……ふふっ」


 と笑い声。

 しかしその声は前ではなく、後ろ。


 「……何やってるんですか、まだ会場には誰もいませんよ?」

 

 「……え?」


 花咲凛さんの声で慌てて前を向けばああ、確かに。

 中にはまだ誰もいない。


 「かなり緊張してるんですね。の時の様じゃないですか、いやあの時よりましですか?」


 花咲凛さんがからかうように微笑む。


 「……とか言って、あの時はなんだかんだ、二人ともだったじゃないですか」


 「下ネタは私専門外なんですが?……まぁこれで緊張も解けたでしょうし、ちゃんとお見合いに集中してくださいね?――では」


 花咲凛さんは優雅に一礼し、部屋の扉を閉める。

 こういう仕草はいかにもメイドらしい。


  

 このお見合いの形は俺が3人を待つ形らしい。

 いや俺が来るのが早すぎたのかな?


 まぁゆっくり待とう。余裕をもって座っていた方が堂々として見えるかな。

 女性はおめかしとか色々あるしな。

 今日の夕飯でも考えながら、ゆっくりと水でも飲む。

 

 あ、美味しい。

 

 ……待つこと15分。

 お見合い相手である3人はパンツルックの凛々しい女性に連れられて入ってくる。


 「本日の進行を務めさせていただきます、日本少子化対策重婚法推進委員会第3課許嫁機関、通称【Naz機関】の椎名 麻衣子と申します。今後4人の皆様の許嫁、並びに結婚生活をサポートさせて頂きます。よろしくお願いいたします」


 恭しく綺麗に60度の角度で頭を下げる椎名さん。

 堂に入っているというかなんというか。


 頭をあげると人懐っこい笑みを浮かべ、

 

 「はい!それじゃまじめなのはここまで! この固い空気のままだと死んでしまうんで、かるく砕けた感じで行きましょうか!まぁこんなほどほどに美人の私のことなんてどうでもいいので、私よりきれいな3人を一人ずつご紹介いたしますね~」


 なんか急に軽い感じになった。

 というか自分で美人とか言うのなかなか勇気あるよね。

 でもそのおかげで緊張でがちがちだった空気も少し緩和された・


 「それじゃまずは一人目、一番左端に座っている宝生 紗耶香さん!名門宝生家の御令嬢で今は白百合学園で大学生をやっているわ、同時に関連会社の社長業もこなされているわ」 


 椎名さんが紹介した女性は紹介を受けると軽く会釈する。

 金髪のロングヘアをポニーテール上に編み込みまとめた、切れ長の美女っていう印象。

 その眦からは、強い彼女の意志を感じさせる。


 「宝生紗耶香です。よろしくお願いします」


 「よろしくお願いします!」

 

 最低限の挨拶って感じ。

 俺には興味がないのか、眼すらあわしてくれない。

 

 ……あぁ、確かに今時の男子が得意なタイプではないかもなぁ。

 今時の男子は、性格としては内気で、男を立ててくれるような女性を好むから。

 自立していそうな女性は確かにね。

 俺は自分の意見を持っていてとてもいいと思うけどなぁ。


 まぁ何が言いたいかって言うと、超綺麗ってこと。


 でも分かったこういう感じね。



 「んじゃ続いて! 橘 瑞麗みずりさん」

 

 

 制服を着た一人の女性が丁寧にお辞儀する。

 艶のある黒髪を肩位で斬りっぱなし風にして、アイロンで外はねにしてオイルか何かをつけている。


 印象的なのはその眼。

 同年代のはずなのに、その眼は暗く見える。

 表面上は笑顔で俺を見ているはずなのに、なにか違和感がある。

 まるで仮面をつけているような。

 ま、気のせいか。


 「橘さんは成績が超優秀で、それでいて君と同じ高校2年生。今度から同じ高校に行くことになるよ~」


 「橘瑞麗みずりです。よろしくお願いします!」

 

 鈴を転がすようなその声は、聴いていて心地がいい。

 この子が腹黒?全然そんな風に見えないけどな。


 「よろしくお願いします!」


 そしてこの子も俺には興味がないらしく、俺を見ているようで、目は俺の奥を見ている。

 なるほどなるほど。


 大変可愛い。

 

 「おー若さを感じるねぇ、んじゃあ最後秋月莉緒アキツキ リオさん。この中では1番年上ですね。恭弥様も通うことになる高校で教鞭を取られております」

 

 ただ椎名さんは気づいているのか、はたまたあえて気づいていないふりをしているのか、そのまま進行していく。

 

 最後、一番右端の女性。

 茶髪の髪をショートカットというか、ボブにして、丸眼鏡をかけている。


 「秋月 莉緒です。年上とは言ってもまだ22歳ですけど。高校で教職を取っております。これから末永いお付き合いになるかと思いますがよろしくお願いいたします」


 「よ、よろしくお願いいたします」


 この人が多分サディスティックな方か。

 今のところそんな様子はないけどなぁ。


 まぁ何が言いたいかというと大変な美人。

 結局みんな美人。


 「ま、そんなわけで3人のご紹介です。そしてこちらが武田 恭弥さん。皆様の旦那様となられるお方です。多分皆様が今まで出会ったことのないような方です。後はご自身でご判断ください」


 え?なんか俺の説明だけ変じゃね?

 これつまり、よく言えばユニーク、悪く言えば変な人ってことじゃない。


 「それでは最低限の自己紹介はここまでにして、あとは若い4人でお楽しみいただきます」


 椎名さんがにこりと笑いかけあっという間に退室していく。

 なんだよ若い4人て。

 この空気どうするわけ?


 しーんと静まり返ってるわけだが?

 でもそうだな、この結婚は絶対に成功させないといけない訳で。

 ってなると、俺が先導していくのがいいか。


 「あ――」


 「――あなたもどうせ婚約破棄するんでしょ?するなら早くしてね?長くなればなるほど時間の無駄だから」


 そんな風に宝生さんが口火を切ればーー


 「──私女の子の方が好きなのよね、だからあなたとは最低限しか関わらないから」


 と、秋月さんにはさっきと真逆のことをいわれ、しまいには。


 「──どうでもいいなぁ、だる」


 橘さんにまでと言われる始末。

 

 ふむふむなるほど、なるほど。

 はい?


 そのあとの空気。

 え?そりゃ地獄でしたよ。

 


 悲報。

 誰もうまくやろうとしていない件について。

 


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