第24話 爆破対象(ターゲット)

渋谷の飲食店。

秋葉原の飲食店。

横浜のショッピングモール。

だとしたら、標的は場所じゃない。

ならば、目的は特定の誰かの暗殺?

俺は死者のリストをめくる。

衆議院議員に。

参議院議員に。

あれ?

政府系の人間多くない?

国の中枢機関でも麻痺させるつもりか?

でも、死んでいるのって。

防衛大臣秘書官。

防衛大臣政務官。

防衛副大臣。

明らかに防衛省の人間に偏っている。

なんで防衛省ばかりなんだ?

偶々防衛省の人間が集まっていた所を狙われただけか?

いや、違う。

毎回誰かしら防衛省の人間が死んでいる。

だとすれば、爆破対象(ターゲット)は防衛省の人間。

でも、何で?

防衛省だけ狙う理由は?

個人的な恨みでもあったのか?

「防衛省事件」っと。

俺はパソコンで検索をかける。

えっと……税金の私的利用?

文書改ざん?

へえ、こんなのあったんだ……

全然知らなかった……

ん……防衛省に勤めていた人間が自殺?

どういうこと?

何か関係があるのか?

えっと……死んだのは2か月ほど前。

で、最初に爆破事件が起きたのも2か月ほど前。

ビンゴじゃん……

こいつが怨霊化したって考えて間違いなさそうだな。

そうと決まれば……後は行動するだけ。

俺は局長に電話をかける。

「あ、もしもし、局長、頼みたいことがあるんですけど。」

「欠君か?いいけど。何か気づいたのか?」

不思議そうに彼は尋ねる。

「爆破対象(ターゲット)は防衛省の人間かと思われます。この爆破事件が始まる前に防衛省の人間が一人死んでいます。今回の怨霊の正体はそいつの可能性が高い。ということで、今から防衛省に乗り込むのでアポ取ってください。」

俺は無理難題を吹っ掛ける。

いつもやられているお返しである。

これぐらいしてもらわないと困る。

「相変わらず、決まったら早いな。なんとも強引な。」

少し呆れたように彼は言う。

「これ以上犠牲者を出さないためですよ。それに、我々AAIは防衛省直轄の部隊。防衛省が壊滅してしまっては今後の活動に支障をきたします。」

俺は強い口調でそう言う。

「そうだな。君の言うとおりだ。すぐに行き給え。」

彼の許可が下りる。

「はい、ありがとうございます。」

俺は電話を切り防衛省へと向かった。


防衛省にて


「AAIです。調査に来ました。局長から連絡が来てるかと思います。」

俺は警備員に話しかける。

「いや、そんなのは今日の予定になかったが……」

「つい一時間前にアポを取ったばっかりなんでね。」

「いや、そんな急に来られても困るよ。」

彼が面倒くさそうにそう言う。

「死にたくなかったらさっさと調査をさせろ。その方が身のためだぞ。今回の連続爆破テロの爆破対象(ターゲット)はお前らなんだから。」

なかなか中に入れてもらえないので俺は脅してみる。

「何を言ってるんですか?」

彼は変人を見るような目でこちらを見る。

そうですよ。

どうせ俺は異端者ですよ。

自分では分かっているが、直接他人に言われるとムカつく。

「二か月前に自殺した人間が怨霊化してお前らを狙ってるの?」

俺はそう簡潔に説明する。

が、頑なに信じようとしない。

「いや、そんなことあるわけ……」

「死んだ人間のリストだ。毎回防衛省の関係者が死んでる。これを見てまだ言うか?」

俺は決定的証拠を突きつける。

これには文句は言えるまい。

「いえ、どうぞ、お通りください。」

そう言って彼は通してくれた。

しばらく待っていると部屋に案内された。

「わざわざお越しいただきありがとうございます、AAIさん。」

現職の防衛大臣が出てくる。

「いえ、仕事の一環ですので。それに普段から防衛省さんにはお世話になっておりますから。」

「それで本日はどのようなご用件で?」

彼は単刀直入に聞いてくる。

「二か月前に自殺した鬼灯影(ほおずきかげる)について聞きたい。」

「それは残念ながらできませんね。」

あからさまに顔を曇らせ彼は断る。

「どういうことだ?」

「彼のことを話すには重要機密案件を話さなければいけませんので。いくらAAIさんでもお話することは難しいのです。」

彼はそう言って情報を開示しようとしない。

命の危険より政治家としての名誉のほうが大事なのだろうか?

「組織的な隠蔽だからか?」

俺は探りを入れる。

「何をおっしゃいますか?」

彼は白を切る。

「予算の不正がばれないように文書の改ざんを鬼灯に指示した。が、彼は正義感が強くそうすることを拒み自殺した。違うか?」

俺は仮説を彼に話す。

「そこまで分かっているならどうしてここに?」

観念したのか彼は事実を認める。

「もっと詳細な情報を集めるためだ。」

「次に狙われる爆破対象(ターゲット)を見つけ護衛するためだ。」

「そうですか。」

「だから、関係者全員をリストアップしてくれ。」

「分かりました。ご協力しましょう。」

彼は素直にそう言う。

「ありがとうございます。」

コンコン。

ドアをノックする音がする。

「失礼します。」

そう言って一人の女が入ってきた。

秘書だろうか?

「お手紙が届いております。」

そう言って彼女はそれを差し出す。

彼はそれを受け取り、封筒を開けようとする。

そのとき急激な熱の上昇を感じた。

嫌な予感がする。

まさか、封を開けると爆発する爆弾?

「開けるな。」

俺はそう叫ぶ。

が、遅かった。

爆弾が爆発する。

辺りにすぐに引火し始める。

開けた本人はというと黒焦げになっていた。

遅かった……

まだ夕方だからと油断していた。

爆弾を仕掛けるぐらいならいつだってできるというのに。

「避難してください。」

俺はそう叫ぶ。

みんなが避難し終わったのを確認すると俺は武装を展開する。

「出でよ。ダウルダヴラ。」

白いハープが目の前に現れる。

「ニ長調 G線上のアリア。」

俺は弦をはじく。

すると複数の水泡が現れる。

やがてその大きな水泡が割れ、辺りに水が飛び散る。

火の勢いが段々と弱まる。

やがて完全に消える。

俺は黒焦げになった彼に近づく。

「ダ・カーポ。」

俺は回復術式を施す。

黒焦げだった皮膚が肌色へと変わっていく。

これで大丈夫だろう。

回復完了。

俺はさっさとその場を立ち去る。

グズグズしている時間はない。

かなり身分の高い人間まで狙われ始めている。

次の爆破対象(ターゲット)は誰か?

さっさと本体を見つけないと。

またさっきみたいになる。

防衛大臣を狙ったなら次は……

首相か……

俺は彼の現在地を調べる。

もうすぐ日が暮れる。

そうすれば奴は現れるだろう。

急がないと……

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