第22話 月城颯香6

一体何を見逃している?

昨日はなぜ場所を変えた?

偶々か?

いや、そんなはずはない。

怨霊が無差別に人を殺すなら堂々とたくさんの人間が集まるところでやるはずだ。

それに逃げる必要もない。

後もう一個ピースが埋まれば分かるのに……

でも、そんなことをすれば被害がまた増える。

それまでに阻止しなければならない。

そんなことを考えているとドアをノックする音が聞こえる。

「どうぞ。」

「失礼します。」

佐藤だった。

「何か用?」

俺は彼女にそう尋ねる。

「それが実は颯香さんがあんまり元気ない様子で……」

「それで?」

「今朝も3杯しかご飯を食べなくて……」

何言ってるんだ?こいつ。

正常、いや、十分元気だよな?

心の中で突っ込みを入れる。

「えっと……どこが元気ないんだ?聞いた限りだと十分元気だと思うが……」

「いつもはご飯5杯食べるのに最近は3杯しか食べないんです。」

えっと……異常なのか?

うん、そうだな。

考えないようにしよう。

そして、俺は無理やり自分を納得させる。

「それで様子がおかしいのはいつからだ?」

俺は心を無にして彼女に尋ねる。

「四日前、整備場から帰ってきたあとです。」

心当たりが一つ浮かぶ。

「そっか。ってことは、カーテナを使いこなせないのを気にしているのか?」

俺はそう尋ねる。

「そうですね。あの人、責任感の強い人ですから。」

案の定当たっていたようだ。

「そっか。それで俺にどうしろと?」

「デートしてあげてください。」

「は?」

聞き間違いだよな。

うん、絶対そうだ。

「ごめん、今なんて言った?」

俺は聞き返す。

「颯香さんとデートしてあげてください。」

おいおい……

遂に耳がおかしくなったみたいだ。

元から悪かったが幻覚まで聞こえるようになるとは……

「えっと……俺に月城とデートしろって言った?」

「はい。」

「これ何のドッキリ?」

俺はそう尋ねる。

「いえ、ドッキリではないですよ。」

彼女は至って真剣な様子で答える。

「佐藤が代わりに行ってくれない?」

俺はそうお願いする。

「ダメです。司令官じゃないと意味がありません。」

彼女にしては珍しくはっきりと断られる。

「何でだ?」

「司令官が来た日、颯香さん凄い楽しそうでしたから。私より司令官の方が効果あると思います。」

そんなわけあるか。

こんな研究以外何もやってない人間と一緒でなのが楽しいんだ?

俺には理解できない。

「そっか、でも今はそんな時間ないんだよな。」

「このままじゃ颯香さん戦闘に支障が出るかもしれません。」

そう彼女は言う。

脅してまで俺と月城をデートさせたいのだろうか?

「まあ、メンタルケアも司令官の仕事か。」

俺は渋々承諾する。

「はい。」

「それで月城は今どこにいる?」

「おそらく整備場かと。」

「分かった。」

「あと、これ、どうぞ。」

そう言って彼女は俺に何か差し出す。

何かのチケットのようだ。

「映画のチケットです。二人で使ってください。」

「分かった。ありがとう。」

そう言って俺は部屋を出ようとする。

「司令官颯香さんを頼みます……」

彼女が呟いた声は俺には聞こえなかった。


整備場にて


「風斬。」

縦方向の風の斬撃が放たれる。

そして、その斬撃は消え、再度現れる。

が、目標からそれる。

「はー。」

私はため息をつく。

練習を始めて5日目。

一向に上手くなる兆しがない。

今日は50回撃って当たったのは11回。

やっと2割ほどの命中率になったところだ。

成長しているのだろうがまだまだ到底実践で使えるレベルではない。

全然ダメだ。

そんな風に落ち込んでいると扉が開く音がする。

「お疲れ様。」

そう言いながら彼は近づいてくる。

司令官だった。

「お疲れ様です、司令官。」

「練習の方はどう?」

彼は心配そうにそう尋ねる。

「全然です。命中率が2割ほど。とても実践で使えるレベルではありません。」

「そっか。休憩しよっか?」

彼から驚きの言葉が発せられる。

私はもう見捨てられたということだろうか?

「まだできます。だから、その……見捨てないでください。」

私は強い口調でそう言う。

「俺に無茶するなって言っておいて自分だけ無茶するつもり?」

彼はそう言って私を説得する。

「いえ、無茶なんかじゃ……」

「佐藤が心配してたぞ。」

「瑠璃さんが……?」

「うん。」

彼はうなずく。

「そうですか。」

「これ、あいつからもらった。」

そう言って彼は映画のチケットを取り出す。

「そうですか。」

「だから、今から行くぞ。」

彼からまた驚きの言葉が発せられる。

「え……」

私は思わず動揺する。

「佐藤のほうがいいか?」

心配そうに彼はそう尋ねる。

「いえ、司令官と行きたいです。」

私ははっきりとそう宣言する。

「じゃあ、13時司令室ね。」

「分かりました。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る