第18話 漆黒の琴(ダウルダヴラ)

その夜、あるカップルが夜道を歩いていた。

「今日はありがとうね。連に久しぶりに会えて嬉しかった。」

女がそう言う。

「うん、俺も真奈に会えて嬉しかったよ。」

男がそう返す。

「もうすぐ着いちゃうね。」

女が少し悲しそうにそう言う。

「そうだね。もっと真奈と一緒に居たいな。」

男はそう言う。

「私も連とずっと一緒に居たいな。いつまでもずっと永遠に。」

女がそう言う。

「俺たちはずっと一緒だから安心して。死んでも一緒だよ。」

男がそう言う。

「はあ……」

別の男がため息をつく。

かなり大きな長いため息だ。

黒い髪。

赤い瞳。

その髪で左目は隠れている。

首には黒色のクローバーのネックレスがついている。

その容姿はどこか不気味なオーラを放っている。

「こんなところでイチャイチャしやがって……」

彼はそう続ける。

「お前何者だ?」

男は不気味に思って彼にそう尋ねる。

「そうか、覚えてないのかぁ?だったら、思い出させてやるよ!」

彼はそう叫ぶ。

「真奈、逃げろ!」

男はそう叫ぶ。

「出でよ、ダウルダブラ!」

漆黒のハープが現れる。

彼はそれを構える。

「ロ短調 ソナタ。」

彼が弦をはじく。

すると無数の弦が現れる。

男は女を守るためこちらに向かってくる。

殴りこみに来る気だろうか?

無駄なことを……

弦で傷つけられ、傷だらけになり、その場に倒れ込む。

まさかここまで切れ味がいいなんて思ってもいなかっただろう。

それもそうだ。だってこれは普通の糸じゃないんだから。

「あ……」

全身から赤いしぶきが飛び散る。

悲鳴を聞いて女がこちらを振り返る。

そこにあるのは無惨な光景だ。

現実が理解できず、その場に膝から崩れ落ちる。

彼は弦で彼女をとらえ、自分の近くへと引き寄せる。

そして彼女に話しかける。

「あああ、お前のせいで彼氏さんめちゃくちゃだぞ。命かけて助けようとしたのに捕まってこれじゃあ無駄死にだなぁ。ハハハ……」

俺は不気味に笑う。

「真奈を……放せ……」

男が残っている力を振り絞ってそう言う。

「あ……まだ生きてるんだ?まあ、そうだよなぁ。大事な人間残して死ねねえよなぁ……死んでもずっと一緒って約束したもんなぁ。」

彼は弦で女に傷をつけ始める。

最初は左手。

「あ……」

女が悲鳴をあげる。

「止めろ……!」

男がそう叫ぶ。

が、彼はそれでも止めない。

躊躇することはない。

一瞬の迷いもない。

彼はこの悲惨な状況を楽しんでいた。

だって他人が苦しむことより楽しい快楽はないから。

次は右足。

「あ……」

女がまた悲鳴をあげる。

「止めろ……!」

男がまたそう叫ぶ。

が、彼は続ける。

だって、これほど楽しいことはないから。

人が傷つく姿が……

絶望する姿が……

これほど見ていて楽しいものなんてない。

「次はちょっと派手に行こうか?」

彼はまた不気味に笑う。

「止めろ……!」

男はまたそう叫ぶ。

が、助ける体力など残っていない。

女は恐怖にもう声も出ない。

顔に幾重にも弦で傷をつける。

顔で囲碁ができそうなぐらい。

ぐちゃぐちゃに傷をつける。

「どうだぁ……気分はぁ?自分の大切な顔を無茶苦茶にされる気分はよぉ……以前の鬱憤が晴れていく……ああ……なんてすっきりするんだろう?……やっぱり自分がやられた分だけ辛さを味わわせているからかな……」

「私はいくらでも傷つけていいから連だけは助けて。」

女がそう言う。

「どうだぁ……あれだけ可愛かった顔がめちゃくちゃになる気分はよぉ?」

「屈辱ですよ。」

「なら、良かったぁ。」

「もう満足でしょ?連だけでも助けて。」

「止めろ。俺の代わりに真奈だけは助けてくれ。」

「そろそろ正体に気づいたか?」

「いや、分からない。」

「10年前。高1の頃、俺にしたこと、忘れたとは言わせねえぞ……」

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