第17話 プレリュード2

昔の記憶が蘇る。

あの日もこんな夜だった。

月がきれいな夜だった。

「来ないで。姉ちゃん、逃げて。」

そう彼が言う。

私はそれでも彼の元へ向かおうとする。

雷が落ちる。

やがて辺りは燃え始める。

炎に行く手を阻まれる。

段々と彼の姿は見えなくなる。

私はその場に立ち尽くす。

絶望と後悔がこみ上げて来る。

「危ないから離れてください。」

そのうちAAIが到着した。

無視していると巫女に私は強制的に連れていかれた。

そこから先はよく覚えていない。

ただ分かっているのは怨霊に私の弟は殺されたのだということだけだ。

「漣。」

その一言で我に返る。

辺りが水に覆われる。

爆弾が爆発する。

辺りが煙に包まれる。

あの子は助かったのだろうか?

段々と煙が消える。

視界がはっきりとして来る。

「お待たせしました。」

そう瑠璃が言った。

手に女の子を抱えている。

見たところケガはなさそうだった。

よかった……無事みたいだ。

私は心の中でそう呟く。

どうやら今回は間に合ったみたいだ。

あの時と違って。

「私もいるよ。」

蛍がそう言う。

「瑠璃、その子をお願い。」

そう言って私は怨霊の元へと向かう。

「了解。」

彼女はそう言う。

「流星。」

風の斬撃を放つ。

8方向からの3連撃、合計24発。

同時に剣を構えなおす。

そこから三連撃で切り刻む。

怨霊を構成する霊力が段々と消えていく。

やがて跡形もなく完全に消滅した。

「お疲れー。」

そう言いながらこちらへと蛍が近寄ってくる。

「うん、お疲れ様。これで初任務終了ですね。」

私はそう返す。

「そうですね。うまくいって何よりです。あとはこの子を送り届けるだけですね。」

瑠璃がそう言いながらこちらへと近寄ってくる。

「お姉ちゃんたち、ありがとう。」

女の子がそう言う。

「どういたしまして。」

私たちはそう答える。

「お疲れ様。これで初任務終わりだから各自撤退して。」

司令官から連絡が入る。

「お疲れ様です。分かりました。」

私はそう答える。

「撤退だそうです。」

私は二人にそう伝える。

「うん、さっさと帰って寝よ、もう眠たいわ。」

蛍がそう言う。

「私たちの仕事は基本夜間なんですからしっかりしてくださいよ。」

瑠璃がそう注意する。

私は少し苦笑いする。

この時間が永遠に続くように頑張らないと……

私はそう決心する。

「では、早く帰りましょうか。」

「うん。」

「はい。」

そう言って私たちは歩き出す。

今日の月はいつもよりきれいに見えた。

でも、どこか少し欠けた月だった。

「撤収完了しました。」

俺は局長にそう報告する。

「お疲れ。」

局長が珍しく素直にねぎらってくれる。

「それで初任務どうだった。」

彼がそう続ける。

「フェイズ2を一体処分しました。こちらの被害は0です。初めてにしては上出来です。上手く行き過ぎて逆に怖いぐらいです。」

俺はそう報告する。

「そうじゃなくて……」

彼が何か言いたげにそう話し始める。

「巫女たちとうまくやれたか聞いてるの。」

こういうところはマメだったりする。

いつも期待して無理難題押し付けてばかりなのに。

まあ、心配してくれるのはありがたいことではあるが。

「別にまあまあじゃないですか。」

俺はそう答える。

「何か悩みでもあるのか?」

彼がこちらのことを察したように聞いてくる。

こういうところはこの人鋭かったりする。

「別に大したことじゃないですよ。ただ人と関わるの久しぶりだったんで戸惑っているだけですよ。どう扱うべきか?」

俺はそう答える。

「そうか。普通の人間は信頼関係を使って人を操る。それを使ってろくでもないことをするクズもたくさんいる。でも、それだけが全てじゃない。別に信頼関係なんてなくても、いくらでも人を操る方法はあるさ。それに信頼関係があったとしても、そんなの簡単に壊れるんだから。君もそれはよく理解しているだろう。だから、君の好きなやり方でやればいい。」

彼はそう言う。

どこか彼の思考はひねくれていたりする。

なぜだろう?

共感するような……

理解できるような気がする。

俺にも彼と似たような経験があるのだろうか?

「そうですね。でも、あいにく俺はそんなクズどもが使うようなテクニックは持ち合わせていないんですよ。」

俺は反射的にそう答える。

まるで自分が経験したことがあるかのように。

それをよく知っているかのように。

「だったら、君の得意な方法でやればいいさ。精神操作系の薬でも作って操るのだっていいし。ほら、君が開発したのがあったでしょ。」

彼はなかなか残酷なことを提案してくる。

さすが研究者である。

頭のネジが何本か外れている。

2、3本?

いや、もっと多いか?

まあ、確かにあの薬を使えば意のままにコントロールできるかもしれないけど。

そんな方法はなるべく使いたくない。

「まあ、頑張ります。」

俺はそう答える。

「ああ、期待しているよ。」

彼はそう言う。

「はい、それでは今日はこの辺で失礼します。」

俺はそう言って電話を切ろうとする。

「お休み。」

「はい、お休みなさい、局長。」

俺は電話を切る。

ベッドに寝転がる。

着任二日目。

今日もいろいろあった。

この仕事、意外と精神を使う仕事だ。

一つの間違いも許されない判断。

現場の緊迫感。

研究者時代とは比べ物にならない。

純粋過ぎる俺がどこまで持つか?

「はー。」

俺はため息をつき、目を閉じる。

またいつものように現実から目をそらすために……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る