第13話 司令部2

俺たちは司令室へと向かう。

司令室。

少し楽しみである。

これなら立派な部屋がもらえそうだから。

研究室時代より待遇いいんじゃないか?

司令官になってよかったと初めて思った。

「すみません、いきなりお騒がせしてしまって……」

月城が申し訳なさそうにそう言う。

「いや、別に。それよりあの二人の実力は?」

俺はそう返す。

「私とあまり変わりませんよ。二人ともフェイズ9ですし。」

「それなら問題ない。仕事ができるならそれでいい。」

「そうですか。」

そんな風に彼女と話していると司令室に着いた。

「着きましたよ、ここです。」

彼女がそう言う。

俺は扉を開けて中に入る。

広い。

家具とかも一式そろっている。

それも随分高級そうなのが。

少し気分が高揚する。

「それではまた後でここに来ますのでそれまで荷物整理でもしていてください。」

彼女はそう言って部屋から出ていく。

「うん、分かった。」

寝室への扉を開ける。

すると、高級そうなベッドが目に付く。

いつも布団で寝てたから、ベッドとか初めてなんだよな。

気分がさらに高揚する。

夜が楽しみである。

俺は荷物整理を始める。

特技研と自宅から送った荷物が届いていた。

これとこれとこれはここで……

これはこっちに……

しばらくそんなことをしているとドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ。」

「失礼します。司令部内をこれから案内しますけど、今お時間よろしいでしょうか?」

月城がそう尋ねる。

「うん、だいたい終わったから。」

俺はそう返す。

「では、行きましょうか。」

「うん。」

俺はそう言って歩き出す。

するとまた彼女は俺の手を握ってくる。

「えっと……どこから行きましょうか?」

彼女は俺にそう尋ねる。

「そうだな……整備場かな。」

俺はそう答える。

「食堂じゃなくて?」

やはり食い意地が張っているみたいだ。

欲望が駄々漏れである。

「じゃあ、そうする?」

特に整備場から見る理由もないので、そう俺は提案する。

「いいんですか?」

赤色の瞳を輝かせて彼女はそう言う。

「うん。」

「では、行きましょう。」

彼女は上機嫌そうである。

「着きましたよ。」

いい匂いがする。

今日の晩御飯を作っているのだろう。

「あ、司令官に颯香さん。」

佐藤がこちらに気づいたのか、そう話しかける。

「どうも。」

俺はそっけなく答える。

「こんばんは、いい匂いですね、カレーですか?」

彼女がそう問いかける。

「そうです。よく分かりましたね。」

鼻がいいのか?

ただただ食べることが好きだからなのか?

彼女はいとも容易く今日の晩ご飯のメニューを当てた。

「案内中ですか?」

佐藤はそう聞いてくる。

「はい。これから、整備場に行くところです。」

月城がそう答える。

「そうですか。お腹が空いたとか言って途中で倒れないでくださいよ。」

佐藤から衝撃の事実が語られる。

と言っても、この数時間で月城は食べ物のことになるとポンコツになるのが分かったから、なんとなく想像できたが。

すぐに納得がいく。

「だ……大丈夫ですって……というか恥ずかしいからその話はしないでくださいよ。」

月城が珍しく顔を赤らめながらそう頼みこむ。

「だって、ご飯の前になったらいつも倒れ込むじゃないですか。」

が、佐藤はそのまま話を続ける。

「そうなのか?」

俺は聞き返す。

「はい、この人優秀なんですけど、食べ物のことになると途端に頼りなくなるんですよ。」

さらに彼女は続ける。

「そっか。」

「夜中に冷蔵庫の中のものをつまみ食いしますし。」

彼女がとどめをさす。

……子供かよ?

いや、子供でもそんなことしないよ。

この年齢でそんなことする人初めて聞いたよ。

「ちょっと……瑠璃さん……それ以上は止めて……」

月城の顔がさらに赤くなる。

「しっかり反省するんですよ。」

佐藤が怒り気味に彼女に注意する。

どうやら日頃の不満がたまっていたらしい。

まあ、北条は頼りにならなそうだし、彼女が管理することになるのは当然か。

「はい、もうつまみ食いしません。」

月城がはっきり宣言する。

「そう言っておきながら、いつもすぐにまたつまみ食いするんですから。」

佐藤が呆れたようにそう言う。

こいつらはずっとこのことに手を焼いているのだろう。

少し哀れに思えてくる。

「怨霊暴食。」

俺が思ったままそう呟く。

「いいですね。」

佐藤が賛同する。

「どこがいいんですか?」

月城が反対する。

「これから颯香さんがつまみ食いしたときは怨霊暴食が出たということにします。」

佐藤がそう勝手に決める。

「うん、そうしよう。」

俺も珍しくその場のノリに乗っかる。

「ちょっと……私そもそも怨霊じゃないですし、嫌ですよ。」

月城が不満そうにそう言う。

「いや、ピッタリだろ。怨霊って基本夜に活動するものだし。」

俺はそう言う。

「ちょっと……司令官まで……」

月城が困った顔でこちらを見る。

「決まりですね。呼ばれたくなかったらこれからは気を付けるんですよ。」

佐藤がそう言う。

「わ……分かりました。」

月城が渋々了承する。

「じゃあ、そろそろ行くね。」

そう言って月城を連れて食堂を出ようとする。

「はい、いってらっしゃいませ、司令官、それに暴食さん。」

佐藤がそう茶化す。

「ちょっと……私何もつまみ食いしてないですよ。」

月城が不満そうにそう抗議する。

「たまたま呼び間違えただけです。」

佐藤がそう言って白を切る。

いつもの仕返しだと言わんばかりに。

「……」

月城は何も言い返せず、そのまま出ていく。

俺はその後を追う。

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