第3話 変わらない日常1

「昨日夜、渋谷の飲食店で火災。」

気になったニュースが目に留まる。

最近多いな……

しかもずっと渋谷で。

そういえば初任務は渋谷だっけ?

もしかしてこの事件の調査とそれを引き起こしている怨霊の抹殺でもするのか?

そんな予感がする。

おそらく俺の推理は当たっているだろう。

ちなみに怨霊とは死んだ人間の負の感情の塊である。

成仏できずに未練が残った結果生まれる。

夜行性でこの世界に残してきた未練を果たすために動き回っている。

恨み、怒り、妬み。

そんな感情が彼らの原動力だ。

そして、彼らは霊力という力を持つ。

この世の現象を思うがままに歪める力だ。

こういった不審な事件は怨霊が絡んでいることが多い。

が、国は存在を隠す。

そして、我々、対怨霊部隊、通称AAIに怨霊を狩らせているのだ。

古来から不運な死に方をした人間は怨霊になって祟るとされた。

疫病、火災、落雷、飢饉。

これまでいろいろな方法で彼らは祟ってきた。

現代でも、首塚を取り壊そうとしたときに不可解な現象が起こったのは有名だろう。

が、非科学的だと怨霊の存在は隠蔽された。

実際存在するというのに。

もし、信じないというのなら、首塚を取り壊してみればいい。

信じていないくせに怖くてできないだろう。

だから、未だに残っている。

結局、いつまでこの現状を隠し通すつもりなのだろうか?

大規模な事件でも起きればいつか隠し通せなくなるというのに。

さっさと白状したほうがいいに決まっている。

こういうところは本当に馬鹿だと思う。

国の役人ってのは。

まあ、そんな霊的な話しても信じないだろうから隠すっていう言い分は分からないことはないのだけど……

が、科学的根拠はある。

ここ数十年ほどで、霊力を観測できるようになった。

ちなみに俺はもともとAAIの研究機関で働いていた。

が、司令官へと今日から配置転換させられることになった。

武器の革新的な改良などにより、その能力を買われたからである。

現場で指揮をとれば、たくさんの怨霊を祓えると思われているみたいだ。

確かに頭脳に自信はあるが、現場指揮はそれだけでは務まらないというのに。

怨霊と実際に戦う巫女とのコミュニケーションがとれなければいくら完璧な作戦でも無駄になるというのに……

ちなみに25年の人生の大半をボッチで過ごした俺にコミュニケーション能力など備わっているはずがない。

ましてや女など扱えるわけがないのである。

それにも関わらず、俺に寄せられる期待は大きかったりする。

物事には向き不向きがあるというのに。

そもそも研究者なんて頭のおかしなやつばかりなのだから、司令官になど向いていない。

だから、最初は断ったのだ。

が、結局俺は引き受けることにした。

何で引き受けたのか全く覚えていない。

なぜだろうか?

たまに記憶が抜け落ちることがあるのだ。

理由は全く分からない。

ただ、分かるのはとにかく記憶の欠落が多いこと。

気が付くと時間が進んでいることがよくある。

一体その間俺はどうなっているのだろうか?

まあ、確かに巫女を使って実験だってできるし、いいこともあるのだが……

果たして俺に務まるのだろうか?

引き受けた時には感じなかったそんな不安がわいてくる。

が、引き受けた以上は仕方ないのだから覚悟を決める。

朝ごはんを食べ終わると、荷物を準備して玄関へと向かう。

今日でこの家ともお別れだ。

司令部に引っ越すことになっている。

まあ、研究しかしていないので大した物はない。

「行ってきます……」

玄関に置かれた写真にそう呟いて家を出ようとする。

もちろん言葉は帰ってこない。

いつからかこの写真に話しかけるのが習慣になった。

いくら友人が居ないからってこんなことをするのは……

俺も自分でこんなことをしておきながら内心引いている。

が、なぜかいつもそうしてしまう。

まるで何らかの力が働いてるかのように。

そんな不思議な写真である。

7年前に撮った写真らしい。

「らしい」というのはこれも記憶がないからである。

スマホの写真履歴を見て分かった。

一人の男と一人の女が写っている。

黒髪、黒い瞳の幼そうな男。

黒髪のポニーテールに黒い瞳の女。

一体誰なのだろうか?

友達なのだろうか?

未だに分からない。

ただ分かるのはこの二人の人間が楽しそうだということ。

俺もその場に居たのだろうか?

この日は彼女らと一緒に楽しんだのだろうか?

そうだと……いいな……

この写真を見るとどこか懐かしい感じがする。

楽しかった気がする。

だから、この場に俺も居たのだろう。

そんな気がする。

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