第4話 変わらない日常2

歩いて駅へと向かい、電車に乗り込む。

「ねえ、昨日のテレビ見た?」

「見た、見た。面白かったよね。」

「そうそう、マジ最高だった。」

少し離れたところで女子高生たちが話している。

こちらまで聞こえてくるかなり大きな声だ。

「声量考えろよ。他の人に迷惑だろ。」と少しイラつきつつも、なぜかどこか羨ましかったりする。

俺もあんな馬鹿みたいに楽しい高校生活が送れたらよかったのに……

そう羨ましがってしまう自分がいる。

ほとんど高校時代の記憶は残っていないのになぜかそう感じる。

まるで俺が充実した高校生活を送ってなかったみたいに。

同時に妬みが湧いてくる。

死ね……

さっさと爆発しろ。このリア充どもが……

その時、変な感覚に襲われる。

一瞬立ち眩みを起こしたような……

またいつものやつか……

だんだんと妬みが増大する。

楽しそうにしやがって……

所詮人間なんて自分のことしか考えない。

そんな醜い生物だ。

他人を蹴落として……

騙して……

利用して……

幸せを手に入れる。

俺が失ったものだからだろうか?

ああいう景色を見るといつも心に穴が開いた気分になる。

心が晴れることはない。

結局今日も俺の心の中は雨だ。

ずっと降り続いている。

「止まない雨はない。」なんて言葉がある。

座右の銘にしている人間も多いんじゃないだろうか?

が、俺には分からない。

この言葉の一体どこがいいんだろう?

嫌いだ……

俺の中の雨はずっと降り続けて止まないから。

勝手に状況が好転するなら、努力なんていらないから。

それが本当なら今こんなに苦しまなくて済むから。

だから、嫌いだ……

そんなことを考えていると目的地に着いた。

改札を出て勤務先へと向かう。

対怨霊兵器特別技術研究所、通称特技研である。

今まで俺はここで巫女の使う武装や霊力の研究をしていた。

ちなみに霊力とは怨霊の持つ現実を歪めるための力のことである。

が、それを持つのは怨霊だけではない。

巫女もそれを持つ。

が、根本的に違うのは、武装を使って補っているということ。

怨霊は自ら霊力を持つ。

が、巫女は怨霊に比べて霊力が弱い。

だから、武装の霊力で補う必要があるというわけだ。

ゲートを専用キーで通って自分の研究室へと向かう。

途中数人とすれ違う。

が、交わす言葉はない。

俺には友達などと呼べる親しい間柄の人間など居ないのだから。

もうそんな人間は随分前に失ったから。

ここ10年程ずっと一人だ。

実験用具とペンとパソコンだけが俺の友達だ。

昔はどうにかしようと足掻いたこともあった。

そのたびに空回りして……

でも、待っているばかりじゃ何も変わらなくて……

だんだん虚しくなった。

俺は何のために頑張っているのだろうか?

今まで頑張ってきたことは無意味だったのだろうか?

いつの間にか分からなくなった。

だから、もうそんな無駄なことは止めた。

叶わない夢を願うならいっそ掠れた過去に縋りついたほうが気が楽だから。

あれだけ頑張っても報われなかったのだから。

昔は寂しさを感じたっけ?

誰かと一緒にいる楽しさを覚えていたっけ?

でも、最近はもう寂しいとすら感じなくなった。

それぐらいこの現状は当たり前になった。

一人でいるのが普通になった。

「おはよう。」

研究室に置いていた写真に話しかける。

さっき家に置いていたものとは違うものだ。

もちろん返事など帰ってこない。

一体俺はいつも何をしているのだろうか?

自分でもただのヤバいやつだということぐらい自覚している。

写真に話しかけるところとか。

自分の所有物を友達と主張するところとか。

でも、もう癖になって治らない。

まるで依存症であるかのように。

いや、正確には依存症かもしれない。

違う。

俺は過去に依存しきっているのだ。

忘れたくない思い出だから。

悪い夢だと思いたい。

忘れたい思い出だから。

もう二度と手に入ることのない時間だから。

そんなどうでもいいことを考えながら俺は荷物を整理する。

昨日までにある程度の荷物整理は終わっている。

いらないものは処分、必要なものは、次の勤務先の司令部へと既に運んでもらっている。

家にある荷物よりもこちらの方が多いのだ。

今日は自分で持っていくものの整理である。

誰にも見せたくない機密書類、それから私物を鞄の中に詰め込む。

さっきの写真立ても入れる。

7年も前のものを結局捨てきれずに持っている。

また神戸に戻ったら一人でここに行くのかな?

昔の思い出が頭から離れず、帰省するたび毎年その場所に行っている。

あいつと初めてデートした場所だ。

この機会だし、処分したほうがいいのでは?

そんな考えが頭の中をよぎる。

10分ほど悩んだ。

苦しんだ。

忘れたかった。

でも、忘れたくなかった。

結局捨てられず、持っていくことにした。

やっぱり忘れられないんだな……

それでも大切な思い出だから。

また変な感覚に襲われる。

立ち眩みがして……

あれ?

俺何してたんだっけ?

ここは?

いつの間に特技研に来たんだ?


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