第5話 局長

しばらくすると局長から呼び出しがかかった。

俺は局長室へと向かう。

ちなみに局長とはAAIの最高責任者である。

俺を特技研で雇ったのも、今回司令官に配置転換になったのも全部局長の判断によるものである。

ボッチな俺だが、実は局長からわりと信頼してもらっていたりする。

理由は分からない。

「失礼します。」

ドアをノックして中へ入る。

「おはよう、欠くん。」

「おはようございます、局長。」

リアルの人間に挨拶するのはいつぶりだろうか?

おそらく1か月ぶりか?

前回司令官への配属が決まったとき以来だろう。

いつも写真にしか話しかけていないから新鮮に感じる。

「それで今日から司令官になってもらうわけだけど準備の方はどう?」

彼はそう俺に尋ねる。

「心の準備がまだ……ちょっと……」

俺は不安げに返答する。

「大丈夫そうだね。」

そう言って彼は俺の言ったことを無視する。

「いや、話聞いてましたか?」

どう考えても大丈夫じゃないって言ってるように聞こえるだろ。

そうだよね?ね?

心の中で突っ込みを入れる。

「まあ、そんなこと言いつつも君ならいつものようにどうにかしてくれると私は信じているからね。君なら大丈夫だろ、欠君。」

相変わらずこちらのことを信頼しているかのように話す。

「だったら、いちいち聞かないでください。」

俺は少し怒ったように返す。

「それより君に位を授けたいんだが…」

彼はそう切り出す。

「少佐とかですか?」

俺は妥当と思われる階級を口にする。

「いや、特位だ。」

元帥、大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐……

頭の中で位を思い浮かべる。

が、そんな位聞いたことない。

「そんな階級ありましたっけ?」

俺は訳が分からず聞き返す。

「君のために作った。一番上の位だ。大老的なポジションだよ。」

そういうことか。

俺の中で納得がいく。

特技研のときも特別扱いだったしな……

おかげで莫大な研究資金が出て助かっていた。

今回も特別待遇か?

それなら、またいろいろと助かるだろう。

俺は局長に感謝する。

「そんな簡単に特別扱いして大丈夫ですか?俺いつか誰かの恨み買って死にません?」

俺は毎回毎回特別扱いしてくれることを気にしてそう尋ねる。

「君なら大丈夫だろう。」

全く心配されていない。

確かに俺の技術ならこの世界の人間全員相手するのも可能だけど……

少しは心配して欲しいものだ。

「まあ、そうかもしれませんけど。」

俺はかろうじて肯定する。

「よ、さすが世界一の研究者!」

局長が調子に乗って俺をいじり始める。

おだてているのか?

「……」

こういうのは無視するのが賢明である。

別に否定しないといけないことではないので放置する。

「それじゃあ今日の昼から頑張って。」

局長が諦めたようにそう言う。

少し残念そうにしている。

人をいじって楽しもうとするからこうなるのである。

自業自得だと俺は自分に言い聞かせる。

まあ、彼のいじりは悪質ではないし、あいつらに比べれば随分マシな方だが……

いや、悪意はあるか?

有罪だ。

「分かりました。ご期待に沿えるよう日々精進致します。」

俺は改まってそう答える。

「あ、そうだ。忘れてた。君の担当する司令部の子たちの資料だ。」

思い出したように彼が資料を渡してくる。

俺が前々から頼んでいたものだ。

いじっている暇があったらさっさと渡せよ。

優先順位おかしいだろ。

俺は内心ぶちぎれる。

一番重要なものである。

自分の戦力を知るために。

それによって今後の戦い方が決まってくるかもしれないのだ。

「フェイズ9が3人ですか。」

俺はそう尋ねる。

ちなみにフェイズとは強さを表す指標である。

霊力の量を元に決められている。

霊力には正と負があり、5より大きいと正、5より小さいと負である。

一般人は全員フェイズ5である。

巫女は正の霊力を持ちフェイズ6、フェイズ7、フェイズ8、フェイズ9、フェイズ10と数値が増えるにつれて強くなる。

逆に怨霊はフェイズ4、フェイズ3、フェイズ2、フェイズ1、フェイズ0と数字が減るにつれて強くなる。

ちなみに数字1の差で10倍霊力の量が違う。

「そうだね。」

「そこそこの戦力ですね。でも、一体いつになったらフェイズ10は完成するんですかね。怨霊の方はフェイズ0が4体も存在するというのに。」

俺はため息交じりにそんなことを言ってみる。

実際怨霊の方が圧倒的に強いものが多かったりする。

巫女側がかなり苦戦を強いられているのも事実だ。

「そこは君が頑張るところだろ。」

また、彼はいつものように無理難題を押し付けてくる。

期待されているのは嬉しいのだが、本当に困ったものだ。

その分責任重大なのだから。

「まあ、そうですけど、俺の改良したブースターは効果が強すぎて人格が壊れるんですよね。理性のない巫女なんて怨霊と何も変わらないですから。」

俺はそう彼に伝える。

「君なら何とかできるだろう。」

相変わらずこの人は他人任せだ。

これでよく局長の座が務まるなあと不思議に思う。

まあでも仕事はできるらしい。

そうでなければ局長は務まらないだろう。

「まあ、善処します。」

俺はそう言って逃げる。

「じゃあ、健闘を祈る。ちなみに初任務は渋谷だ。」

前にも聞いた話だ。

彼がわざわざうちの初陣のために取ってくれていた任務だったりする。

「また後で情報ください。おそらくフェイズ2なんで実力を測るのにはちょうどいいんじゃないですか?」

「失礼します。」

そう言って俺は局長室から立ち去った。

「さて、どこまで凄いものを見せてくれるかな。」

彼はそう不気味に呟いた。


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