第6話 月城颯香1
それから昼になった。
近くのコンビニで買ったパンをつまみながら、パソコンをいじり研究を進める。
食べ終わるとまとめた荷物を持って俺は研究室を後にする。
この研究室ともお別れか……
愛着があったので少し寂しさを感じる。
こんな気分になるのは何年ぶりだろうか?
かなり久しぶりな気がする。
そんなことを感じながら、俺は駅へ向かう。
駅で待ち合わせをしているのだ
俺の指揮する部隊の巫女たちのうちの一人が迎えにきてくれる予定だ。
まだ待ち合わせの時間の10分前。
少し早く来過ぎただろうか?
俺はいつも待ち合わせは10分前に到着するようにしている。
自分でもわりと早い方だと思う。
まあ、他人を待たせるのはよくないと思って。
昔からこんな俺に付き合ってくれる人間なんていなかったから誰かと遊びに行くときはいつも早めに行くようにしていた。
それが習慣になって抜けていないのだ。
しばらく待っていると辺りがざわつき出す。
「誰、あの美人?」
「モデルさんかな?」
「足なっが……」
「きれい……」
周りの注目を集めている人間が居る。
長身の女だった。
それもかなりの美人である。
芸能人かな?
変装した方がいいんじゃないですか?
目立ちすぎですよ。
そんな突っ込みを心の中で入れる。
するとなぜか彼女はこちらへ向かってくる。
えっと……まさか……
そんなわけないよな。
俺は動揺する。
これが怨霊と戦う人間なのかと思うぐらいきれいな人だった。
長いきれいな黒髪。
おそらく手入れが大変だろう。
それもこんなにきれいに保つとなると。
きれいな赤い瞳。
白のブラウスに赤のロングスカート。
5センチほどのヒール。
服の隙間から見える痣一つないきれいな肌。
いかにも清楚系という感じの彼女にすぐに心を奪われる。
こんな気持ちになったのは何年ぶりだろうか?
「お待たせしました。十六夜欠特位ですか?」
きれいな紅色の唇が上下に分かれ、彼女はそう俺に問いかける。
「そうだけど。」
俺はさきほどの動揺を悟られないようそっけなく答える。
「お迎えに参りました。月城颯香(つきしろそよか)です。これからよろしくお願いします。」
彼女はそう名乗った。
礼儀正しそうな人物で少し安心した。
変に距離感近いギャルとか来られても嫌だし。
正直そう言うタイプは苦手だったりする。
「えっと……人違いでは?」
俺は信じられずそう尋ねる。
「いえ、あってますよ。」
そう言いながら彼女は社員証を取り出す。
フェイズ9。月城颯香。
AAIの人間だ。
どうやら人違いではなかったらしい。
「そうみたいだな……これからよろしく……」
俺は掠れた息混じりの声で返す。
「その……一つ寄りたい場所があるのですが……いいですか?」
彼女が控えめに俺に聞いてくる。
言いずらそうだ。
まあ、せっかく渋谷まで来ているわけだ。
行きたいところの一つや二つぐらいあるだろう。
ちょっと早めに集合したし、多少の寄り道は問題ないだろう。
それにここでダメと言って関係を悪化させてもいけない。
これからの業務に支障が出るかもしれない。
女の扱いはただでさえ下手クソなのだから。
少しでも好感度を上げておく必要がある。
「別に、いいけど。」
だから、俺はそう答える。
本当は早く司令部に行って研究の続きをしたいのだが……
今はそれよりこっちの方が大事だ。
これも仕事の一環だ。
そう自分に言い聞かせる。
「ありがとうございます。では、行きましょう。」
そう言って彼女は俺の手を取って歩き出す。
突然のことに俺の頭の中はパニックになる。
どういうこと?
これもスキンシップの範囲内?
この子見た目に反して距離感近すぎる子なの?
彼女にとってこれぐらい普通で何ともないの?
いや、そんなことはない。
ここは渋谷だ。
大都会のど真ん中である。
これはきっとはぐれないようにつないでいるだけだ。
そう自分に言い聞かせる。
期待する気分を抑えながら。
そういえば手をつなぐのなんていつ以来だっけ?
また変な感覚に襲われる。
立ち眩みが俺を襲う。
7年前の記憶が頭の中で蘇る。
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