第11話 月城颯香4
二人で路地から抜け出そうとする。が……
「待ちな、そこの姉ちゃんたち。」
大柄な、いかつい男がこちらに話しかけてきた。
不良だろうか?
厄介な人間に絡まれたものだ。
俺がこんなところでぐずぐずしていたから……
そのことを少し後悔する。
「何ですか?」
彼女がそう聞く。
「有り金あるだけ置いていきな。通行料だ。ここは俺らの縄張りなんだから。」
男はそう答える。
「お断りします。」
彼女はきっぱりと断る。
「じゃあ、実力行使と行こうか。」
すると他に男が7人出てきた。
他の道は……
俺は塞がれていない道を探すが、そんな都合のいいものはない。
全部彼らに塞がれている。
彼らを返り討ちにしてここから出るしかないだろう。
「きれいな子だね。ねえ、お姉ちゃん、そんな冴えない男より俺たちと遊ばない?そんなやつより、きっと俺たちと遊んだほうが楽しいよ。」
「確かにきれいな子だな。彼氏どう考えても不釣り合いじゃね?」
「そうそう、そんな根暗そうなやつと絡むの止めとけよ。」
男たちのうちの数人がそう言う。
まあ、正論である。
俺みたいな人間じゃ彼女には不釣り合いだろう。
そんなこと分かっている。
嫌というほど昔教えられた気がする。
理解させられた気がする。
「お断りします。それから、彼のことを悪くいうのはやめてください。」
彼女は怒った口調でそう言う。
「そんなやつのどこがいいの?」
男のうちの一人がそう言う。
「もういいです。黙ってください。」
彼女はそう不満そうに言う。
「月城、大丈夫か?」
俺は彼女にそう尋ねる。
「これぐらい余裕です。」
彼女は自信満々に答える。
本当か?
今は剣を持っていない。
剣を使わない戦闘には慣れていないはず。
「でも武装は使えないぞ。」
俺は念押しして彼女に尋ねる。
「分かっていますよ。それより欠さんは大丈夫ですか?」
相変わらず彼女は余裕そうだ。
人の心配ができるぐらいには。
馬鹿すぎて今のヤバい状況に気づいていないなんてことはないよな。
そんな考えたくもない可能性が浮かんでくる。
まあ、あり得るか?
「大丈夫だ。護身術ぐらい身につけている。だから、自分のことに集中してくれ。」
俺はそう答える。
まあ、いざとなったらあれを使えばいいし。
「分かりました。」
彼女はそう言って戦闘態勢に入る。
「おとなしく金だけ置いていけば傷つけなくて済むんだけどな。」
男が残念そうに言う。
最後通告ということだろう。
「傷つくのはあなたたちの方です。」
そう彼女は強気に言い放つ。
「女に傷をつけるのは趣味じゃないんだがな……」
そう言いながら男たちのうちの一人が彼女目掛けて殴り掛かってきた。が……
「甘いです。」
男はひらりと中を舞い、地面に叩きつけられる。
顔つきが変わった。
さっきパフェを食べていたときは可愛かった顔が、今は凛々しく、そしてかっこよく見える。
まるで別人のようだ。
さすがに戦いなれているみたいだ。
さすが巫女といったところか。
それから、さっきのことでだいぶ頭に来ていることもあるだろう。
「……あの女ヤバくないですか?」
一人の男が怯えながらそう言う。
「そうですよ。止めときましょうよ。」
もう一人の男も賛同する。
まあ、あんな女とは思えない動きしたらそうなるよな。
彼らの判断は間違っていない。
洞察力はいいのだろう。
「いいから取り押さえろ。お前ら女の一人も捕まえられないのか?」
「わ……分かりました。」
愚かな判断だ。
プライドと感情だけでの判断だろう。
状況が理解できていない。
男たちが一斉に殴りかかってきた。
が、次々と男たちをなぎ倒していく。
あの動きの速さ、体の使い方、まずまずってところか。
というかヒールでよくあの動きができるな……
その点を考慮すると実際の戦闘力はもっと上か……
格闘戦は慣れていないんじゃないかと心配したが、杞憂だった。
俺が助けに入るまでもなかった。
結局一人でリーダーっぽい人以外全員ボコボコにしてしまった。
その辺にみんな倒れ込んでいる。
「あ……その……お……俺が悪かった。許してくれ……」
そう言って男は土下座した。
明らかに怯えている。
こんないかつい顔の人間でも恐怖って感じるものなんだな。
そう俺は若干驚く。
が、そんなのは無視して、容赦なく彼女は頭を蹴り飛ばしていた。
ヒールだし尖ってて痛そう……
心の中で俺はそう呟いた。
実際頭から出血している。
「お怪我はないですか?」
凛としてかっこよかった顔に可愛さときれいさが戻る。
これ男だったら惚れない女いないだろうな。
ちなみに俺は一瞬で惚れた。
「いや、別に、問題ない。それにしても格闘戦もできたんだね。」
俺はそう答える。
「はい、剣がなくなったら、戦えませんじゃ困りますから。」
彼女はそう答える。
「そっか。すごいな。」
柄でもない言葉が口から出る。
なぜだろう?
よくわからない。
「やったー!欠さん初めて褒めてくれました。」
今にも舞い上がりそうなぐらい喜んでいる。
まるで子供に戻ったみたいにはしゃいでいる。
そんなに喜ぶことなのだろうか?
不思議に思いつつも触れないことにする。
「その……時間大丈夫なのか?」
俺はふとそんなことが気になる。
あれからだいぶ寄り道をしてしまっている。
「あ……」
腕時計を見て、思い出したようにさっきまで明るかった表情が一気に暗くなる。
日食でも起こったかのようにどんどん暗くなっていく。
「到着予定時刻より一時間以上過ぎてます……申し訳ありません……」
彼女はそう言って謝罪する。
「いや、別に問題ないよ。だって久しぶりに楽しかったし。」
俺はそう答える。
思わず本音が漏れる。
少し彼女の表情が明るくなる。
「本当ですか?」
「うん、本当。」
「ならよかったです。」
「それで……司令部までの道案内よろしく。」
「はい、任せてください。」
そう言って再び彼女が俺の手を握る。
その手のぬくもりが心地よかった。
どこか懐かしいような、そして初めてのような気もした。
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