第9話 月城颯香2

「どうなさいましたか?」

月城がそう尋ねる。

この女誰?

「何でもない……」

俺は平常を装い、そう答える。

「また体調悪くなったんですか?」

彼女は心配そうにそう尋ねる。

「いや、平気……」

俺がそう答えると彼女はスプーンを差し出してくる。

まるで何もなかったかのように。

「それじゃあ、はい、あーん。」

「自分で食べられる……」

俺はそっけなく答える。

一体こいつは何してるんだか……?

「そうですか……」

少し残念そうに彼女は答える。

意外とあっさりと身を引くんだな。

あいつと違って。

少し名残惜しい気がする。

ってダメダメ。

また信じたら。

ああなるのが分かっているのに。

俺はマンゴーパフェを食べ始める。

「そういえば何とお呼びすればいいかまだ聞いてませんでしたね。」

彼女がチョコパフェを食べながら、俺に話しかけてきた。

「仕事中は司令官で、プライベートはお好きにどうぞ。」

俺はそっけなく答える。

どうせ今後プライベートで関わることなどほとんどないのだから。

「じゃあ、欠さんとお呼びしますね。」

「……別に、いいけど……」

いきなり距離の詰め方がおかしい。

思うところはあったが勝手にすればいい。

いちいち拒否するのが面倒だ。

「欠さんは司令官になる前は何をされていたんですか?」

彼女はそう聞いてくる。

「経歴ぐらいデータベースを調べればいいだろ。調べてないの?」

俺はそっけなくそう言う。

「……いえ、調べました。」

いきなり強い口調で言われ戸惑っているように見えた。

いい気味だぜ。

やっぱり人が苦しむ姿は最高だな……

ハハハ……

心の中で俺は不気味に笑う。

「だったら、いちいち聞く必要ないだろ。」

俺は追い打ちをかける。

「すみません……」

彼女はしばらく黙る。

急に慣れ慣れしくするからそうなるんだよ。

自業自得だ。

そう俺は心の中であざけ笑う。

が、しばらくするとまた話し始める。

懲りないやつだな……

「でも、研究機関ってすごいですね。」

本当にこいつはそう思っているのだろうか?

そんな意地悪な疑問がわく。

「お世辞はいいから。」

また思わず強い口調が出てしまう。

何だろう。やはりもう昔みたいに人を信じていないのだろう。

まあ、あれだけのことがあって信じてたらそれはそれで異常だな。

「別にお世辞じゃないですよ。私、学生時代勉強はいまいちでしたし。」

何もなかったかのように彼女はそう俺に返す。

気づいてないのか?

それとも、触れない方がいいと判断したのか?

どちらか分からないが、どうでもいい。

「じゃあ、新装備とか作れるんですか?」

彼女は興味がありそうに俺に尋ねる。

「まあ、だいたいのものは作れる。」

俺はそう答える。

「ちなみに魔剣とか作れたりしますか?」

彼女がそう聞いてくる。

そう言えば資料に風の剣を使ってるって書いてあった。

確か以前フェイズ10用の装備を作れって依頼されたときに作ったものがあったはず。

「空間操作つきの剣とかあるけど。」

俺は記憶をたどってそう答える。

ちょうどいい。

研究に利用してやればいい。

座標演算のデータが欲しかったのだ。

まあ、こいつに使いこなせるとは思わんが……

「何ですか?それ?」

ますます興味深そうに俺に聞いてくる。

「カーテナっていうんだけど、空間操作(テレポート)の応用で……4次元座標演算を元に理論を組み立ててる……」

「使ってみたいです!」

彼女がそう宣言する。

「フェイズ9であってる?」

俺はそう尋ねる。

「はい。ってなんでご存知なんですか?」

彼女は不思議そうにそう聞いてくる。

「来る前にうちの司令部配属の子のデータにはある程度目を通した。」

俺はそう答える。

「本当に勉強熱心なんですね。」

本心なのかお世辞か分からないがまた彼女が褒めてくる。

「ある程度勉強しておかないと作戦組む時に不便だし。」

「そうですか。頼りにしています。」

「……」

「まあ、フェイズ9ならなんとか扱えるか……向こう行ったら実験するか。」

俺は彼女にそう提案する。

「はい!」

なぜか凄いやる気である。

そもそも俺の作った装備はフェイズ10用だから使えても3割ぐらいの機能だろうに……

テレズマ足りなくて起動しないとかいう落ちは止めてくれよ……

「その……そろそろパフェ交換しませんか?」

彼女が俺にそう提案する。

マンゴーパフェを食べたそうにこちらを見ている。

「別に、いいけど、はい。」

そう言ってマンゴーパフェを彼女の方へ移動させる。

「ありがとうございます。」

そう言って彼女もチョコパフェを俺の方へ移動させる。

俺はチョコパフェを食べようとする。

そして致命的なミスに気づく。

よくよく考えればこれっていわゆる間接キスだよな……

まあ、意識しなければ問題ない。

よね?

俺は何もなかったように食べようとする。

が、どうしても意識せずにはいられない。

甘く考えていた自分を殴りたかった。

何せ清楚系美少女の食べさしだ。

緊張しないわけがない。

何で彼女は何もなかったかのように平然と食べられるんだ?

訳が分からない。

普段怨霊と戦っていると想定外の事態が起きることも多く慣れているのだろうか?

どうでもいい仮説にたどり着いたが、そんなのは全く役に立たない。

昔、あいつと何回もやっただろ。

それに比べればマシだ。

とりあえずここで食べないのはこちらが意識しているみたいで嫌なので、頑張って食べ進める。

それでも頬は赤くなるものである。

「欠さん、さっきから顔赤くないですか?体調でも悪いんですか?」

おまえのせいだっつうの……

そんなことをおもわず言いたくなったが抑え込んで白を切り通す。

「気のせいだろ?」

「そうですか?それならいいのですが…」

結局彼女はそれ以降追及してくることはなかった。

パフェを食べ終わって彼女と店を出る。

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